中編
前編を読んでくださった方、少し文章を追加しています。
※※※~※※※の部分です。少しだけ大切な事が書かれています。もしよければ戻ってお読みください。
白目になりそうなラミをみながらスヴェンはクスクスと笑いながら
「大丈夫だよ。僕もなんとなく予感がしていたから準備は始めていたんだ」
「準備?」
「うん。野良になって世界を旅しようと思うんだ」
「旅?」
ラミは初めて聞く言葉に目をパチパチとさせた。
スヴェンは、うんと頷いた後
「この街の野良の天使と話をする機会があって、自分の事を相談したんだ。すると、この世界のどこかに野良の天使たちが生活しているエリアがあるんだって!」
スヴェンは嬉しそうにラミに説明した。
「でも、スヴェンはママが見えない所に行くのは怖くないの?」
「怖くないって言ったら嘘になるけどママに名前を取られちゃうからね。ラミよりは恐怖心がないと思うよ」
「そっか~、スヴェンはここを離れるんだね。」
「うん。ここはすごく便利で豊かで色んなものに溢れているけど、僕は見たことの無い花や動物、森や海そして、他の人間たちとも触れ合ってみたいと思うんだ」
「それは、僕には想像もつかないよ。きっと素敵な景色がたくさん見れる旅になるんだろうな」
ラミは暇なときにふらりと寄った事のある図書館の図鑑の絵を思い出しながら足をブラブラとさせ思いにふけっていた。
「ラミも僕と一緒に旅に行ってみる?」
ラミはスヴェンの言葉に驚き彼の方を見た。スヴェンは真剣な表情で話を続ける。
「ラミはここの暮らしに飽きているのかなって思って。もし、僕との旅に飽きてもここに戻って来ることもできるでしょ?そして、僕が住もうとしているところが気に入れば一緒に住むって言うのも素敵なプランだと思うんだ」
スヴェンの魅力的な言葉にラミは少し戸惑った。
実は、スヴェンが野良の天使が住んでいるエリアにとても興味を持ったのだった。
しばらく考えてから
「僕も、一緒に行ってもいいの?」
ラミはスヴェンに尋ねていた。
スヴェンは嬉しそうに頷くと
「とても嬉しいよ!じゃあさっそく行こうよ!」
と立ち上がり、ラミに手を差し出した。
「素敵な旅の始まりだよ!!」
ラミはその手をとり
「うん!じゃあ行こう!」
二人でママ・マイテの館を出た。
ママ・マイテの部屋にはたくさんの子ども達が楽しそうにお茶を楽しんでいた。
その中心にいるのはママだ。
ママの部屋の窓から野良になった天使とオリジナルと呼ばれる天使が手を繋いで出ていく姿を青年は見送った。
そして、ママに目配せをした。
ママは微笑みながら頷いたがそれ以上のリアクションはなかった。
青年天使は心のなかで、オリジナルを手放すつもりなのかなと疑問に思いつつも野良になったばかりの天使を彼の居住区に入っても咎めることがなかったので何か考えがあるのかもしれないと判断することにした。
「ママ・マイテに対する最後の反抗なのかな?」
それだけ呟くと青年天使もママの元へ戻っていった。
華やかなお茶会で一人の天使が立ち上がりくるりと回転する。
「見てみて!ママに新しいお衣装作ってもらったんだ!」
その子どもの言葉に他の子ども達が「すごい!」「素敵ね」「似合ってるよ」
と賞賛の声を惜しまない。
すると、その子どもは照れながら
「がんばったねって言って頭もなでてもらったんだ~」
その言葉に、一瞬部屋が静かになった。
ママから触ってもらえるのは子ども達にとって最上級の愛情表現だからだ。
そして、他の子どもたちは彼に嫉妬しないように自分自身で心の平穏を保たなければならない。特にこの世界に来たばかりの子どもはそれはそれは大変だろうなと青年天使は思った。
何人かの天使が表情を歪ませていたので後でフォローに入ろうと思った。
「すっごいね!私尊敬しちゃう!」
さっき一緒にきた少女の天使がその場の雰囲気を変えようと少し大きな声で感想を言った。
すると、波紋が広がる様に他の子ども達も「そうだよね〜」「実は僕もそう思ったんだ」などと前向きな同意が聞こえてくる。
青年天使が一安心していると、その誉められた子どもは引き続き自慢をしようとするので
「本当にすごいですね。私も同じように正装を誂えていただきました。」
と指を鳴らし、普段着から正装に着替えた。
その衣装は言葉では言い表せないぐらいその青年天使に似合っており息をのむ。
「お兄様はママと一緒に『夜会』に行かれるのですね」
先ほどまで誉めてもらい意気揚々としていた子どもが落ち込んだ声で尋ねた。
「そうですね。時々ですがママの代わりに一人で出席することもあります」
その言葉の意味はママ・マイテの次に権力があるという事だった。
「ですが、私はそのことをあまり大きな声でいいません。ママに誉めてもらえるのはうれしいですがやはり一番の喜びはよりそうべき人間たちに幸せを感じてもらうことですからね」
と微笑みながら説明した。
「僕もお兄様のような天使になりたいです!」
「うん。そうだね。さてと、せっかくママが用意してくれたお茶なんだからみんなで楽しみましょう」
青年天使はポンと一つ手を叩くと自分の席に座り優雅にお茶を飲み始めた。
