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熱情ピアス

作者: hakujo

ピアスネタが書きたかったのです。

ピアスの穴を開けるときは病院へ行きましょう。

大学内の食堂に併設されたカフェスペース。

わたし葉塚詩乃はなかよしの菅井奈央ちゃんと、講義の空いた時間などよくこのカフェで過ごしている。


今日は午後の講義が無いため、そのカフェでお昼ごはんを食べてまったりおしゃべり中。




昨日のドラマがおもしろかったとか、新しくできたスイーツショップに行きたいだとか他愛無い話を思いつくまま展開する。

男の人は、女の子の脈絡もオチもない話を繰り広げるのが理解できないと何かで読んだ気がするが、

こういう時間ってとっても楽しいからやめられない。


会話が途切れたとき、わたしから新たな話題を振る。


「ねえねえ奈央ちゃん」


「ん?なーに?」


きれいに施されたネイルをいじりながら奈央ちゃんがのんびり答える。


「あのさ、ピアスの穴ってどうやって開けるの?」


「え!詩乃ピアス開けんの!?あんなに怖がってたのに!?」


奈央ちゃんが驚いた顔でこちらを見る。

そりゃそうだよね。

以前一緒にピアスの穴をあけようと誘われたとき、痛いのが嫌だからと全力で拒否したのだ。


でも今は興味が湧いている。

実際、ピアスを付けてる子を見るとかわいいなーと目で追ってしまう。

しかし、怖いという気持ちも払拭しきれてないので曖昧に返答する。


「んー考え中なのー」


ガタッ!


そのとき背後で何かが倒れたような大きな音がした。


音の出どころを探ろうと頭を回転させると、一個離れたテーブルに座っている男子3人が目に入る。

いや、正確には一人は直立している。

その彼の後ろにはひっくり返ったイスが。

どうやら彼が立ったときにイスが倒れた音だったようだ。


「もー寧太なにやってんのー?びっくりするからやめてよー」


奈央ちゃんが眉間にしわを寄せながら直立不動の男の子に話しかける。


「ご、ごめん!」


彼は同じ学部の芳野くんだ。

確か奈央ちゃんとは高校が一緒だったはず。

結構同じ講義を選択していて、よく目にするが話したことはあまりない。


彼は綺麗に染められた金髪がとても似合っているおしゃれさんだ。

色味の少ないモノクロな服装が多く、髪の色との相性がいいためセンスの良さが窺える。

背はそれほど高くなく、柔和で中性的な容姿と相まって好感が持てる。


彼がイスに座り直す気配を感じながらわたしたちは先ほどの会話を続行する。



「んで?なんで急に?」


「昨日ね、買い物行ったらすんごーくかわいいピアスがあったの」


「うん、それで?」


「買っちゃったの」


「へー、って買っちゃったの!?んじゃあ付けるんでしょ?」


「うーん、だから考え中なの。やっぱりちょっと怖いし痛いのやだし」


「いやいや、買ったんなら付けなきゃもったいないって!詩乃よく耳出してるから絶対付けたらかわいいよ!それに全然痛くないから!」


そう言う奈央ちゃんの耳には左右1個ずつ黒いデイジーモチーフのピアスが嵌まっている。


「んー。それじゃあ奈央ちゃんが開けてくれる?」


おねだりするように言ってみる。



ガタタッ!!



「・・・なんなの寧太さっきから」


後ろを振り向くと芳野くんがまた姿勢よく直立している。


「ごごごめん!」


奈央に睨まれたせいか顔面が蒼白の芳野くん。

奈央はきれいな顔してるから睨まれると怖いよね、うんうん。


心の中で芳野くんに同情していると、目が合った。がっちりと。


「葉塚さん・・・ピアス開けるの?」


いきなりの問いかけに驚いた。

心なしか芳野くんの表情は憂いを帯びているような気がする。


「え、えーと、考え中で・・・」


「そ、そっか!あのさ・・・もし開けるって決めたら・・・・・・俺に開けさせてくれませんか?」






---------------------------------------------------------------------


なんであんなことを言ってしまったのか自分でもわからない。

確かに葉塚さんのことは以前から気になっていた。

小さくてかわいいし。


でも、だからってまともに話したことない女の子にいきなりあんなこと言うなんて。

ただの軟派野郎か変態じゃないか。


俺の性格を知っている友人の上野と佐原、奈央は目を丸くしている。

当事者の葉塚さんは不思議そうにきょとんとしている。

かわいい。


先ほど変態を否定したが、撤回せざるを得ないかもしれない。

白状すると俺は耳フェチなのだ。

決して耳に欲情するとかではなく、なんとなーく目で追ってひとりでにまにましているくらいだ。(十分気色悪いが・・・)

