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捕料理人~A国の調理班がB国の牢屋でフルコースを作ったら、陸軍大将が泣いて戦争を止めました~

作者: SOUCHAN
掲載日:2026/05/31

 どうも、SOUCHANです。今回は短編小説を制作してみました。

 では、良いフルコース(物語)を。


※注意:この作品はフィクションです。 作品に登場する【国や地名】【兵器】【人物名】は事実とは一切関係ありません。

 

 7月上旬――B国陸軍基地内、捕虜収容所の鉄格子に囲まれた牢屋。


テリー

「……う、頭が痛い……。ここは、どこだ?」


 テリー(28)がゆっくりと目を開けると、視界に飛び込んできたのは冷たい鉄格子だった。

 壁の向こうからは、聞き覚えのない言語――敵国であるB国陸軍の兵士たちが、声を張り上げて訓練に励む声が響いてくる。

 自分が置かれた状況を理解しようとしたその時、足音が近づいてきた。

 現れたのは、質素なトレーを手に持った一人のB国陸軍の若い男性看守(35)。トレーの上には、薄いスープと、見るからに乾燥したパンが1個だけ乗っている。


看守

「おい、起きろ。食事だ! ありがたく頂け。」


 ガシャリと音を立てて、床に食事が置かれる。

 空腹を覚えていたテリーはさっそくスープに手を伸ばし、口に運んだ。


――だが、その瞬間。彼の温厚そうな目つきが、プロの料理人のそれに一変する。


テリー

「……なんだ、これは? スープの味が薄すぎて、ただの温かい泥水のようだ。おまけに具材の切り方も雑すぎる! 繊維の方向もバラバラだ。一体どういうことだ、これは!?」


看守

「あ、あん? 貴様、捕虜のぶんざいで何を言っているんだ! 出されたものを黙って食え!」


 看守の怒声を無視し、テリーは次にパンを手に取った。しかし、それはまるで凍りついているかのように、カチカチに硬くなっている。


テリー

「おい、看守! パンも硬すぎて石ころ同然じゃないか! これでは、処刑前の『最後の晩餐』にすらなりゃしない。今すぐ厨房へ行って、料理長に伝えてこい!『最後の晩餐に相応しい、まともな飯を作れ!』とな!」


 あまりの剣幕と、捕虜とは思えない堂々とした態度に、看守は一瞬気圧されてしまう。


看守

「チッ……めんどくせえ捕虜を捕まえちまったな……」


 看守は片手でガリガリと頭を掻きながら、呆れた様子で料理長のいる厨房へと歩き出した。






 B国陸軍基地内――調理室。

鉄格子の牢屋を後にした看守は、基地の片隅にある調理室へと足を運んでいた。

 室内では、B国陸軍兵の料理人たちが、慌ただしく立ち働いている。

 看守は、大鍋の前で指示を出している体格の良い料理長(45)に近寄り、声をかけた。


看守

「料理長、ちょっといいですか。……さっきのA国の捕虜の男から、伝言を預かってきまして。その、なんというか……『最後の晩餐に相応しい、まともな飯を作れ!』だそうです。」


料理長

「何ぃっ!? まともな飯を作れだと!?」


 料理長は持っていたお玉をガシャリと置き、顔を真っ赤にして怒鳴った。


料理長

「ふざけるな! 冗談じゃないぞ。こっちはただでさえ前線で、まともな食材が手に入らなくて頭を抱えてるんだ。捕虜に格別の料理を振る舞う余裕なんてあるわけないだろう!」


看守

「ま、まあ怒らないでください。でも、あの捕虜、妙に凄みがあって……。どうにか形だけでも、それっぽいものを作れませんかね? ……例えばそう、簡単に作れるスープ、サラダ、それからメインディッシュを用意して、全部塩だけでシンプルに味付けして出せば、形は整います。それで満足するんじゃないですか?」


