侍女、行動開始
「隊長はご在中ですか?」
一分一秒が惜しい。許可は後でもらう。私はすぐさま衛兵の詰め所へ行った。
私の顔は知られているので、すぐに隊長との目通りが叶う。
「どうされました?」
衛兵隊長が不思議そうに、だが笑みを絶やさず私の元に来て話しかけた。いちいち遠回しに言う必要など、もうどこにもない。私は衛兵隊長の目を見て、キッパリと言った。
「セーラ姫さまが、お一人で城外へ出られました。一緒に捜していただきたいのです」
え?とその場の空気が一瞬にして変わったのが分かる。
「置き手紙もありませんから、家出か、遠出でいらっしゃるのかは分かりません。しかし、だいぶ日も傾いてきていますから、急いでください」
「ちょ、ちょっとお待ちください、マリア殿、どういうことですか?」
「姫様のお召し物は、お城を出られたときのままであるなら、モスグリーンのシャツに、ライムライトのエプロンスカートをはいてらっしゃいます。私はこれから、国王陛下にご報告に参ります」
自分の言いたいことだけを言って、その場を去ろうとする。
時間がもったいない。
「お待ちください、マリア殿!おっしゃっておられることがよく分かりません!」
必要事項はすべて言ったと思うが…。
まあ、みんなの憧れ、マドンナ、目の保養、見かけただけで1週間はハッピー気分でいられる、あのおっとりさんがする行動でないことだけは確かだから、みんなの頭が回らないこともいたしかたないか。
「セーラ姫さまが城内にいらっしゃらないのです。有力な目撃証言もありますから、おそらく、ご自身の意思で城外へ行かれたものと思います。あ、そうでした、もしかしたら何かしらのフードを被っておられるやもしれません。色は…、申し訳ございません。聞いてくるのを忘れてしまいました。後でお伝えしますわ」
「いえ、結構。その証言者をお教えください」
頭の回転の速い衛兵隊長はそれだけですべてを察してくれたようだ。なぜいらっしゃらないのか、どうしてそんなことになっているのかなどいちいち聞いてこない。有り難い人材だ。
その言葉に私は一瞬考えた。確かに聞きにいってもらった方が早い。だが、見ていたのに止めなかった、あのロビーという青年が、罰を受けるのではないかとも思った。
「その方に罰を与えたりしないと確実にお約束くださるのなら。その方のおかげで、姫さまの行方の一端が見えたのです。ましてやその方は、姫さまを間近に見られたことはありません」
「もちろん、そんなことは致しません」
「信頼、いたしますわ」
私はそう言って、笑顔をつくった。その場の空気が一瞬変わった。
悪かったわね。いつもあんまり笑う女じゃなくて。嫌味のようだ。確かに淑女と言えば、いつもにっこり笑顔で応対、本心なんて見せやしないわ、と言うのが普通である。
だからといって、あからさまに空気を変えるのはやめて欲しい。いつも無表情の石膏像が笑ったんじゃないんだから。