姫さま、行方不明
身分・時代考証など一切しておりません。気楽に読める小説を目指しました。
「私への忠誠心を見せて欲しいの」
私の主人であるセーラ姫はそう言った。
私の名前はマリア・アドレク・エレガー。
エレガー侯爵家の三女として生を受けた。
そんな私は10歳の時に社会勉強&行儀見習いのために、王家の第4王女に奉公することになる。エレガー侯爵家といえば我が国屈指の歴史ある大貴族。
爵位は上から2番目だろうと、多いに権勢を誇っ……たのは祖父の代までで、私の父に代が代わるやいなや、すばらしい金遣いの所為でわずか4年という年月であっという間に没落貴族の仲間入りを果たしてしまったのである。
それが私が12歳の時だった。
「姫さまー。セーラ姫さまー」
いくら人を捜していても大声で呼ぶことはない。それははしたないこととされている。だが、私の意見からすると、叫ぶとよけいに聞こえづらくて、何度も呼ばなければならないし、喉が痛くなるから嫌なだけなのだ。
そんな私は、現在16歳。
身長は人並み平均。体重も人並みだろう。肌もそんなに白くない。髪は栗色で、祖母譲りの金がかったような目をしている。顔は、人は皆、自分のことはブスだとは思わないそうなので、「ちょっと可愛いかもね」ということにしておく。
「姫さまー、どこにいらっしゃるのですー?」
かれこれ30分くらい捜しているというのに、その姿はさっぱり見あたらない。特に今、絶対に見つけなくてはならないということはない。単にお茶の時間になったから捜しているだけだ。
王宮は広い。だが姫君の歩き回る場所などたかが知れている。すぐに見つかるだろう。そう私は、深く考えずにいた。
「セーラ姫さまをご存じありませんか?」
姫さま付きの侍女であることはもちろんのこと、侯爵家出身ということで私の扱いはとても丁寧だ。すれ違う人に聞いても皆、丁寧に返してくれる。だが、その中で有益な情報はない。
あのおっとり箱入り姫君がこんなに見つけられないとはどう言うことだと少々首を傾げつつも捜索を続けた。
「姫さまー?」
さすがに1時間近く捜しているとなると、いくらなんでも心配になってくる。
この国はとても平和だし、外交上何か問題があることもない。
誘拐もしくは拉致だなんて考えたくはない。
だが、見つからないのだ。
それは困る。
私は一応、セーラ姫様付きの第一侍女なのだ。
姫さまの場所を把握できていないことはもちろんのこと、何より、怒られるではないか。
ここは早急なる対処が必要。
黙って探し出せるか。
それともいち早く衛兵などに連絡して捜してもらうか。
後者は、すぐに国王陛下の耳にも届き、お叱りを食らうであろう。
前者は、あとでバレたときにやっぱりお叱りを食らうであろう。
うーーーん。
やっぱり先に怒られて早く探し出そう。その方が後々楽だ。
後で知られたら、職務怠慢だなんだといちゃもんが後からわんさかでてくる。
その前に一応門番に聞いておくか。
姫さまらしい人物が城外へ連れさらわれてないか。
「大きな大きな人が隠れるくらいに大きな荷物を積んだ車が1-2時間以内に通ったりしませんでしたか?」
「ここは通用門ではありません。そんな車は通れませんよ」
「そうですよね。では、出ていった車はどれだけありますか?」
「5,6台でしょうか」
「5,6台…」
「なぜ、そんなことを聞かれるのです?」
「セーラ姫さまとかくれんぼをしているのです。どこへ行かれたのか、とても上手く隠れられて。まさかとは思いお聞きしたのですが、ありえませんわね」
「そうですね。そのような連絡は受けていませんが…」
「そうですか。ありがとうございます」
王族が外出の時は、必ず衛兵に連絡がまわる。
衛兵が知らないのであれば、誰かが連れ去った可能性は極端に低い。
貴族が無断で王族を外に連れ出した場合は罪になるからだ。
他の3つの門も聞いてまわったが、結局同じだった。
残るは、あそこしかない。
いわゆる勝手口。
一番、クロに近い門である。
本来なら、私のような身分の者は行かない。用事もないし、下賤なところとされている。だが、私はあの雑多なところがすごく好きだ。あそこでは、色々なことが学べる。そして、噂話も一番豊富だ。