表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隠し実績のためふざけてたら、なぜか世界最強扱いされてます  作者: 鷹白マヤ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/13

ゴミ

「……頭、痛ぇ」


翌朝。

僕は激しい頭痛と共に目を覚ました。MP枯渇の後遺症だ。


場所は自宅。家賃2万イェンのボロアパート『落陽荘』の一室だ。

六畳一間。散乱するカップ麺の容器。万年床の布団。

これが、昨日「ゴブリンを交渉で支配した」と噂される男の城である。


「腹減った……。昨日の焼肉、食いたかったな……」


コンコン。


その時、ドアがノックされた。

大家さんの家賃取り立てか? 居留守を使おう。

僕は息を潜めた。


「カイト様。いらっしゃるのは分かっています。……入りますよ」


ガチャリ。


鍵が開いた。

え、なんで鍵開いてんの? ピッキング!?


「失礼します」


ドアが開き、朝の光と共に現れたのは――

純白の法衣を纏った、あの聖女エリナだった。


「せ、聖女様!? なんでここに!?」

「ギルドの登録情報から住所を特定しました(権力を行使しました)」


彼女は事も無げに言い放ち、そして部屋を見回した。

ゴミ屋敷寸前の惨状。

脱ぎ捨てた服、積み上がった週刊誌、異臭を放つゴミ箱。


(終わった。これ絶対ドン引きされるやつだ)


F級の僕が、実はただの不潔な貧乏人だとバレる――!

そう思った瞬間、エリナが口元を押さえ、感極まった声を上げた。


「なんて……なんて清貧(せいひん)な暮らし……!」


「は?」


彼女はキラキラした目で、散らばったカップ麺の容器を拾い上げた。


「俗世の欲を断ち切り、最低限の食事だけで肉体を維持しているのですね。これは……『毒耐性』をつけるための修行ですか?」

「あ、はい。そうです(ただの手抜き飯です)」


「布団も敷きっぱなし……。これは『いつ敵が来ても即座に対応できるように』という、戦士の心得……!」

「その通りです(畳むのが面倒なだけです)」


(ポジティブすぎる! この人、僕の全てを勝手に美化していく!)


エリナは感動に震えながら、大きなバスケットを差し出した。


「そんな貴方の助けになりたくて……これ、作ってきました。最高級ドラゴンの肉を使ったステーキ弁当です」


パカッ。


蓋が開くと、暴力的なまでの肉の香りが部屋に充満した。

じゅるり。僕の喉が鳴る。


食いたい。死ぬほど食いたい。


【隠し実績が解放されました】

《ミッション:孤高の拒絶(聖女の手料理を前にして、『帰れ』と冷たく言い放つ)》

《報酬:アイテム『無限湧きカップ麺(1日1個)』》

《失敗時のペナルティ:聖女に『あーん』をされている写真をギルド掲示板に張り出される》


(うわあああああ! ステーキ食わせろよおおお! なんでカップ麺なんだよおおお!)


しかし、失敗ペナルティが社会的抹殺すぎる。

「あーん」写真は恥ずかしい。死ぬほど恥ずかしい。

僕は血の涙を流しながら、ステーキから目を逸らした。


「……いらない」


「えっ? でも、お腹が鳴って……」


「帰ってくれ。……僕の修行の邪魔だ」


僕は震える声で(空腹と悲しみで)、冷徹に告げた。


エリナの手が止まる。

彼女は悲しげに目を伏せ……そして、ハッとした顔をした。


「そうか……。私はなんて浅はかな……」


エリナはバスケットを閉じた。


「貴方は今、極限状態における精神の修練中。そこに安易に食料を持ち込むことは、貴方の覚悟を侮辱する行為……!」


(違います。ただ食いたいだけです。置いてってくれるだけでいいんです)


「分かりました。出直してきます。……ですが、これだけは」


エリナは部屋の隅にあった、飲みかけのペットボトル(水道水)を指差した。


「お水だけは飲んでください。死んでしまいますから」


彼女はそう言い残し、深々と頭を下げて出て行った。

ステーキの香りと共に。


バタン。


ドアが閉まる音。


《ミッション達成》

《報酬:アイテム『無限湧きカップ麺(醤油味)』を入手しました》


その場に、ポコンとカップ麺が一つ出現した。

お湯はない。ガスも止まっている。


「……ボリボリ食うか」


僕は乾いた麺をかじりながら、窓の外を見た。

エリナが帰っていくのが見える。

彼女はなぜか、来た時よりも晴れやかな顔をしていた。


「カイト様……。あのような過酷な環境で、自らを追い込むなんて。やはり彼は、現代の『求道者』だわ」


勘違いは、加速する一方だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