 料理長は腕を組み、うーむと唸りながら少し考え込んだ。


料理長

「……なるほど。コース料理の形さえ整っていれば、文句は言えまい。よし、わかった。……おい、お前たち! 新しいオーダーだ!」


 料理長が調理場全体に響く声で鋭く指示を飛ばす。


料理長

「【野菜スープ】、【生野菜サラダ】、そして【魚の塩焼き】だ! サラダ以外、味付けはすべて『塩だけ』で仕上げろ。急げ!」


料理人たち

「イエス・サー!」


 料理長の号令とともに、料理人たちは一斉に直ちに取り掛かった。包丁の音と火の音が、一際激しく調理室に響き渡る。






 1時間後――再び、鉄格子の牢屋。

約束の1時間が経過した頃、看守が誇らしげな顔で戻ってきた。

 その手にあるトレーには、湯気を立てる2つの皿が並んでいる。


看守

「おい、待たせたな! 料理長が腕によりをかけた出来たてのフルコースだ。これなら文句なかろう、ありがたく食べろ!」


 テリーはフンと鼻を鳴らし、まずは温かいスープを一口、口に含んだ。


……が、次の瞬間、テリーはあからさまに眉をひそめる。


テリー

「はぁ〜……。塩辛い、塩辛すぎる。一体何グラムの塩をぶち込んだんだ? まるで、海水をそのまま飲まされている気分だ……」


看守

「な、何だと!?」


 看守が声を荒らげるのも気にせず、テリーは次に生野菜サラダをフォークで口に運んだ。そして、咀嚼した瞬間に深い溜め息をつく。


テリー

「……それに、このサラダは何だ? にんじんの皮の削り残しが多すぎる。口の中でゴソゴソして、まるでウサギの餌だ。私はウサギになった覚えはないぞ。」


看守

「き、貴様……っ!」


 最後に、テリーはメインディッシュである魚の塩焼きにフォークを伸ばした。身をむしり、口に入れた。


――その直後、テリーの顔が青ざめる。


テリー

「……うぇっ! く、臭い……っ! おい看守、これを見ろ。中心部がまだ完全に生焼けじゃないか! 寄生虫が湧いたらどうする気だ。こんなものは料理とは呼ばん、ただの『加熱されたゴミ』だ!」


 ガシャァン!と、テリーは皿をトレーに叩きつけた。

 ここに至り、看守の堪忍袋の緒が、ついにブチリと音を立てて弾け飛んだ。


看守

「――そこまで言うなら、お前が自分で作ってみろッ!! 文句ばかり並べやがって、口だけじゃないところを見せてみろ!」


 看守は鉄格子の鍵をガチャガチャと荒々しく開け放ち、テリーを指差す。


看守

「ただし、逃げ出そうなんて甘い考えは起こすなよ! 私がつきっきりで監視してやる。さあ、来い!」


 待ってましたと言わんばかりに、テリーは不敵な笑みを浮かべ、両腕の袖を力強くまくり上げた。


テリー

「いいだろう、望むところだ。お前たちの料理長とやらに見せてやるよ……本物の、本当のフルコースってやつをな。」


 テリーは看守を先頭に立たせるようにして、堂々たる足取りで牢屋を出た。

 目指すは、あの素人料理人たちが巣食う調理室。






 B国陸軍基地内――調理室。

看守に伴われ、テリーが調理室へと足を踏み入れた。

 室内では、先ほどの料理長とB国陸軍兵の料理人たちが、不機嫌そうな顔で待ち構えている。

 さらに、噂を聞きつけたのか、訓練の休憩中だったB国陸軍の兵士たちまでもが、物珍しそうに調理室の窓や入り口から外で見物していた。

 完全なアウェイの空気。しかしテリーは周囲の視線など意に介さず、鋭い目つきで厨房の設備や冷蔵庫の中身をチェックしていく。


テリー

「……なるほど。だいたい状況は把握した。まず一言言わせてもらうなら、『衛生管理が絶望的に下手くそ』だ。道具の配置も効率が悪すぎる。」


料理長

「ふん、ぬかせ! ここは前線基地だぞ、多少の不手際は仕方ない。おまけに戦争中なんだ、毎日豪華な食事なんて作れるわけがないだろう!」


 料理長が鼻で笑うが、テリーは動じない。


テリー

「豪華な食材なんて必要ないさ。よし、じゃあ俺が、さっきの【野菜スープ】と【魚の塩焼き】を、同じ食材で作り直してやる。」


 テリーはそう言うと、作業台から手際よく野菜を取り出した。

 無駄のない流れるような動きで皮を剥き、すべて均等な一口サイズに切り刻んでいく。

 そして、すでに沸騰していた鍋へと迷いなく野菜を投入し、柔らかくなるまで茹で始めた。

 先ほどまでの厳しい表情から一転、テリーはいつもの温厚な笑みを浮かべ、B国の料理人たちへ語りかけるように説明を始める。


テリー

「いいかい? 野菜を一口サイズに揃える理由は、食べる人が口に運びやすいからだけじゃない。火の通りを均一にして、中までしっかり柔らかくするためだ。ちなみに、このお湯でブロッコリーやカリフラワーをサッと茹でれば、それだけで立派な温野菜サラダも作れるんだよ。」


 続いて、テリーは食材の山から川魚のマスを手に取った。

 包丁を握り直した瞬間、空気が変わる。


――シュ、シュ、シュン!


