口笛
―――お前、なんか死にそう。
ついこの前、友達にそう言われた。
今にも死にそうな雰囲気を醸し出してるって。
何だよそれ。
笑い飛ばしてやったけど、実際どうなんだろう。
オレってそんな人生諦めてるっぽいのか?
そう思って、今日駅のホームに立ってみた。
もしオレが本当に死にたいと思ってるなら、気が付いたら飛び込んでるだろう、と。
列車の迫る線路の中に。
三本分立ち続けてみて、結果が出た。
オレは別に普通だ。
普通にそこら辺にいるただぼんやり日々を送っているだけの男なんだ。
列車がどれだけ目の前を通っても何も感じなかった。
それどころか落ちたら危ないなとさえ思った。
「……ありえないな」
オレはポケットから煙草を取り出して火を点ける。
そういえば少年が一人こっちを見ていたな。
彼もオレに死を見たのだろうか。
灰色の息を吐きだしながら、夕暮れに染まる町並みを仰いだ。
夕食時特有の暖かな雰囲気が景色を包む。
ぽつぽつ灯りだした灯りもまた同様に。
遠くから下手なブラスバンドの音楽と、野球児達の白球を追う若々しい声が聞こえてきた。
きっとオレの母校からだろう。
頑張れ若者
目を細めてもう一度煙草に口を付けた。
もうすっかり社会人なオレは胸いっぱいに煙を吸い込んで、のそのそ歩きだした。
土日をあけて明日からまた会社。
勤め始めて一ヵ月経つけどまだ新しい環境に慣れない。
順応性がないのだつまり。
軽い自己嫌悪に陥るのは青い春で味わい尽くしているんだけどね。
輪っか状の雲を吐き出して、さぁ頑張れオレ。
死にそうなんて言われないように。
簡単に言うと五月病ってやつですよ。




