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ホラー短篇集

裏学級

作者: よっしー

 皆さんはもう一つの世界の存在を信じていますか?


 異世界、パラレルワールド、裏の世界、


 呼び方はたくさんありますが私達の学校ではそれを裏学級と呼んでいました。

 

 私達の高校には七不思議という7つの怖い話が存在していました。

 しかしそのほとんどはそれも聞いたことのあるようなもので、例えばトイレの花子さんやテケテケの話、屋上に続く階段には幽霊が出るや音楽室のピアノが夜な夜な勝手に音を出す、理科室の人体模型は実は生きているというものです。

 どれも映画や漫画、小説なんかでよくネタにされるありふれたものです。

 

 皆さんもどこかしらで聞いたことがあるのではありませんか?


 ただ私達の学校に伝わる七不思議の中には2つだけ私達の学校ならではのものがあります。

 その一つが裏学級と呼ばれるものです。


 理科室の隣にある空き教室、そこはもう一つの世界に繋がっていると言われており、放課後にその教室で1時間以上過ごせばもう別の世界に行けるというものでした。


 その世界がどういうものなのか、それは聞いたことがありませんが、そこは裏学級と呼ばれ、もしその世界に行ってしまった場合帰ってくるのは難しいそうです。


 それはなぜか?

 七不思議の定番といえば七不思議の全てを知ってしまうと良くないことが起きるというのが定石ですよね。

 私達の知っている七不思議は最初に書いた5つと、この裏学級という話を含めた6つです。

 7つ目の話は誰も知りません。

 それは7つ目の話はもう一つの世界でしか聞けないからだそうです。


 もしも7つ目の話を聞いてしまった人間はどうなるか。

 それこそがもうひとつの世界から帰れなくなってしまうという理由だそうです。


 これから私が話すことは裏学級というもう一つの世界に私が行ってしまった時の話です。



 それは私が高校2年生の時です。

 当時私は理科委員会に所属しており、週に一度理科準備室の掃除をしなければいけませんでした。

 確かに面倒くさかったですし、理科準備室にはネズミやカエルのホルマリン漬けなんかもあって相当気味が悪かったのですが私はその週に一度の掃除を毎週楽しみにしていた理由がありました。


 それは私と同じ理科委員である田中くんがいたからです。

 当時の私はこの田中くんに好意を寄せていて、週に一度二人きりになれる時間がとても楽しみだったのです。


 掃除自体は30分とかからず終わるものでしたが私は田中くんと一緒にいるだけで幸せでした。

 しかし田中くんの方はというと、私よりも理科準備室に置かれている不気味な物に興味津津のようで、あまり話してはくれませんでした。


 たまに田中くんが話してくれるのは怖い話ばかり。

 七不思議の話も実は田中くんに教えてもらったものです。


 今思えば私はこの田中くんのどこに惚れていたんでしょうね?


 ある日私達が週に一度の掃除をしていると突然ガタンッ、ガシャンと何かが倒れるような奇妙な音が聞こえてきました。

 私達は気のせいだと思い掃除を続けていたのですが、ガタンッ、ガシャンという音は鳴り止みません。


「この音なんだろね?」

「知らね」


 田中くんは最初は特に興味を示しませんでした。

 しかし私はその音がとても怖く、掃除に集中できません。


「ねぇ田中くん、この音って隣の教室からだよね……」


 その音は理科室の隣の教室、つまり裏学級へと通じるとされる空き教室でした。


「そっか、隣ってあの教室か……」


 田中くんは暫く考えたかと思うと私にある提案をしてきました。


「なぁなぁ、試しに見にいってみようぜ」

「え、やだよー」

「いいじゃん、1時間いりゃもしかしたら本当に裏学級に行けるかもしんねーぜ!」


 私は怖いものが大の苦手で、普段の私なら絶対断っていたと思います。

 しかし相手は田中くん、その田中くんと教室で1時間も二人きり。

 そう考えると断るに断りきれません。


「うーん、大丈夫かな」

「大丈夫だって、早くいこーぜ」


 私達は掃除を早めに切り上げ隣の教室へと向かいました。

 

