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天使たちのフォース・マジュール  作者: 鈴木 澪人


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後編(下)

 アティリオに広い屋敷を紹介されて頭がパンクしそうになっていたラミをスヴェンは見つけることができた。


ラミは教えてもらった事をすぐに説明しようとしたが、スヴェンは笑いながら少しずつラミが落ち着いたら教えて欲しいと伝えた。


 当分はマーラの屋敷で過ごすことになった二人は、それぞれに部屋を与えられた。

もちろん二人の部屋は隣同士だった。


マイテの屋敷は大きかったがラミの部屋はそこまで広くなかったので、マーラから与えられた部屋を見て思わず声を出して喜んだ。


スヴェンもラミと似たような部屋を与えられてたらしく同じように喜んでいた。



 夕食の時間になり、二人は食堂へ向かった。

そこには既に何人かの天使とアティリオが座って食事を始めていた。


「ああ、二人とも座ると食事を用意してくれるから!待っているといいよ!」


アティリオに説明してもらった通り待っていると食事を持ってきてくれた。


「あれ?人?」


ラミが不思議そうに食事の用意をしてくれている使用人に声をかけると


「はい、そうですよ。ここで雇ってもらっているんです。普通はあまり女神様の館では人を雇わないんですけどね。女神様は、ほら、自由な方でしょ?」


とウインクをした後、手際よく食事の用意をしその場を去っていった。


「さすがに、僕たちの住居区に人は入れていないんだけどね。どうしても食事を食べたい天使達用に準備してるんだよ。余ったらそのまま、皆に配れるしね」


アティリオの言葉を聞きながら二人は「そんなシステムなんだな~」と感心しながら食事をいただいた。


 それから一週間ぐらいマーラの屋敷にお世話になっていたが、せっかくなので二人で住んでみようと言う話になり、マーラが管理している森の中の小さな家を借りることにした。

もちろん無料というわけでなく、二人で森を管理するという契約だった。


 さすがのスヴェンも人の手を借りずに暮らすというのは初めてだったので、時々家に人を呼び色々教わりながら生活をはじめた。


人にとっては当たり前の出来事も天使の二人には新鮮な出来事で目を丸くして驚いたりしていた。一つ事で大はしゃぎする二人を見た人は


「天使様でも、普通の人の様に感情があるんだねぇ〜」と感心したぐらいだった。


二人は出来ることが少しずつ増え数年後には完全に二人で暮らすことができるようになった。一時になったマーラが二人の家を覗きに来たが、手仕事で作った小物たちを眺めると満足しながら帰っていったこともあった。