『初対面の女の子のどこを気にするか』という問いに「1番目は瞳、2番目に耳」と答える程度の軽度のフェチである。


以前、葉塚さんがカフェでうたた寝してる姿を見てくぎ付けになってしまった。

まくらにしている腕に頭の左側を預けているため、右耳が露わになっている。

色白な彼女の耳たぶは、睡眠で体温が上がっているか若干赤みを帯びている。

小ぶりな耳は耳孔まで小さい。


気付いたら俺は彼女の間近に立ち、手を伸ばしていた。

指先が軽く彼女の耳に触れたとき、我に返り急いでその場を去った。


その後、事あるごとに彼女が気になった。

自然に目で追っているうち、耳どうこうではなく彼女自身に興味が湧いてきた。

何度か奈央に用がある振りをして声を掛けようと思ったが、玉砕の日々だった。

よく一緒に行動する友人二人からは「チキン野郎」のレッテルを貼られた。


そんな彼女がピアスホールを開けるという会話が耳に入った。

決して盗み聞きしていたわけではない。決して。

(いつも近くのテーブルを選んで座ってしまうことは大目に見てほしい・・・)


あのかわいいらしい耳たぶに針が埋まる瞬間を想像して思わず立ち上がってしまった。

イスに座り直すも冷静ではいられなかった。

あの耳に傷が付くのはなんとももったいなく残念だが、

血を滲ませ目を潤ませる彼女や、華奢なピアスを付けたかわいいらしい彼女の姿が瞬時に頭を駆け巡った。

そんな姿を見たいと思った。


そしてあの変態発言である。





あれから数時間後、彼女は今俺の部屋にいる。





カフェでの俺の変態発言を受けてその場は一瞬膠着した。

しかしすぐに俺の心の内を察した奈央が「寧太ならピアスいっぱい開けてるし、慣れてるから大丈夫だよ!」などと言ってくれ、

友人二人もなんだかんだと理由をつけて勧めてくれた。


葉塚さんは困惑しているようではあったが拒絶はしていなかった。


そして強引な彼らに後押しされ、そのまま俺の家まで来てしまった。




「芳野くん、実家なんだね。大学から近くていいな。」


部屋の真ん中のラグに正座する彼女が部屋を見渡しながら言う。

自分のテリトリーに彼女がいることに高揚しながら平静を装う。


「そうかなー?姉と妹がいるんだけど毎日うるさくて大変だよ。葉塚さんは一人暮らし?」


「うん。実家が隣の県だから。芳野くん、お姉さんと妹さんいるんだ。楽しそう。」


そう言って微笑む彼女が眩くて思わず立ち上がる。


「なんか飲み物とってくるね」





---------------------------------------------------------------


カフェでの彼の言葉に驚いた。

でもほんとはすごく嬉しかった。

だってそう言ってもらえることを期待していたから。



彼のことを初めて見たときから気になっていた。

そして恐らく彼もわたしのことを気にしてくれている。


カフェで課題をこなしてるときに、眠気に勝てずテーブルに伏したことがあった。

まどろんでいるとき、誰かが近づいてくる気配を感じたがすぐには目を開けられなかった。

足音はすぐ近くで止まった。

奈央ちゃんかな?と思っていると耳に僅かな刺激を感じた。

驚いて目を開けると芳野くんの後ろ姿が見えた。


それまで感じていた視線と彼のその行動から、ひとつの考えが浮かんだ。

もしかして彼は耳がすきなのかな。

それからは彼から受ける視線に注意するようになった。

彼の近くでわざと髪を耳にかけるしぐさをしてみたこともあった。

やっぱり耳を見てる気がする。


彼の視線に熱が籠っていると思うのは、わたしの思い違いではないだろう。

でも彼はなかなかわたしとコンタクトを取ろうとしない。

いや、しようとしてはいるが、いつも寸でのところで引き下がってしまう。

奥手なのだろうか。

そんなじれったい関係は嫌だったが、容姿からおっとり系だと思われがちなわたしから声を掛けると

イメージが崩れて引かれそうな気がするのでやめておく。

それにやっぱり彼の方から声を掛けてほしい。


そんな日々に痺れを切らしたわたしは賭けに出た。


芳野くんは大抵、男の子三人で行動している。

わたしたちがカフェにいると彼らは必ず近くのテーブルに着く。

