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隠し実績のためふざけてたら、なぜか世界最強扱いされてます  作者: 鷹白マヤ


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4/13

有給が欲しい

1億イェンをドブに捨てた精神的ダメージは大きかった。


僕はリハビリも兼ねて、初心者向けの『F級ダンジョン:小鬼の洞窟』に来ていた。

ここなら、弱いゴブリンしか出ない。魔石を換金して、今日の晩飯代くらいは稼げるはずだ。


「……はぁ。虚しい」


洞窟の奥へ進むと、焚き火を囲む3匹のゴブリンを見つけた。

いつもなら「ギャーギャー」という奇声しか聞こえないはずだが、指にはめた『翻訳の指輪』が怪しく光る。


『あー、マジだりぃ。魔王軍の人事部、またノルマ上げてきたぞ』

『マジで? 先月も冒険者撃退数20%増だったじゃん。これ以上どうしろってんだよ』

『残業代も出ねぇのに、やってらんねーよな。俺、先週子供生まれたばっかなのに』


「……え?」


僕は思わず足を止めた。

聞こえる。

完全に、居酒屋で愚痴るサラリーマンの会話だ。


【隠し実績が解放されました】

《ミッション:中間管理職の悲哀(モンスターの愚痴を10分間、相槌を打ちながら聞く)》

《報酬:スキル『カリスマ(低級モンスター限定)』》

《失敗時のペナルティ:ゴブリンのフンドシを装着(解除不可・洗濯不可)》


(また変なミッションきた! ていうかフンドシは嫌だ! 臭そう!)


僕は意を決して、岩陰から姿を現した。

武器は持っていない。ただ、疲れた顔で近づく。


『あ? なんだテメェ、人間か!? 殺すぞコラ!』


ゴブリンたちが錆びたナイフを構える。

僕は両手を上げて、深くため息をついた。


「……わかるよ。辛いよな、ノルマ」


『……は?』


ゴブリンたちの動きが止まる。

人間が自分たちの言葉(ゴブリン語)を、しかも妙に流暢に話したからだ。


「僕もさ……さっき1億の契約を逃したんだ。システムの理不尽な命令でね。働いても働いても報われない。一緒だよね、僕たち」


『お、お前……人間なのに、俺たちの苦しみがわかるのか?』


「わかるさ。君たちが悪いんじゃない。経営陣(魔王)が現場を知らないだけなんだ」


僕の言葉は、彼らの琴線に触れたらしい。

一番体の大きいゴブリンが、ポロポロと涙を流し始めた。


『そうなんだよぉぉ! 現場はいつだってギリギリなんだよぉぉ! 課長(ホブゴブリン)は丸投げだしよぉぉ!』


「うん、うん。飲もう。今日は僕が奢るよ(泥水だけど)」


兄貴(あにき)ぃぃぃぃ!!』


気がつけば、僕はゴブリンたちと車座になって語り合っていた。

ただ愚痴を聞いて、「大変だね」「すごいね」と相槌を打つ。

それだけで、彼らは僕を「理解ある上司」のように崇め始めた。


《ミッション達成》

《スキル『カリスマ(低級モンスター限定)』を獲得しました》


10分後。

僕の周りには、50匹以上のゴブリンが集まっていた。

全員が正座し、僕の話を神妙な顔で聞いている。


「いいかい、君たちはもっと自分を大切にしていい。有給は権利だ!」


『うおおおお! 有給! 有給!』


その時だった。

洞窟の入り口から、他の冒険者パーティーが入ってきたのは。


「おい、ゴブリンの群れがいるぞ……って、なんだあれ!?」


彼らが見たのは、異様な光景だった。

一人の少年カイトを中心に、凶暴なはずのゴブリンたちが土下座のように平伏し、涙を流しながら叫んでいる。

カイトは無表情で彼らを見下ろしている(実は眠いだけ)。


「あいつ……魔物を『洗脳』しているのか?」

「なんて禍々しいオーラだ……。ゴブリンたちが恐怖で泣き叫んでいる……!」

「『死よりも深い絶望』を与えているに違いない……関わっちゃダメだ、あれは闇の魔導師だ!」


冒険者たちは顔を青くし、音もなく逃げ去った。


一方、カイト。


「あ、魔石もらうの忘れた」


『兄貴! これ、俺たちのヘソクリ(魔石)です! 使ってください!』


「えっ、いいの? 悪いねぇ」


ゴブリンたちは感動の涙を流しながら、自主的に魔石を差し出した。

カイトは「モンスターを精神的に支配し、全財産を貢がせた最悪の支配者」として、新たな噂が立つことになった。

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