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ざっくり侍女の忠義模様  作者: 新井 夏
2/8

姫さま、計画的犯行

「あら、マリア様どうなさったのです?」

 もうなじみになった下働きの女中さん達が、私を見て気さくに声をかけてくる。すでに気心が知れているので、私は挨拶もそこそこに、単刀直入に聞いた。

「金髪の貴人らしき人を、この辺りで見かけませんでしたか?」

「金髪の貴人ですか?おとついくらいに食堂裏でセルラー男爵が下働きのアンと逢い引きしてましたけど…」

「私、昨日の昼、ヤーハット前伯爵夫人が、近衛の愛人と逢い引きしてるのを庭園で見かけました」

「その愛人の近衛、昨日の夕方、マルセル子爵令嬢と庭に続く廊下の柱で仲良くされてましたよ」

「私、その近衛、第3王女の侍女と2階の倉庫近くで今朝見た」

 下働きをなめるべからず。ほっておいたらどこまでも出てきそうなやんごとない情報に、私は待ったをかけた。

「今から2時間以内で、若い女性です」

「若い女性、ですか?」

 そこに居た人物で、そんな女性を見た人は居ないらしい。首を傾げるものばかりだ。

「だれかー!ここ1-2時間で、この辺りで若い貴族の女性を見た人いないかーい?!」

 女中の一人が、まわりに大きく声をかける。

「それか、人が入っているぐらいの大きな荷物を担いだ人とか」

 それを私が補足するように少し大きめの声で言う。

 それを聞いた女中の一人が、怪訝そうに、眉を寄せる。

「なんだか、物騒な話ですね」

 私は苦笑して、たいしたことなさそうに答えた。

「ちょっと、さる人物が行方不明なんです」

「行方不明??!!」

 その場にいた女中&小間使いの者皆が声を揃えて叫ぶ。

 金髪、女性、貴人。

 名前は出さずとも、私が言うのだ。連想ゲームは子供でも分かる。

「そんな!一大事じゃないですか」

「そんな悠長に構えてらして、いいんですか!」

「どうして!」

「どうして!!」

「どうして!!!」

 一斉に詰め寄られて、私は一歩後ろに下がった。それにつられて皆は一歩前進してくる。壁際まで追い込まれて、ようやく私は口を開いた。

「ですから、ここに来たんです。ここは王宮内で一番雑多なところです。決してあってはならないことですが、もしも誘拐、拉致されたとなれば、ここからでていく可能性が一番高い。人が隠れるくらいの大きな荷物や、それらしき人物を連れた人はここに来ていませんか?」

「荷物は、そんなのしょっちゅうだし…」

「美人なら絶対目に付くだろうし…」

 ちなみに、セーラ姫は美人で誉高い。どんな人物かというと、金髪、碧眼、容姿端麗、頭の回転は速く、微笑めば老若男女悩殺間違いなし☆のまさしく姫の中の姫といわれ、の近隣諸国はもちろんのこと、遠い異国にまでその名の知られる姫君なのである。

 御歳15歳。

 だが、いい家のお嬢様らしく、おっとりさんで、自ら行動すると言うことはほとんどと言ってない。まあ、はっきり言えば捕まえやすいと言えば捕まえやすい。

「あの…」

 遠慮がちに声をかけてきた青年がいた。

 歳はまだ20歳前だろうか。そばかすを顔いっぱいに付けて、とても健康そうな青年である。

「何かご存じですか?」

 私は笑顔を作って顔を青年の方へ向ける。青年はまっすぐに見られたことが恥ずかしいのか、少し顔を赤らめた。

「実はフードを被っておられたので、ちらりと髪の毛が見えただけなのですが、とても美しい金髪で、物腰がとても柔らかで、印象に残っている人物がいます」

「どこで、いつごろ?」

皆がその青年に集中する。

「2時間くらい前だったと思うのですが、でも!」

そう言って、青年は言いよどんだ。

「でもなんなんだい!さっさといいな!ロビー!」

 年配の女中さんに言い寄られ、ロビーという名の青年は顔をわずかばかり青くした。

「服だって普通の庶民のものだったし、無理矢理連れて行かれてるってわけじゃなかった!」

「一人だったのかい?」

「ううん。八百屋のベニールおじさんと一緒だった。と言うか、荷車の後ろに手をかけて、一緒に歩いてた」

「ベニールと?ベニールはいつも一人か、息子と来てるはずだよ?」

「知ってるよ。でも今日は娘さんなのかと思って」

「ンなわけないだろ!ベニールに娘はいないよ!」

 二人が言い争いを始めようとしたときに、私は思い当たることがあって二人の言葉を遮った。

「待ってください。ロビーさん、その金髪の女性の服装は、モスグリーンのシャツに、ライムライトのエプロンスカートをはいていませんでしたか?」

「そう、そうです!マリア様!」

 助け舟が入ったとばかりに青年は大きく頷き、反対に私は「ああ…」と一瞬視線をさまよわせた。

そして、

「ありがとうございました。これ以上はもう結構です。お邪魔してすみませんでした。お仕事続けてください。ごきげんよう、皆様。」

 これ以上、協力は入らないと告げ、私はめずらしく駆け足でその場を去った。

「姫さまなのかい?」

「どうなんだろう?」

「とりあえず、誰かベニールのところに行って、確かめといでよ」

「ベニールの家ってどこ?」

「私、知ってます」

「じゃあ、今すぐ行っといで」

「はい」

 こんなにもみんながマリアに協力的なのは、探し人が姫君だからというわけではない。マリアは侯爵家の娘でありながら、下働きの者達を見下すこともなく、威張りちらすこともなく、対等に付き合うからだ。それはマリアの言葉遣いから、態度まできっちり出ている。そんな高貴な身分にはめずらしいマリアがみんな大好きだった。


 王宮内で走ることなどほとんどない。

 昔鬼ごっこをして遊んだときくらいだ。

 緩やかながら駆けていく私を、皆が好奇の目で見る。だがそんなもの気にしていられない。

 セーラ姫の部屋に駆け込み、衣裳部屋に飛び込み、ある箪笥を開ける。

 案の定、そこには目的のものはなかった。

 2ヶ月くらい前になるだろうか。出入りの服屋に、庶民の暮らしが知りたいからと言って、姫さま自身が持ってこさせたのだ。


 計画的犯行


 その言葉が頭をよぎった。

 なに考えてんだ?と言う言葉とともに、わずかばかりの怒りがこみ上げる。

 だがその言葉を押しやって、私は頭を回した。

 私も市街にはさほど詳しくはない。そりゃ、その辺一般の貴族の婦女子に比べたら、もの凄く知っている、になるのだろうが、縦横無尽に走り回って姫さまを捜し出せる自信はない。

 仕方がない。応援を頼むか。

 今まで徒歩で市街になんて出たことのないセーラ姫である。

 何があってもおかしくはない。

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