僕は人形。
僕は人形。
真子〈まこ〉ちゃんが2歳の時、真子ちゃん家にやってきたの。
真子ちゃんは僕に、『ゆう君』って名前をつけました。
僕はいっつも真子ちゃんと一緒。
夜はおんなじ布団で寝たし、沖縄旅行にも連れてってくれた。
真子ちゃんは、
「おばけが怖い」
って、よく泣いてたね。
真子ちゃんが小学生になると、僕は真子ちゃんと、真子ちゃんの友達と、3人で遊ぶようになった。
「はいゆう君、あーんしてー」
そう言って僕に布の人参を食べさせようとする真子ちゃん。
僕があーん出来なくておろおろしてたら、真子ちゃん泣いちゃった。
なのに僕は、『ごめんなさい』も言えなくて。
ごめんなさい言えなくて、ごめんね。
小学4年生になった真子ちゃんが買ってもらったのは、お化粧セット。
お友達何人も連れて、お化粧しあう真子ちゃん。
笑ってる君は、僕の叫び声には気付かなかった。
中学生になった真子ちゃん。
高校生になった真子ちゃん。
君は光の下にいて。
僕は机の裏にいた。
何年もそこにいた僕は、すっかり埃まみれで。
君を呼ぼうにも声は出ない。
僕は何のためにここにいるの?
ねぇ、真子ちゃん?
引っ越し屋さんが来た。
真子ちゃんは22歳になって、一人暮らしを始めるそうです。
机を退けた痕には、埃まみれの僕。
真子ちゃんが、僕を見つめる。
ああ、真子ちゃん。
小さい頃よく泣いてた真子ちゃんだ。
真子ちゃんは僕を手に取る。
「汚い人形。お母さん、捨てちゃっていー?」
真子ちゃんは、
僕を、
ごみ袋に入れた。
そっか。
僕はもう、君には必要ないんだね。
とても悲しくて、とても泣きたくなって。
でも、泣けなかった。
僕は人形、だから。
君は光の下にいて。
僕は焼却炉の中にいた。
真子ちゃんは僕の叫びに気付かない。
真子ちゃんの中にはもう。
僕は、いないんだね。
ばいばい、真子ちゃん。