 教室の前につくと田中くんは中に入ろうとそのドアを開けようとしましたがビクともしません。


「やっぱ鍵しまってるかー」


 私は少し残念でしたが、心のどっかでは安心しました。

 きっとここで引き返していればこの後あんなことになることはなかったと思います。


 田中くんはどっかないかなーと教室の前を探りはじめ、ついに中に入れる場所を見つけてしまいました。

 それは教室の下の方に付いている小さな扉です。

 もしものときに下から逃げ出せるように設置されたその扉はなぜか田中くんが引っ張ると開いたのです。


「おっ、こっから入れるぜ」


 そう言うと田中くんはそこからスルスルと中に入って行きました。

 一瞬ためらった私ですが、田中くんの後を着いていきます。


 中に入るとそこはなんてことない普通の教室です。

 ただ気になったのが机や椅子が他の教室と変わらずにそのまま置いてあるということでした。


 どうして使ってない教室に机や椅子が?


 そう疑問に思った私でしたが田中くんはその光景をみてはしゃいでいました。

 入ってはいけない場所に入ったことと、怖いもの好きのせいでテンションが上がったのでしょう。


 彼は教室をぐるぐると歩きはじめ、何かないかと探し回っています。


 私は理科準備室で聞いた音の原因を探してみましたが見当たりません。


「ねぇねぇ、さっきの音ってなんだったんだろうね?」

「んー、この教室からじゃなかったのかな?」


 見たところ教室におかしなところはなく、さっきのような物が倒れるような音がするものはありません。

 私は少し気味が悪くなって田中くんに聞きました。


「本当に1時間もここにいるの?」

「当たり前じゃん! 何が起きるか楽しみだなー」


 田中くんの楽しそうな様子を見ていると早く出ようとは言えません。

 私達はこの教室で1時間過ごすことにしました。




 どれくらい時間が経ったでしょうか。


 気づくと私は廊下に横たわっていました。


「あれ、なんでここに?」


 教室で他愛もない話を田中くんと話していた記憶はあるのですが、途中から全く思い出せません。

 私はとりあえず立ち上がり廊下の窓から外の景色を見てみました。


 窓からはグラウンドが見え、そこではサッカー部が練習に勤しんでいます。

 グラウンドは夕日に照らされ赤みを帯びており、時間がすでに夕方だということが分かりました。

 