恐らくわたしたちの会話が聞こえる距離。

そこでピアスを開けるという会話をする。

きっと彼はなにか反応してくれるはず。


結果は期待通り、いや期待以上だった。

話はトントンと進み、今わたしは彼のおうちにお邪魔している。

彼の応援に回ってくれた奈央ちゃんや芳野くんのお友達に感謝です。

奈央ちゃんはきっとわたしの思いには気付いていない。

そのうち白状しよう。どんな顔をするかな。


彼は顔を赤らめながら飲み物を取ってくると言って部屋を出て行ってしまった。

笑顔を向けたのが効いたのだろうか。かわいいひとだ。ちょっとからかってしまいたくなる。


これから彼はわたしの耳に傷をつけるのだろう。

実際そこまでピアスをしたいというわけではなく、彼との関係を進展させるためのきっかけに過ぎない。

これからの展開を思い頬が緩んでしまう。




----------------------------------------------------


自室のドアの前で息を吐く。

お茶を用意しながらようやく平常心を取り戻した。


ガチャ。


「お待たせ。ピーチティでよかった?」


「うん、好き。ありがとう」


聞きながらグラスを差し出すと彼女が答える。

”好き”という単語に反応してしまう。

グラスを渡す時に触れた指先が熱くなる。


好きっていうのはピーチティのことだろうが。

我ながら恥ずかしいくらい純情な反応だ。中学生の初恋じゃあるまいし。


小さなテーブルを挟んで彼女の向かいに腰を下ろす。


「芳野くん、ピアス何個開いてるの?」


「えーと、今は右が2個に左が3個かな」


「いっぱいだね。その上のとこのとこも自分で開けたの?」


彼女が自分の耳の軟骨部分を指しながら問う。


「うん、そう。耳たぶは安全ピンで開けて、軟骨はピアッサーでガチャッとやるの」


「ピアッサー?」


彼女が小首を傾げる。


「これこれ。ピアスの穴開ける機械。葉塚さんもこれで開けてあげるからね。」


そう言ってさっきドラッグストアで購入したピアッサーを手渡す。


「ふーん・・・」


そうつぶやく彼女の表情はすこしつまらなそうに見える。

しばらくパッケージを見た後彼女が口を開く。


「わたし安ピンで開けて欲しいな」


----------------------------------------------------




「・・・ほんとにいいの?」


「うん、覚悟はできてるよ」


「俺初めてだからうまくできないかも」


「大丈夫だよ。でも・・・やさしくしてね?」


「もちろん。痛かったら言ってね?」


「うん」


「じゃあ、いくよ。」


「うん・・・」






痛みはなかった。

皮を破るようなブチっという音が聞こえた気がしたが気のせいかもしれない。

鏡を見ると自分の耳たぶを安全ピンが貫いている。


「わあー刺さってるー」


新境地を拓いた感覚を覚え、いつもより明るい声が出てしまう。

彼を見るとありえないほど眉を下げて泣き出しそうな顔をしている。

後悔でもしているんだろうか。


彼が慎重に慎重に安ピンを引き抜く。

耳たぶに赤い液体がぽちっと浮かんでいる。

事前に氷で冷やしていたため、痛みもないし血も流れてはこない。


彼は無言のままシンプルなピアスを開いたばかりの穴に埋めていく。

手が震えている。


「っつ!!」


一瞬鋭い痛みを感じ体が強張る。

よくわからないが傷をえぐられたような感覚だ。でもすぐにその痛みは遠のいた。


「ごごめんね!?大丈夫!?ほんとごめんね・・・」


声まで震えている。


ピアッサーとやらの説明を読むと、ピストルのような装置で耳たぶを挟み手で装置を握ると

内蔵されている針が刺さるという仕掛けのようだった。

それってなんだかつまらない。

芳野くん自らの手で刺してほしかった。それをしっかりと感じたかった。

だから安ピンがいいと言ったのだ。


ちらりと彼の顔をのぞき見ると涙が浮かんでいる。

思わず吹き出しそうになった。

きっと今彼はとてつもない罪悪感に襲われているのだろう。

どこまでもかわいい人だ。


----------------------------------------------


