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隠し実績のためふざけてたら、なぜか世界最強扱いされてます  作者: 鷹白マヤ


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11/13

簡単の仕事

奈落の塔、第十階層。

ここまで来るのに、すでに半日が経過していた。


「ゼェ……ハァ……ッ!」

「ポーションの残りが少ないわ。ペースを落としましょう」


S級パーティー『黒の剣閃』の面々は、息を荒くして座り込んでいた。

道中、彼らは途切れることのない魔物の群れと死闘を繰り広げてきたのだ。


傷だらけの彼らに対し、僕の服には汚れ一つついていない。

僕はただ、彼らの後ろをトボトボと歩いていただけだからだ。

攻撃は一切していない。

おかげで一千万イェン(とメイド服回避)の条件は守られている。


「カイト……お前、息一つ乱していないな。さすがだ」


リーダーのレオンが、忌々しげに、しかしどこか畏敬の念を込めて僕を見た。

いや、戦ってないんだから当たり前だろ。


「よし、進むぞ。この先は『爆音の回廊』だ」


レオンが立ち上がり、重い扉を押し開けた。

その瞬間、生温かい風と共に、無数の羽音が鼓膜を打った。


キリキリキリキリッ!


天井をびっしりと覆い尽くすほどの、赤いコウモリの群れ。


爆発蝙蝠(ブラスト・バット)だ。絶対に攻撃するなよ」


レオンが冷や汗を流しながら警告した。

A級モンスター、ブラスト・バット。

彼らは刺激を与えたり、僅かでも殺気を向けたりすると、自爆する厄介な性質を持っている。

一匹の爆発が連鎖すれば、この階層ごと吹き飛ぶほどの威力になるらしい。


「殺気を完全に消し、気配を殺して、静かに通り抜けるんだ。少しでも恐怖や敵意を見せれば、奴らはそれに反応して……」


レオンが言いかけたその時。

僕の目の前に、あの見慣れたシステムウィンドウがポップアップした。


【隠し実績が解放されました】

《ミッション:盲目の歩み(目を完全に閉じたまま、ペースを変えずに一直線に100歩歩いて扉を抜ける)》

《報酬:1000イェン》

《失敗時のペナルティ:着用しているズボンのゴムが弾け飛び、足首までずり落ちる》


僕は絶望で天を仰いだ。


なんでこの極限状態のS級ダンジョンで、千イェンぽっちのミッションが来るんだ。

だが、ペナルティが凶悪すぎる。

この物々しい雰囲気の中でズボンがずり落ちたら、僕は爆発を待たずに羞恥心で死ぬ。


やるしかない。

千イェンのために。いや、社会的な尊厳を守るために!


僕は深呼吸をし、目をギュッと固く閉じた。

視界が真っ暗になる。

ブラスト・バットの不気味な羽音だけが、やけに大きく聞こえた。


「おいカイト! 何をしている! 目を閉じたら……!」


レオンの制止を無視して、僕は一歩を踏み出した。


いーち。

にー。

さーん。


心の中で数を数えながら、僕は等間隔で歩き始めた。

前が見えない恐怖はある。

だが、それ以上に「ここで立ち止まればズボンが落ちる」という恐怖が勝っていた。


キリキリキリッ!


僕の動きに反応して、ブラスト・バットの群れが一斉に急降下してきた。

顔のすぐ横を、赤い羽がかすめていく。

熱を帯びた魔物の吐息が首筋に当たる。


(ひぃぃぃ! 当たったら爆発するんだろ!? 避けないと! いや、ペースを変えちゃダメだ!)


僕はひたすら無心になり、ロボットのように一定の速度で歩き続けた。

殺気などあるはずがない。あるのは「一千イェン欲しい」という強欲と「ズボン落ちるな」という祈りだけだ。

攻撃の意志を持たないただの歩行。


奇跡が起きた。


ブラスト・バットたちは、僕を「障害物ではない」と判定したのか、僕の体にぶつかる寸前で進路を変え、波のように割れていったのだ。


「……信じられん」


後ろで見守っていたレオンたちは、息を呑んでその光景を見つめていた。

暗闇の中、目を閉じたまま、狂いの一切ない完璧な歩幅で進む男。

彼に群がる凶悪な爆弾の群れは、まるで彼を恐れ、あるいは王を迎え入れるように道を譲っていく。


「視覚を自ら封じることで、第六感……いや、それ以上の『空間把握』に全神経を集中させているのか」

「しかも、あのコウモリの軌道を完全に読み切り、1ミリの誤差もなく回避のルートを歩いている……!」

「あれが、本当の『無の境地』……!」


彼らには、僕のロボット歩きが「神算鬼謀の回避ルート」に見えていた。


きゅうじゅうはち。

きゅうじゅうきゅう。

ひゃく!


僕はぴったり百歩で立ち止まった。

そっと目を開けると、目の前には次の階層へと続く重厚な扉があった。


《ミッション達成》

《報酬:1000イェンを獲得しました》


ポケットの中で、チャリンと硬貨の鳴る音がした。

ズボンのゴムも無事だ。

僕は安堵のあまり、深く、深くため息をついた。


「終わった……」


そのため息は、ようやく恐怖から解放されたという心からのものだったが。


「……フッ。この程度の試練、退屈すぎて欠伸が出るって顔だな」


レオンが冷や汗を拭いながら、追いついてきた。

彼の目には、確かな敗北感が刻まれていた。

S級冒険者である自分たちが極度の緊張を強いられた回廊を、この男は目を閉じたまま散歩のように踏破してしまったのだから。


「カイト。俺はギルドマスターの言葉を疑っていた。だが、前言撤回だ。お前は……化け物だ」


「いや、千イェンが……」


「金の問題じゃない! お前のその底知れぬ実力への敬意だ!」


(いや、完全にとズボンの問題だよ)


誤解はさらに深まり、彼らの僕に対する扱いは、新入りから「導師」レベルへと昇格してしまった。


最深部への道は、まだ半分以上残っている。

僕の胃に穴が空くのが先か、一千万イェンを手にするのが先か。

地獄の耐久レースは続く。

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