 どうやらあの教室でいつの間にか寝てしまい、なぜかは分かりませんが廊下に移動していたようです。


「あれ、田中くんは……?」


 私は田中くんの事を思い出しさっきの教室へと向かいました。


 途中で3-1や3-2という教室を見かけたのでここは3階だと分かりましたが、私達がいた教室は2階だったはずなのに変だと思いました。

 しかし今は早く田中くんを見つけることが最優先です。


 階段を降り、2階に着いた時、突然ある女子生徒に話しかけられました。


「ねぇ、そんなに急いでどうしたの?」


 話しかけてきた女子生徒は見たこと無い顔で、しかも制服も私とは違ったものでした。


「あ、えっとどちら様ですか?」

「日野 美香子よ、まだ帰りの時間じゃないのにどうしたの?」


 この時私はこの日野という生徒が何を言っているのかわかりませんでした。


「え、帰りって? 授業はもう終わったでしょ」


 もしかして私を同じ部活の人間と間違えているのだろうか。


「授業は終わったけどまだ帰っちゃだめじゃない、皆と一緒に帰らないと」

「なにを言ってるの? 授業が終わってるなら帰るのは自由でしょ? 誰かと勘違いしてるんじゃないんですか?」


 そう言うと彼女は怪訝な顔をしました。


「それに私は帰るんじゃなくて人を探してるので」

「あらそうだったの、人を探しているのね、どんな人?」

「短めの髪を立てて、ブレザーの中にパーカーを着ている男の子です、田中くんって言うんだけど」

「ああ、田中くん、それなら知ってるわ」


 そう言って彼女は着いてきてといって歩き出してしまいました。

 私はよく分からず彼女の後を着いていきます。




「田中くんならここにいるわよ」


 そう言って彼女が案内したのは保健室でした。


「さっき彼が倒れてるのを見つけてここに運んだのよ」


 中に入ると確かに田中くんがベッドで寝かされています。


「田中くん! よかった!」


 私はすぐに田中くんのもとに駆け寄りました。

 田中くんは私が呼びかけると目を覚まし、辺りを見回しています。


「会えてよかったわね、それじゃあ私はこれで、帰りの時間には遅れないようにね」


 そう言い残し彼女は立ち去って行きました。

 