安全ピンで開けて欲しいという彼女の言葉に驚いた。


衛生面などを考え当然ピアッサーを使うつもりでいた。


それに人に安ピンでピアスの穴を開けたことはなかった。

人に針を刺すというのは結構度胸がいると思う。

同意の上とは言え、相手を傷つけるのだ。

妹に開けてやったときもピアッサーを使った。

その時は妹が耳をべたべた触られたくないと言って自分でピアッサーを用意していた。


それなのに彼女は安ピンでと言う。

つまり自らの意志で直接彼女に傷をつけなければならないのだ。

想像しただけで涙が出そうになった。罪悪感と高揚で。


準備を整え、彼女の右側に膝をつく。

彼女はまっすぐ前を見ている。

伏しがちの長いきれいなまつ毛、透き通るきれいな白い肌、肩に付くくらいのまっすぐできれいな髪。

呼吸音さえ聞こえる味わったことのない距離感とこれから彼女を傷つける後ろめたさとで頭が麻痺してしまいそうだ。


彼女の耳に触れる。

大義名分を振りかざし必要以上に触れる。

彼女が身じろぐが気にせず触れる。

だってこれからこのきれいな耳たぶを自分が汚してしまうから。

穴を塞ごうとしても真っ新な状態にはならない。

別れを惜しむように、冷やしながら消毒しながら触れる。


覚悟を決め安全ピンを右手に持つ。

震えてしまう。

ピアスをしたときに一番美しく見えるように場所を吟味する。

斜めに入ってしまうと格好が悪いし手入れも大変なので、垂直になるように構える。


針の先端が皮膚に触れる。

小さく息を吐く。


次の瞬間、思い切り力を込めた。







やってしまった、というのが一番の心境。


貫通した針を見て彼女は楽しそうにしている。


皮膚を貫く感覚が手に残っていて、震えはまだ収まらない。

だが、まだやることはあるのだ。

まず、突き刺さった針を抜く。

摩擦がない状態なのでなかなか抜けない。

ゆっくりゆっくり痛みを生まないように捻りながら少しずつ引き抜く。

わかってはいたが、少量出血した。

その瞬間泣きそうになった。

傷つけた実感と彼女のきれいな赤に対する高揚感で。


続けてピアスを埋め込む。

この作業が実は一番痛いと思う。

それを知っているからますます慎重になるが、彼女の肩がビクッと震えたとき、どうしようもない罪悪感に苛まれ涙がこぼれそうになった。

それと同時に赤く熱を帯びた彼女の耳元に、興奮している自分が確かにいた。








----------------------------------------------------


左右の耳にシルバーの小さなピアスが埋まった。


新しい傷を修復しようと熱が集まり赤みを帯びている。

感覚が戻ってきて、じんじんする。


鏡を見ていると消沈したような彼の声が聞こえてきた。


「しばらくは痛みがあるから。傷が塞がるまで毎日消毒してね。あ、髪を拭くときにタオルをひっかけないようにね。あと寝るときは仰向けのままがいいかも」


注意事項を丁寧に説明してくれる。

しかし、目線はわたしと反対側を向いている。

いじめすぎたかな?と少し心配になる。


「芳野くん、ありがとう。やっぱり人に傷付けるって気持ちいいもんじゃないよね。無理言ってごめんね。」


そう言うと彼が勢いよく顔を向けた。やっぱり涙目。


「違う!全然嫌じゃないよ!むしろ嬉しいというか他の人にさせたくなかったっていうか。言い出したのは俺だし・・・。」


一度合った目線がだんだんと下へ下がっていく。


「でも後悔してるでしょ?すごく苦しそうな顔してる」


彼の視線が浮上した。


「後悔じゃなくて・・・。なんというか変な感情を持っちゃってて葉塚さんに申し訳ないというか・・・。」


「変なってどんな?」


一瞬迷いが見えたが意を決したように彼は話だした。


「俺さ・・・女の子の耳が好きでさ。葉塚さんのこと前からかわいいなと思ってたんだけど、耳がすごくきれいで好きになっちゃって。もちろん耳だけとかじゃなくて葉塚さん自身好きなんだけど!だから今日ピアス開けるって聞いてどうしようもなくなってあんなこと言っちゃったんだよね。それで実際開けたら罪悪感ももちろんあるんだけど、なんていうか・・・欲情しちゃいそうで・・・。ごめん、気持ち悪いよね。ほんとごめん!忘れて!」