ラミは、スヴェンとこのままずっと一緒に暮らしていくと思っていた。


しかし、100年が過ぎた頃スヴェンの様子が少しずつおかしくなっていった。


「ねぇ、スヴェン。しんどいの?」


スヴェンはベッドでよく眠る様になったのだ。

ラミは心配になってマーラを呼びに行った。


医者では天使を見ることができないからだ。


マーラはすぐにラミとスヴェンの家に訪問してくれた。

そして、スヴェンを見ると少し眉をひそめた。


ベッドの近くにある椅子に座りそっとスヴェンの手首を持ち上げた。


「この症状はいつから?」


マーラが少し怒ったような口調で聞くとスヴェンは微笑みながら


「ん~2、3年ぐらい前からです。」


「ママ・マーラ、スヴェンは病気になったんですか?ん?僕たちって病気になるんですか!!」


ラミはパニックになりながらマーラに質問する。

マーラは首を横にゆっくり振ると


「ラミ、よく聞きなさい。スヴェンは病気にはならない。ラミも分かるでしょ?」


「そうですよ…ね?でも、スヴェンがこの頃ベッドから起き上がらないんです!」


マーラはそっとスヴェンの手首をラミの目の前に差し出した。


「ラミ、よくご覧なさい」


ラミは、マーラの言う通りにスヴェンの手首を見ると


「スヴェン…。体が透き通ってるよ?えっどういうこと?」


スヴェンは困った表情をしながらラミの方を見た。


「ラミ…。ごめんね。僕、もうラミを一緒にいることができないんだ」


ラミは、スヴェンの言っていることが理解できなかった。


「何言ってるの?僕たちが消えてなくなるなんて、女神様か自分で消えたいって思わないとそうならないでしょ?」


ラミの声は震えながらマーラに確認をした。


「ラミ、それは女神の庇護下にある天使の事だよ。女神の名をとられた天使の体(スヴェン)は少しずつ消耗されていくんだ」


「えっ、どうして?そんなの僕知らないよ!」


「あっ、そうだママ・マーラの名前をスヴェンに頂戴よ!そしたらスヴェンはもっと一緒にいることができるでしょ?」


ラミはマーラに縋る様に懇願した。

マーラはラミの頭をそっと撫でると


「ラミ、それはできないんだ。」


「どうして?どうしてなの?」


ラミはマーラに理由を聞こうとした時


「ラミ、悲しまないで。僕はラミと一緒に過ごした時間がとても充実していたんだ。もちろんママ・マイテの傍にいた時も幸せだった。僕を生んでくれた人だもの」


スヴェンはマーラの手をそっと外しラミの手を弱弱しく握った。

それは、ラミとのお別れの時間が近づいているような気がしてとても不安になる。


「僕たちは、人ならざる者。特別な力がある代わりに制約もあるんだよきっと。」


スヴェンは最後の力でラミの手をぎゅっと握ると


「ラミには悲しい気持ちを残してしまって本当に申し訳ないけど、僕は幸せだったよ。次は人としてラミに会いたいな。そして一緒に生きて一緒に土に還りたい」

「うん、うん、分かった。スヴェンのお願いを僕は絶対叶えるよ!」


ラミはそう言うとスヴェンの手の甲にそっとキスを落とした。


「ラミのキス、とても暖かいね。最後にそれが知れて良かった」


スヴェンは目を閉じるとそのまま体が一瞬で粒子になり窓の方へ空の方へ向かって行った。


「スヴェン…。スヴェーン!!!」


ラミはスヴェンの粒子を追いかけて窓の近くに駆け寄ったがもう何も見えなくなっていた。

「ラミ…。」


マーラは立ち上がりラミの隣に寄り添った。

ラミは本当ならマーラに抱きついて声を上げて泣きたいはずだったがそんな気になれなかった。

マーラが再びラミの頭をなでると


「ほら、お迎えがきたよ」


と窓の外に視線を向けると


「えっ?ママ?」


ラミとスヴェンの家にマイテがやってきたのだった。


「泣きたいんでしょ?マイテの所に行っておいで」


マーラがそっと背中を押すのでラミはそのまま玄関を飛び出しマイテの前まで駆け寄った。

しかし、ラミはママ・マイテにどのように対応していいのか分からなかった。


「ラミ、おいで」


すると、マイテは両手を広げラミに呼びかけた。

ラミは恐る恐るマイテの体に抱き着くと


「今まで迎えに行けなくてごめんなさい。ラミに拒絶されるのが怖くて逃げてしまったわ」


「ママ?」


ラミは混乱しながらマイテの抱擁を受け入れえいいのか悩んでいると


「マイテ、ラミ!そんなところで立ってないで家の中に入りなさ~い」


マーラの呼びかけに答えるように二人は家の中に入った。


三人で座っているとラミは落ち着かなくなり


「僕、お茶を入れてきます!」と言って席を立った。


すぐにお茶の準備を終えマイテとマーラにお茶を出すとマイテはすぐに口をつけ