 目にも留まらぬ見事な包丁さばき。テリーの手によって、マスはものの数秒で、綺麗な『三枚おろし』へと姿を変えていた。

 骨の一本すら無駄に残さないその神業を目の当たりにし、料理長も、料理人たちも、そして連れてきた看守さえもが、開いた口が塞がらず唖然として固まった。


テリー

「野菜を茹でている時間を無駄にせず、その間に魚を捌く。そして、その魚をフライパンで焼くんだ。この時、必ず『皮の面』から焼くこと。そうすれば、皮はパリッと香ばしく、中は旨味を閉じ込めてジューシーに仕上がるのさ。」


 焼き上がる魚の香ばしい匂いが調理室を満たしていく。

 テリーは頃合いを見て、コトコトと煮える野菜スープに塩コショウをパラパラと適量振り入れ、最後に優しくスープをお皿へと盛り付けた。






――調理開始から数分後

テリーの手によって作り直された二つの料理が、調理室のテーブルの上に並べられた。

 先ほどとは見違えるほど美しく盛り付けられた料理を前に、料理長と看守は唾を飲み込み、恐る恐るスプーンを手に取った。


――まずは1品目、【野菜スープ】を口に運ぶ。


料理長

「っ!? ……お、美味しい! 野菜が驚くほど柔らかい! 味がしっかり染み込んでいるぞ!」


看守

「何ということだ……。さっき俺たちが食べたものと、同じ食材のはずなのに……。塩とコショウだけで、どうしてこれほど深いコクと美味さが出るんだ!?」


 それを見ていたB国の料理人たちも、我慢できずにスープを口々に回し飲みし始めた。


 「美味い!」「信じられない、野菜がすごく食べやすいぞ!」と絶賛の声が次々と湧き上がる。


――続いて2品目、皮目がパリッと黄金色に焼けた【マスの塩焼き】に箸を伸ばす。


料理長

「――っ!! 身がホロホロと口の中で解けていく! 臭みが一切なくて、川魚の旨味が完全に引き出されているぞ……!」


看守

「お前……。敵国の人間とはいえ、本当にお見事だ。完全に俺たちの負けだよ。お前の腕前、改めて見直した。」


 看守はスープの器を抱えたまま、心底感服したようにテリーを見つめた。

 周囲の兵士たちからも尊敬の眼差しが向けられる中、テリーはエプロンの代わりにしていた袖をパッパと払い、いつもの温厚で、どこか飄々(ひょうひょう)とした笑みに戻った。


テリー

「プロの料理人なら、これくらいどうってことないさ。……さて、お腹も膨れたことだし、俺は牢屋に戻るよ。案内を頼む、看守さん。」


 テリーは満足げに微笑むと、捕虜とは思えないほど堂々とした足取りで、自ら進んで牢屋の方向へと歩き出すのだった。






 3日後の朝――B国陸軍基地。

その日の朝、B国陸軍基地内はいつも以上の緊張感に包まれていた。

 B国陸軍の最高指揮官である『陸軍大将(65)』が、急遽この基地を訪問したのだ。

 訓練中だった兵士たちは一斉に動きを止め、背筋を伸ばして一糸乱れぬ敬礼を送る。

 そんな騒がしさを余所に、テリーはいつも通り鉄格子の牢屋の中で、ベッドにごろりと横になってくつろいでいた。

 そこへ、ガチャガチャと鍵を開ける音と共に、いつもの看守と、胸元に無数の勲章を輝かせた威厳ある老人が姿を現す。


看守

「大将閣下! この男であります。例の、我が軍の厨房を震撼させたA国の料理人……名前はテリーと言います。」


陸軍大将

「ほう……。これまで戦場で優れた敵の指揮官は数多く見てきたが、優れた『料理人』の捕虜というのは初めてだな。」


 大将の鋭い眼光がテリーを射抜く。しかし、テリーはゆっくりと体を起こすと、臆する様子もなく小さく息を吐いた。


テリー

「なんですか? もしかして、俺の腕を見込んで『B国の軍属(仲間)になれ』とでもスカウトしに来たんですか? 断っておきますが、俺はA国の兵士だ。敵国に魂を売るくらいなら、さっさと処刑されて最後の晩餐を食べて亡くなった方がマシですね。」