さりげなく告白してしまってることに暴走気味の彼は気付いているのだろうか。


「知ってたよ」


数秒後、わたしの言葉を理解したのか頭を下げていた彼が勢い私に顔を向ける。


「知ってたよ、耳がすきなこと。よくわたしの耳見てたことも。ついでに話しかけようとしてたことも、カフェでいつも近くに座ることも」


彼の顔が羞恥でどんどん赤くなる。しまいには正座したまま、床に頭をこすり付けている。土下座してるみたい。


しばらくは黙っていようと思ったが、あまりに彼がかわいそうなのでネタばらしをする。


「今日カフェであの話したのわざとなんだよ。わざと芳野くんに聞こえるように話したの。ごめんね?でもああ言わないと芳野くんいつまで経っても声かけてくれそうになかったから。わたしあんまり忍耐強くないの」


俯いた彼の肩にそっと触れる。視線が合った彼の瞳は涙が決壊寸前だ。


「え・・・?なんでそんなこと?」


芳野くん、ちょっと鈍いみたい。

微笑みながら告げる。


「わたしも芳野くんが好きってこと」


その瞬間、決壊した。

男の子の涙って色っぽいな。

でもいつまでも泣かれても困るので涙が止まるひとことを投げる。


「いいんだよ?欲情しても。」


みるみるうちに彼の顔が赤くなる。涙が止まったことを確認すると、いたずらっぽく笑ってみる。


「葉塚さんってちょっといじわるだったんだね」


拗ねたようにいう彼。


「嫌いになった?」


答えはわかりきってるけど敢えて聞く。


「ならないよ!めっちゃ好き!」


その言葉に声を出して笑ってしまう。なんでこの人はこんなにかわいいんだろう。

つられて彼も笑っている。


「いじわるしてごめんね。お詫びに一個お願い聞いてあげる」


「ほ、ほんと!?」


さっきまでの表情からは考えられないほどうれしそうだ。


「ええと、・・・触ってもいいですか?・・・って変な意味じゃなく、顔とか触りたいなと思って・・・」


尻すぼみになっている。また笑ってしまう。


「いいよ」


微笑みながら答えるとそろそろと手が伸びてきて頬に触れる。

弱い刺激がくすぐったい。

さすがに傷がある耳は触らなかったけど、それ以外の顔のパーツすべてを撫でられた。


しばらくして手が止まったため、気が済んだのかと思い彼の顔を見上げる。

瞳に熱が籠っている。


「もう一個お願いいい?・・・キスしてもいいですか?」


頷くと同時に唇に温かな刺激。

微かに震えている。

その震えを鎮めるようにわたしの頬を包んでいる彼の両手に手を添える。

それを合図にしたように重なりが激しくなる。

何度も繰り返されるぬくもり。

焦れたように唇が割られる。

角度を変えて舌が絡まり縺れる。

お互いの唾液を一通り味わい尽くしたとき、顔を離して名前を呼ぶ。


「芳野くん・・・」


「ん・・・?」


「キズモノにした責任とってね?」


最高にいたずらな笑顔を向けると今日何度目かの彼の赤面を見た。





---end-------------------------------------------





〈後日談〉

友人A:いや~!あのときはほんとびっくりしたよな!だって俺に穴開けさせてくださいだよ!?

あのチキンが男になった瞬間を見たね!

友人B:ちょっと!その言い回しやめてよ!あんたが言うと下ネタに聞こえんのよ!

友人C:でもあいつのあの発言、ちょっと変態っぽいよな・・・。前から変なやつだと思うことはあったけど。変なプレイとかしそうだな。葉塚さんだいじょうぶかな・・・。

友人B:あんたまであの子をそういう風に言わないでよ!あたしのかわいい詩乃~!!

友人A:でも最近のあいつらめっちゃラブラブだよな。この間なんてお揃いのピアス買ったってのろけてたし!あーうらやましい~!!




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