「スヴェン!見て!空が一面に広がっているよ!」
ラミとスヴェンは通りすがりの荷馬車に乗せてもらい藁の上に寝ころんで空を眺めていた。
御者をしているおじいさんが「長い移動になるだろうから楽にしていいよ」と言葉をかけてくれたからだ。
ラミとスヴェンは人間の姿になって移動をしていた。
もちろん天使のままで空を駆け抜けると直ぐに目的地につくのだが、せっかくなのでのんびりと移動しようと話し合った。
二人は人間を装っているが残念ながら天使という生き物は想像以上に容姿が整っているので御者のおじいさんには見破られていた。
この世界の人間は「天使にもし出会ったら優しくするように」と教えられている。
もちろん、天使に直接会える機会なんてそうそうない。
おじいさんは人生の最後にこのような幸運に出会うことができて良かったなと思った。
おじいさんと別れたラミとスヴェンは近くの村で一泊することにした。
その村にはとても綺麗な花畑があるとおじいさんが教えてくれたからだった。
そして、宿に泊まる時に使ってくださいと二人分の宿代を渡してくれた。
二人はそのおじいさんの優しさに感動しラミとスヴェンがそれぞれ右手と左手に握手をした後「おじいさんに祝福を!」と伝えた。
その行動に驚いたおじいさんは何かを感じたらしく
「この世界を離れる前に良い体験をさせてもらったわい」と笑いながら教えてくれた。
「ねえ、スヴェン。さっそくお花畑を見に行こうよ!」
ラミはソワソワしながらスヴェンに提案した。
「そうだね。まだ時間もあるし僕も気になってた」
そのお花畑は村から少し歩くとすぐに見つけることができた。
産業として花を栽培しているらしく丁寧に管理されていた。
二人はちょうどよいベンチを見つけたので座ることにした。
「僕、こんなに大きなお花畑見たことないよ!」
ラミは嬉しくて思わず羽が出そうになったが、スヴェンが背中をポンポンと叩いてくれたので我慢することができた。
「そうだね。色んな色のお花が咲いてるね」
スヴェンはラミよりは喜んでないように見えた。
「もしかして、スヴェンはお花はあまり好きじゃないの?」
「もちろん大好きだよ。でも…。」
スヴェンは少し考え込むようにそのお花畑を眺めていた。
「もしかしてお花さんがスヴェンに何かを伝えているの?」
ラミはスヴェンに尋ねると
「えっ、どうして分かったの?」
「う〜ん。なんとなく?勘?」
「勘かぁ〜。僕はどうしたらいいんだろう」
スヴェンはもどかしそうにそのお花を眺めていると
「そんなの簡単だよ。お花に触って直接聞いてみればいいんだよ!」
「お花に直接聞くの?」
「うん。だって、スヴェンだって僕と一緒に旅にでないかい?って聞いてくれたでしょ?今回はお花にどうしたの?って聞けばいいだけ!」
「一回やってみるね」
スヴェンはまだ納得していなかったがラミに言われたようにお花の近くに行き、そっと花びらに触れた。すると、スヴェンは目を見開き
「ラミ、聞こえるかもしれない。この子の思いが」
「うんうん、じゃあそのままお話しすればいいんだよ」
その言葉を聞いたスヴェンはそのままの状態で目を瞑り時折頷いたりしていた。
スヴェンは嬉しそうに振り返り
「お花さん達、寂しいんだって。この地域は天使がなかなか遊びに来てくれないし、来てくれてもお話しを聞いてくれないって。」
「そうだったんだ」
ラミはそんなこともあるんだなと思っていると
「うん、分かった。僕でもいいの?」
スヴェンは再びお花に話しかけた。
「じゃあ、少しだけね。それと天使が見つけやすいように少しだけ印をつけておくよ」
と言うと、スヴェンは掌でお花たちを撫でるような仕草をした。
すると、薄く虹色の光がそのお花畑全体に行き渡るのをラミは見た。
「スヴェンの力はとても綺麗だね~」
思わず呟くと
「そう…かな?自分の力ってあたりまえすぎてあまり分からないよ。でも、すごく僕の力は自然と相性がいいみたい。スッとこのお花畑に溶け込んだよ」
しばらくスヴェンの力につつまれたお花畑を見ていると
「だから、僕は人間を幸せにするにが苦手だったのかもしれないな」
と少し肩をすくめながらラミに伝えた。
「そっか、確かノルマってやつがあったんだよね。えっ、まだノルマってやつがスヴェンにはあるの?」
スヴェンは首を横に振りながら
「ママと神の名前が無い今はもうないよ。」
「…。そっか」
ラミは立ち上がると、少し元気になったお花畑を見渡した後
「じゃあ、おじいさんが教えてくれたお家に行ってみようか?」
と言いながらスヴェンの手を握った。
スヴェンは照れながら手を握り返し
「うん。スヴェンとラミです!って言えば大丈夫って教えてくれたもんね」
「そうだよ~。なんか、急に緊張してきたかも」
ラミが手を繋いでいない方の手で胸をそっと抑えた。
「ハハハっ。大丈夫だよ!僕がちゃんと言ってあげるから。ラミは後ろで見学していて!」
急にお兄さんぶるスヴェンを見てラミは可笑しくなって笑いながら
「じゃあ、お願いしますね~」と伝えた。
最後までお読みいただきありがとうございました。




