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銀河鉄道

誰も近寄ってこない事に苛付くのとんだおかど違いだ。

分かっているのだが人の感情はそんな理性など気にもせず生まれる。

髪はブリーチで金色。

両耳には大量のピアス。

そんで座席にどっかり構えて座ってりゃみんな避けたくなるだろう。

俺は今長年住み慣れた小さな町を離れるため列車に乗っている。

別にヤバい奴等に追われてとかじゃないぜ?

何となく違う世界に行ってみたくなったんだよ。

自分の視界があまりに狭い事に気付いちまったからさ。

ガキの頃から一緒に育った仲間が言ったんだよ。

「俺ら、何にも知らないよな」

満天の星空の下。

ちっぽけなのは一体何だと。

親に反発したりされたり、仲間と殴り合いの喧嘩をしたり。

目が合っただけでボコボコにした事もあった。

そんな若気の至りの中で髪に色は付いたし、耳には穴が開いた。

そういえば母親泣いてたな。

この状態になった時。

父親は殴ってきたし。

今ではすっかり和解して普通の親子になれたけど。

だからいきなり俺がこの町を出るつっても反対しなかった。

好きな様にしろってさ。

仲間も応援してくれた。

列車に乗りながら、俺はなんて幸せ者なんだって感極まったなぁ。

なのに何なんだよ。

たった一駅挟んだだけでみんなして俺の事見下げてくる。

こんななりしてる俺も悪いけど、人は見た目じゃねぇって盛んに叫んでるのはてめぇらだろ?

向こうに行ってもこんな目で見られんだろうか。

やっぱ髪元に戻すべきだったかな。

俺はそんな事を考えながらポケットから赤い包みの飴玉をとりだした。

母親がくれたやつだ。

思い出にって普通こういう消費物渡すか?

ツッコミながらそれを破ろうとしたとき、いつのまにか前の席に小さい女の子が座っているのに気付いた。

物凄くキラキラした瞳で俺の手の中の飴を見つめてる。


「………」


俺はどうすべきなんだ。

とりあえず包みを破く手を止めてそっと差し出してみると、女の子は無言で飴玉を奪った。

そして、キラキラした瞳をさらにキラキラさせて俺ににっこり笑いかけてきた。


「ありがとうおじちゃん」


女の子は飴玉を両手に抱いてとてとて通路を走っていった。

呆然とそれを見ている俺。

何ていうか、最近のガキはスゲぇな。

やるとも何とも言ってないのに平然と持ってくし。

しかもおじちゃんかよ。

俺まだ二十代前半なんだけど。

ていうか悪いなまみぃ。

折角の思い出人にやっちまっぜ。

心の中で謝りながらぼーっとまた思考を飛ばしていると、袖が引っ張られる気配。


「あ?」


視線下げるとそこにはさっきの女の子。

しかしこころなしか意気消沈してるように見える。

女の子はまた無言で手を差し出した。

幼い掌には俺がさっきあげた赤い包みが。


「お母さんが返してきなさいって」


少し不貞腐れた感じでぼそりと女の子が言う。


「怖そうなおじちゃんから物貰っちゃダメいけませんって」


おいおい親まで俺の事おっさん扱いかよ。

とんだ親子だな。


「だから、返す」


「……うい」


返す、と言われて受け取らないわけにはいかない。

手を伸ばしてそれを指で掴む。


「?」


あれ、これ……。


「内緒だよ。本当は優しいおじちゃん」


にっと悪戯っぽく笑った女の子は林檎の香りを漂わせていた。


「おうよ」


俺もにっと笑う。

女の子は満足そうに親の所へ戻って行った。

今度はそれを少し感心して見ていた俺。

手の中には空になった赤い包み。

何ていうか、最近のガキはマジでスゲぇよ。

キラキラした瞳で汚い大人をしゃあしゃあと騙すんだもんな。

ありゃ大人になった時したたかな人間になりそうだ。

怖そうなおじちゃんから貰った物返しても中身食ってちゃ意味ないってね。


少し嬉しい気分になりながら、俺はポケットに林檎味の飴玉の包みをしまった。

まみぃのくれた思い出にはもう一つの思い出が重なったよ

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