「ラミはお茶も入れられるようになったのね」と感心していた。


いつもなら「すごいでしょ!ママ!」と言っていたラミだがスヴェンがいなくなってすぐだったので小さく「ありがとう」とだけ伝えた。


「実は、スヴェンから手紙を貰っていたの」


お茶を飲んだマイテが自分とスヴェンが少し前から手紙のやりとりがあったことを話し出した。


「スヴェンは自分の先が見えてしまったことで、ラミを私に返そうと思ったのね」


「そんな…。」


ラミには何も言ってくれなかったスヴェンがとても意地悪だと思った。

悲しいのに怒りも同時に湧いてきた。


「ラミ、そんなに怒らないで。私の名前をスヴェンに与えることができたら良かったのだけど、私は自由に天使たちを受け入れることができる代わりの制約なのよ」


マーラは少し肩を落としながら説明した。


「だから、私が実際に創造した子はアティリオだけなの。彼もよそから来て心寂しく思っている天使達に気を使って私に甘えてきたりはしないわ」


「唯一なのにそれを享受できないなんて…。」


マイテも思うところがあるらしく思いを口に出した。


「ふふ。そうね。天使たちは人にもてはやされているけど本当に幸せなのかしらね」


マーラもラミが入れたお茶を飲むと「上手に入れられるようになったわね」と誉めてくれた。


「ママ、僕…。」


ラミは、少し言葉を選びながら


「このまま消えてもいいかな?ほら、ママにはいっぱい天使がいるじゃない?僕一人ぐらいいなくなっても、寂しくないよね?ぼく、スヴェンと約束したんだ。次は人になって一緒に暮らそうって!」


マーラは驚きながらマイテの方を見た。マイテは少し目を伏せた後


「分かったわ。それが貴方の望みならば」


ラミは嬉しくなってママに抱きついた。


「ママ、ありがとう。大好きだよ!」


ラミはマイテにずっと言いたかった言葉を伝えた。マイテは一瞬ラミをギュッと抱きしめると


「ママも、ラミが大好きよ」


と微笑みながら伝えると、そっとラミの額にキスをした。

そして、ラミの頭を自分の胸にそっと抱くと


ラミの体もスヴェンと同じように粒子になって砕けて消えた。


「ラミ…。ラミ…。」


さっきまでラミが着ていた服をマイテは握りしめたまま静かに涙を流した。


「愛するがゆえに、我が子の願いを叶えてしまう。女神って本当に悲しい存在だよね」


マーラは残りのお茶を一気に飲むと


「マイテ、貴方本当はラミと一緒に自分の屋敷に戻るつもりだったんでしょ?でも、戻っても以前と同じように閉じ込める事しかできない。だから、最後に…。」


マイテは、ラミが着ていた服を丁寧に畳むとそっと、机の上に置いた。


「ラミの願いが叶うといいわね」


マイテはマーラにそれだけ言うと、そのまま自分の屋敷に戻っていった。







※※※


 「ねえ、昔は女神様も天使様も僕たち人と一緒に暮らしていたんだって」


「そんなことないでしょ?だって僕、女神とか天使とか見たことないもん」


「当たり前だろ~。昔って言ったんだから」


「昔ってどれくらい昔なの?」


「えっと、確か1000年ぐらい前!」


「すっごく昔だね!でも、そんなの記録とか残ってるのかな?」


「どっかに残ってるんじゃないの?ほら、王都とか?」


「いつか行ってみたいね」


「そうだな、二人でお金を貯めて行ってみような」


「でも、お兄ちゃんすぐに買い食いするからな~」


「仕方ないだろ!男には付き合いがあるんだよ!」


「僕も男の子だけど、そんなお付きあいなんて無いよ?」


兄は寝ていたベッドから起き上がると


「それは、お前がまだまだ子どもっていうことなんだよ」

とニヤリと笑いながら言うと


「お兄ちゃんだって、まだ子どもじゃん!」


ベッドの上で兄弟が言い争いをしていると、子ども部屋のドアが開いた


「こら!スヴェン、ラミいつまで起きてるの!明日の学校間に合わないわよ!」


母親に夜更かしをしていることがバレて二人で怒られてしまった。


「もう、スヴェンお兄ちゃんが大きな声を出すからでしょ!」


「ラミがお兄ちゃんを子ども扱いするかじゃないか!」


すると、閉まったはずのドアが再び開き


「あんたたち!二人とも明日のおやつを抜くよ!」


「「ごめんなさ~い、ママ!!」」


兄弟は声を揃えて母親に謝った。


終わり


 これにて、天使達のフォースマジュールは完了しました。

中編を目指したのですが、いかがだってでしょうか?

また、ご縁がありましたら是非拙い文章ですが読んでいただけると嬉しいです!


2025/11/1 鈴木澪人



最後までお読みいただきありがとうございました。

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