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掌編

作者: 綴 詠士
掲載日:2026/01/17

 こんな城、来るべきじゃなかった。僕の過去に整理をつけたいわがままにロウを巻き込むなんて。


「おーい、ロウー。どこー? 出てきてよー」


 叫ぶ。だけど返事は帰ってこない。


 僕の声は静寂が包む城のあちこちに響いて霧散してしまう。

 

 ロウの返事がない。それが僕を不安にさせた。

 

 僕はロウを連れてこの古い城にやってきたのだが、途中でロウとはぐれてしまった。


 流石に誰もいない城に一人は怖すぎる。さっきからちょっとした音にびくりと肩が震える。


 だからこうしてロウを探している。

 

 この白い石造りの城にもう人はおらず、どこも静けさを保っている。


 廊下を歩くと足元には赤いカーペットが引いてあり、歩くと埃の上に足跡が付く。


 上にはクリスタルのシャンデリアが傾いた状態で吊られている。


 厨房に行くとツンとした腐敗臭を感じる。鍋は空で、お玉などの調理道具がつられている。


 冷蔵庫から臭い臭いが漂うのでそこは触れないでおく。


 僕はそんな城内を歩いていた。


 どこもかしこも見慣れた景色だ。だからこそ全てが色あせてしまったことに胸が痛くなる。

 

 記憶を頼りにあちこちを巡っていると大きな広間に入った。


 謁見の間だ。奥には階段があり、その上に玉座がある。

 

 中心に白い髪の男が座り込み、玉座の方を向いて俯いている。王に頭を垂れるような奇妙な姿だった。

 

「ロウ! ここにいたの!? どうしたの!」

 

 僕はほっとしたが、ロウの様子のおかしさを見て、慌てて駆け寄る。

 

「……」

 

「ほら、起きて!」

 

 ロウの肩を揺らすが、ロウは何も話さず、その目もどこも見ていないようだった。

 

 明らかに普通じゃない。

 

「ロウ! ここを出るよ!」

 

 僕はロウに肩を貸し、そしてこの広間を出ようとした。

 

 だけど玉座に女性がいた。

 

 ドレス姿の女性だ。赤く長い髪。いつも笑っていた美しい女性。今その目は冷やかに僕を睨んでいた。

 

「……ミーシャ?」

 

 ミーシャが杖を振った。


「うわ!!」


 僕の身体が浮き上がったかと思うと、空中に逆さ吊りになった。視界が上下反転する。


 ミーシャは僕に杖を向けながら鋭く言う。

 

「今更何しに来たの? 全部あなたのせいなのに」


「……」

 

 全てミーシャの言う通りだった。僕がすべて悪い。あの日から毎日毎日悩んで生きてきた。


「みんなをこの城から解放しに来たんだよ! 僕のせいで捕らわれた皆を助けたかったんだ」


「助ける? 貴方が?」


「そうだよ! おろしてミーシャ! 皆がどれだけ苦しんだか分かってる! だからもう解放したいんだ!」


「……」


「痛っ!」


 体が自由になったかと思うと地面に打ち付けられる。


 僕はポケットから石を取り出す。青と紫が混ざった美しい石。


「ごめんね。皆」


 僕は魔法を呟く。


 そして石から青と紫の光が放たれ。この城中を包んだ。


 後に残ったのは、砕けた石と、僕とロウだけ。


「……あ? ここは?」


 ロウが目を覚ます。


「帰ろう、ロウ。終わったよ」


 僕はロウと共に城を出た。





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