「大丈夫田中くん? なんか私知らないうちに廊下で寝てたんだけど何が起きたか知ってる?」


 田中くんは私の質問に対し何も答えません。


「田中くん?」


 その様子は明らかにおかしく、辺りを見渡しながら怯えているように見えました。


「どうしたの?」

「裏学級……」

「え?」

「本当に来ちゃったよ……」

「え、どういうこと?」


 田中くんは怯えながら私に聞かせてくれました。


 気がついたら自分も廊下で寝ていたそうです。

 そして起きるとそこにはさっき会った日野という生徒がいて、自分を保健室に連れていってくれたとのことでした。

 その後彼女は田中くんにある話をしたということでした。

 その話は私達の学校で噂される最後の七不思議だったと。


 この時私はまだ半信半疑でした。

 いきなりそんなことを言われて信じろというのが難しいというものです。


 しかし田中くんの怯え方は尋常ではありません。


 私はとにかくこの学校にいたらだめだと思い、田中くんの手を引き昇降口へと向かいました。

 昇降口へ向かっている最中も田中くんは何かに取り憑かれたかのようにぶつぶつと独り言を喋っていました。

 そして昇降口から校舎の外へ出た時私はここが裏学級と呼ばれるもう一つの世界なのだと確信しました。


 グラウンドで部活をしていたサッカー部、だと思っていたのは人間の頭を楽しそうに蹴り合う男子達の姿でした。

 校門に向かう道では生徒同士が刃物で斬り合い、倒れている人間に何人もの生徒が群がってその肉を食べています。

 その光景はまるで地獄を見ているかのようでした。


 そしてその生徒たちが一斉にこっちを見た瞬間私は田中くんを連れ校舎に引き返し全力で走りました。


 ここは自分たちがいていい場所ではない。

 私は走りながらなんとか元の世界に戻る方法を考えました。

 噂通りならここで七不思議の最後の話を聞いてしまったら元の世界には戻れない。


 私は考えました。

 確かに今自分たちは裏学級に来てしまった、しかし噂が本当だったということはその噂を広めた人物もいるわけで、その人物は元の世界に帰ったはずなのです。


 結局私が出した答えはこっちに来た時と同じことをするでした。


 あの教室がここに繋がっているのなら同じことすれば帰れるはず、私は急いであの教室へと向かいました。


 教室に前に着いて気づいたのは前の世界と違い2-2と教室に名前があったこととドアがすんなりと開いたことです。


 私は中に入るとすぐさまドアに鍵をかけました。

 これであと1時間ここで過ごせば元の世界に帰れるはず。



「あら、間に合ってよかったわ」


 突然の後ろからの呼びかけに私は急いで後ろを振り向くと、さっきの日野という女性が立っていました。


「来なかったらどうしようかと思ったわよ、さぁ早く自分の席に座って」


 よく見れば彼女の他にも見たことのない制服をきた人間が大勢おり、彼女と私と田中くん以外の全員が席に座っています。

 それぞれの席には天井からロープがぶら下がっており、先端は輪っかのようになっており、それはまるで首吊り用のロープでした。


「なんなのよあなたたち!!!」 


 私は思わず叫んでいました。

 不安と恐怖が入り混じり、何を叫んだのか自分でも途中から分かりません。

 それでも私は教室に響き渡る大声で叫びました。

 そんな私を特に気にする様子もなく彼女は話続けます。


「あら、おかしいわね、あなたの席だけないわ?」

「……席?」

「もしかしてあなたあの話を知らないのね、なら教えてあげるわ」


 私はこの時この時この女の話を聞いたら終わりだと直感で感じました。

 そして彼女が口を開いた瞬間私は自分の手で耳を塞ぎまた叫びました。


 聞いてはいけない。

 聞いてしまったらもう一生ここからは出れない。


 しばらく私がそうしていると彼女は諦めたのか自分の席へと帰っていきました。


 助かった。


 私は田中くんの方を見ましたがそこに田中くんの姿はありません。


 教室を見渡すとある一つの席に田中くんが座っています。


 私は田中くんの席に駆け寄り必死に呼びかけました。


「田中くんだめ!ここにいちゃだめなの!早く席から離れて!」


 呼びかける私に対して田中くんに反応はありません。



────キーンコーンカーンコーン


「帰りの時間になりました、生徒は各自帰りの身支度を整えて速やかに帰宅してください」


 突然のチャイムと放送。

 その放送が流れると教室にいた生徒達は一斉に立ち上がりました。


 もちろん田中くんもです。


 そして彼らはそれぞれ椅子の上に立ち、ロープに手をかけます。

 そしてそのロープに首を通すと自ら椅子を蹴り、そのまま首を吊りはじめました。


 ガタンッ


 ガシャンッ


 次々と首を吊っていく生徒たち。

 その音は私達が理科準備室で聞いた音でした。

 さっきまで無表情だった彼らは椅子から足を話すと一様に苦しがり足をバタつかせます。


「ぐ、ぐるじい……たすげて……」


 教室のいたるところから聞こえる悲痛な声。


 私はその光景をただ見ているだけしか出来ませんでした。



 しばらくすると夕日に照らされた教室で動くものは私一人だけとなっていました。

 日野という女性も田中くんもただロープに吊るされて揺れているだけです。


 目をカッと開き、口を大きく開けて舌をだしているその死体達を見た私は段々と意識が遠のいていくのを感じました。




 ここからは後日談になります。

 私が目を覚ましたのは最初に田中くんと入った教室でした。

 もちろん田中くんの姿はありません。


 私はすぐにその教室から出て職員室へと向かいました。


 私の話を信じる人は誰もいなかったと思います。

 しかし田中くんがいなくなったのは事実。

 田中くんのことを先生達は必死で探しましたが見つかるわけがありません。


 結局その後私は警察に何度も事情聴取をされましたし、警察も私のことを疑っていたのだと思います。

 しかし証拠は出ず、この事件は今も未解決のままです。


 あの後私なりに裏学級の事を調べたのですが、こうした原因不明の行方不明事件は昔から全国で起きていたようです。

 もしかしたらあそこにいた生徒達は全国で行方不明になった生徒達だったのではないかと思います。

 そして私がもしもあの時に最後の七不思議を聞いてしまっていたらここにはいないでしょう。

 

 もしも皆さんの学校にも空き教室があるならどうか気をつけて下さい。

 仕方なく中に入ってしまったのなら1時間以上そこにはいないこと。

 

 これが私から言えるたった一つの忠告です。


 あの世界に取り込まれた人間は永久に苦しみ続ける。

 

 きっと彼らは今もあの世界で死に続けているのだから。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字や感想などあればお気軽にどうぞ。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは。拝読させていただきました。 どことなく不安になる恐怖が読んだ後に襲ってきました。きっと「裏学級」が当り前の日常のすぐ傍に存在しているからだと思います。裏学級、の得体の知れなさの…
[一言]  ぞっとします。裏学級の狂った感じの描写、淡々と描かれており、怖かったです。ラストの煮え切らない感じ、あえて七つめを描かないのもよい感じでした。こういう演出方法もあるのですね。ずっと昔に聞い…
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