陸軍大将

「っふ、落ち着けテリー。そんな野蛮な要求をしに来たわけではない。私はただ、基地中で噂になっている君の見事な腕前を、この目で確かめに来ただけだ。」


テリー

「あいにくですが、今は『閉店中』でしてね。捕虜らしく、のんびり昼寝でもさせてくださいよ。」


看守

「おいテリー! 陸軍大将閣下の命令は絶対だぞ! 滅多な口を叩くな、言うことを聞け!」


 冷や汗を流しながら割って入る看守を見て、テリーはやれやれと肩をすくめた。


テリー

「……仕方ないですね。そこまで言われたら、料理人として断るわけにはいかない。っで、メニューは何ですか?」


陸軍大将

「フルコースだ」


テリー

「フルコース!?」


 前線基地の限られた食材でフルコースを要求され、テリーは思わず目を見張る。


陸軍大将

「【前菜】、【スープ】、【メインディッシュ】、そして【デザート】。この4品を、この基地にある食材だけで作ってみせろ。これが私からの注文オーダーだ。」


テリー

「……フッ、面白い。最高峰の顧客からの注文だ、受けて立とうじゃないですか。……おい看守、どうやら『開店時間』のようだ。」


 不敵な笑みを浮かべて立ち上がるテリーに、看守は心配そうな、それでいてどこか嬉しそうな複雑な表情を浮かべた。


看守

「包丁を握るんだろう? くれぐれも、手元を滑らせて怪我だけはするんじゃないぞ?」


テリー

「ふっ、ご助言、看守(感謝)するよ。」


看守

「……やれやれ。まったく、手のかかる困った店員だな。」


 看守は呆れたように首を振りつつも、誇らしげにテリーの背中を押し、二人は再びあの調理室へと向かった。







 B国陸軍基地内――調理室。

テリー、看守、そして陸軍大将の3人が調理室に到着した。

 待ち構えていた料理長と料理人たちは、大将の姿を見るなり緊張で顔をこわばらせ、一糸乱れぬ敬礼を捧げる。

 そんな張り詰めた空気の中、テリーは一人で腕を組み、限られた食材しか入っていない冷蔵庫や、木箱に転がっているわずかな野菜を鋭い目で見つめ、献立を組み立てていた。


テリー

「(……ふむ、陸軍大将は見たところ結構なご高齢だ。あまり固いものは避けて、全体的に柔らかく仕上げた方がいいな。よし、決まった。前菜は【ブロッコリーの温野菜サラダ】。スープは、ブロッコリーの旨味が溶け出した茹で汁をベースに【野菜スープ】。メインディッシュは、保存食の缶詰を使った【コンビーフハンバーグ】。そしてデザートは、フルーツの缶詰をアレンジして【フルーツポンチ】。この4品で行こう)」


 方針が決まれば、テリーの動きに迷いはなかった。

 まずは沸騰した大鍋に新鮮なブロッコリーを投入し、適量の塩を加えて鮮やかに塩茹でにしていく。

 ブロッコリーが茹であがるわずかな時間も無駄にせず、テリーは隣で手際よく野菜スープの下ごしらえを進めていく。


テリー

「(よし……色鮮やかに茹であがったな。そろそろ引き上げ時だ)」


 テリーはブロッコリーをザルに上げ、湯気を立てる余分な水分をしっかりと切る。食べやすい大きさに切り分けたブロッコリーを小さなお皿に美しく盛り付け、まずは1品目が完成。

 続いて、栄養と旨味がたっぷり溶け出したブロッコリーの茹で汁の鍋に、一口サイズに切ったジャガイモとにんじん、そして薄切りにした玉ねぎを流し込み、コトコトと煮込んで、塩コショウを適量加えてスープに仕上げていく。

