死して死重ね拾うものな死
『不死身』
誰でも一度は憧れるだろう。しかし日常では、こんなものは呪いだ。
これは、不死身を患った少年が命の価値を考えるコメディです。シリアスほぼなし。
命は重い。それはそうだ。1つしかないのだから。やり直しの効かない人生の価値は高い。だからこそ僕の命に価値なんてない_
近くからは人の悲鳴。目は開かない。何故なら、すでに僕は死んでいるからだ。飛び降り自殺によって体はバラバラに、持っていた遺書も真っ赤である。誰の目から見ても死んでいるのは明らかで、「大丈夫か!?」と駆け寄る人もいなかった。
「駄目だったか…」
あまり回りの人を心配させてもいけないので、僕は立ち上がることにした。しかし悲鳴は増すばかり。うるさいので帰るか、などと呟きながらビルの下を離れるのはいつものこと。復活するのもいつものこと。記念すべき五十回目の復活である。
101回目の○○○ではないが、僕こと伏見文也にも繰り返していることがある。それは自殺だ。これほど繰り返してもまだ話題にはならない。まあ、警察に通報したところで意味もないだろうけど。
『不死身』
カッコいい言葉だ。剣やファンタジーの世界なら。憧れる言葉だ。アニメや漫画の世界なら。
気持ちの悪い言葉だ。現実の世界なら。
こんなモノは日常においては『力』ではない。
『呪い』だ。
真っ赤な服で家へ向かう。ベタついて動きづらい。とにかく服を着替えたかった。
僕の家は山に近く、有名な樹海の外れにある。
「ただいま。」
声はない。誰もいないのだから。家族はみな死んでしまった。僕と違って生き返ることもない。
「ただいま!」
あの日は雨だった。当時中学生だった僕は、走って家に帰った。きっと本が読みたいとかゲームがしたいとか、そんな理由だっただろう。外からは、家の中で何が起こっていたのかわからなかったと思う。その辺の記憶は曖昧だ。
まず目に入ったのは赤。
床は赤の水玉模様。壁紙も目に痛い色になっていた。趣味の悪い模様替えのも程がある。当然そんな軽口を叩いている余裕は無かった。じゃあ悲鳴をあげたのかというと、それもない。
よくドラマでは死体を見た人が悲鳴をあげるが、あれは嘘だ。いや、もしかしたらそうなのかも知れないが、僕は違った。実際は声なんてでない。父と母、二人の死体があるのにも関わらずだ。
一人っ子のご多分に漏れず、僕は甘やかされて育った。そんな子供にこんな現実が受け入れられるはずもなく。僕はひたすら自分の頬をつねり、夢から覚めようとした。
いつまで頬を痛めつけていただろうか。気がつくと、真っ赤な包丁を持った黒服がいた。ずいぶんと背が低く、僕とあまり変わらない。返り血こそついていなかったものの、ソレが親を殺したことはすぐに理解できた。そこまで考えたところで、僕の意識が途切れる。
目が覚めると僕は手を握られていた。握っていたのは友人の池田香織。池田は僕が起きたと知るとすぐに手を離し医者を呼びにいった。一方僕は自分のおかれた状況を受け入れたくなくて、泣いていた。伏見文也初めての入院だった。
医者が来たあと、池田は家に帰らされた。どうやら僕が意識を失ってから3日が経っており、その間毎日来てくれていたらしい。逆にいえば他には誰も来なかった。
「君は人かね。」
医者は開口一番そんなことを聞いてきた。
「_何を言っているんですか?」
そう答えるしかなかった。涙声で。そもそも声になっていたのかも怪しい。
「お父さん、お母さんのことは残念だったね。」
普通順番が逆だろ。というか普通は君は人か?なんて質問はしない。もう訳がわからなかった。
「殺されたんですか?どうして?誰に?」
「君の両親は6月10日午後4時頃に殺された。死因は背中から包丁で一突き。出血多量による。その後犯人は家に隠れ、一人息子である君を狙った。そうして一時間後、帰ってきた君を刺し殺した。犯人は全身黒服、客人として家に入ったところが向かいの家の防犯カメラに残っていた。犯人はまだ捕まっていない。もういい?」
正直ほとんど理解できなかった。何よりも両親が殺されたことなど理解したくもない。
ただ、ひとつだけ気になることがあった。
「僕は生きてますけど。」
今度は声になった。長々と喋るから間違えるんだ。もしかして両親も実は生きているのでは?しかしそんな淡い希望も泡のように消えることになった。
「いや、みんな死んだよ。正確には【一度】ね。そして君だけ生き返ったんだよ。」
……は?
_という訳で。僕の不死身が発覚した。それから今に至るまで、僕は何回も死んだ。最初は両親がいないことに対する絶望。次も絶望。繰り返して繰り返して両手両足の指では足りなくなった頃。僕は家の壁に傷をつけ始めた。
最初はためらった。今では息をするように容易い。死ぬ度に気絶して、復活に時間もかかった。今ではたった1分ほどだ。
「8時20分!8時20分!」
テレビをつけるとニュースをやっていた。完全に遅刻だった。
意外なことに僕の復活は早かった。主に精神面で。両親が亡くなってから1ヶ月程度で僕は学校に戻った。そして、すぐに行かなくなった。周りの視線が気になったからだ。
僕は復活したことで【殺人犯に殺された家族の生き残り】という大変な人気者になった。勿論自虐的。「どうして生き残ったの?」「よく無事だったね。」容赦のない言葉が的確に心をえぐった。まるで「死ねばよかったのに」といわれているようで。
結局学生を辞めた僕だったが、高校からは再び学生に戻った。理由は二つ。
一つは人間関係がほとんどリセットしたこと。
もう一つは池田がいたことだ。
主に後者の割合が大きい。向こうがどう思っているか知らないが、僕の唯一無二の親友だ。人気者になる前から同じように接してくれる、唯一の人。本当に良いやつだ。他に交流があるのは、口が悪い医者くらい。いずれも『呪い』については知っている。
今日は学校をサボる。決めてからの電話→「風邪です。」の流れは完璧だ。決めたらすぐに行動する。人でなしの僕が持つ数少ない長所だ。
こういう日は時々できる。というか作る。まず寝転がって本を読む。
_余談だが、僕にはそこそこのお金がある。主に遺産や奨学金だ。勉強は池田と同じ高校に行くために努力した。大学に向けて今も続けている。この二つも大きいが、食費がかからないことが一番大きいだろう。食べなくてもめったに死なないし、しても復活する。まあ痩せすぎないようにはしているが。『不死身』唯一の利点だろう。
_そんな訳で、一人暮らしには十分なお金がある。だから僕の生活は充実しているのか?違う。何の為に生きているのかよく分からないのに、充実しているだなんて口が裂けても言えない。
頭の中で自問自答しながら勉強、読書を繰り返していると、
「ピピビピッンポーン!!」
「うるせえ!」
思わず玄関に助走をつけたキックをお見舞いした。しかし足に当たったのはドアではない。腹だ。
ありがとうございました。