 野菜を煮込んでいる間に、テリーはメインディッシュの調理に取り掛かった。

 木箱から取り出したのは、どこの戦地でも見かけるありふれたコンビーフの缶詰だ。

 テリーはそれを器に空けると、手際よく成形し始めた。それを見ていた看守は、驚きで目を見張る。


看守

「(なっ……コンビーフをこねてハンバーグにする気か!? 前線の安物の缶詰を、ごちそうに変えるなんて……。この男、料理の発想力がエグすぎる……!)」


 熱したフライパンに、丸く成形されたハンバーグ状のコンビーフが並べられる。

 ジュワァーッという小気味いい音と共に、肉の香ばしい匂いが調理室全体に広がり、大将や料理長たちの鼻腔をくすぐった。

 肉をじっくりと焼き上げている間に、テリーは仕上げとばかりにフルーツの缶詰を開け、色とりどりの果実と甘いシロップを器に盛り付けて【フルーツポンチ】を完成させた。


 こうして、前線基地の限られた食材だけを使った、テリー特製の「即興フルコース」がすべて出揃った。





 B国陸軍基地内――調理室。

テリー特製の「即興フルコース」が、陸軍大将の前に並べられた。

 周囲の兵士たちが固唾をのんで見守る中、大将はゆっくりとフォークを手に取った。


まずは1品目、【ブロッコリーの温野菜サラダ】。


陸軍大将

「うむ……。ブロッコリーが実に柔らかく茹で上がっている。歯が弱くなってきた年寄りの私には、非常に食べやすくてありがたい。」


 続いて2品目、【野菜スープ】にスプーンを伸ばす。


陸軍大将

「お〜……体が芯から温まる。それにしても驚いたな。まさかブロッコリーの茹で汁をベースにしてスープを作るとは。食材の旨味を余すことなく活かす、見事な知恵だ。」


 そしていよいよ3品目、メインディッシュの【コンビーフハンバーグ】を口に運んだ。


――大将の動きが、ピタリと止まる。そのまま目を閉じ、じっと黙り込んでしまった。


看守

「大将閣下……? いかがなされましたか……?」


 看守が恐る恐る尋ねると、大将はゆっくりと目を開け、その眼光を歓喜に震わせた。


陸軍大将

「……美味い、美味すぎるぞ! いつも兵たちが食べているあの味気ない缶詰が、これほどジューシーで深い味わいのごちそうに変わるとは……! これは料理界の『革命』に相応しい!」


 最後に4品目、デザートの【フルーツポンチ】を口に含むと、大将の顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。


陸軍大将

「ふふ、食後にぴったりの、優しくてシンプルな甘さだ。……さすがテリー、君はまぎれもない超一流のシェフだ。恐れ入ったよ。」


テリー

「ありがとうございます。最高の一言をいただけて、料理人冥利に尽きます。……お腹も満足していただけたようですし、では、俺は牢屋に戻りますね。」


 満足げに一礼し、踵を返そうとしたテリーの背中に、大将の威厳ある声が響いた。


陸軍大将

「――待て!」


 大将は静かに立ち上がると、調理室を見渡した。

 その表情は、一国の軍を率いる最高指揮官のものに戻っていた。


陸軍大将

「……テリーシェフの料理を食べて、私は改めて決断した。……全員、心して聞け!」


 看守、料理長、そして周囲を取り囲むすべての兵士たちが、大将の言葉を待つために息を呑み、背筋を伸ばした。


陸軍大将

「我がB国は、本日をもってA国との戦争を『停戦』とする! そして今後は、A国と共に平和な未来を歩む道を選ぶ! ――テリーシェフ、君は今日、この瞬間をもって無罪放免、解放だ!」


 一瞬の静寂の後、調理室に大歓声が沸き起こった。

 テリーは驚きに目を見張りながらも、差し出された大将の手をしっかりと握りしめ、力強い握手を交わした。

 看守も、料理長も、窓の外の兵士たちも、全員が弾けたような笑顔で二人に惜しみない拍手を送っている。


看守

「やったな、テリー! いや……テリーシェフ!」


テリー

「ふっ……。最高の『最後の晩餐』にならなくて、本当によかったよ。」


 テリーは看守に向かって、悪戯っぽくウインクしてみせた。


――後日、両国の間で正式な停戦協定が結ばれた。


 歴史に遺るこの大きな転換期。その裏にいたのは、名だたる英雄でも、天才的な政治家でもない。ただの、味にうるさい一人の若い調理兵だった。

 彼の作った温かい料理が、冷え切った戦場を溶かし、世界に平和をもたらしたのだ。


捕料理人(完)


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