前編
全体的に暗い内容のお話しです。
気分が落ち込んでいる時などにお読みするのはおすすめしません。
2025/10/18
※※※の部分のお話を追加しました。少しだけ大切な内容なのでもし良かったら読んでください。
「ママ!僕今日ね、こんな事したんだよ!」
「ママ!私はね、こんな出来事があったの!」
一人の女性の周囲に何人もの人だかりができていた。
僕も、僕もママに伝えたいことがあるんだけど...。
ラミもママの所へ向かおうとすると
「ママ!僕の話も聞いて!」
一人の少年が女性の所へ向かっていくと
「止まりなさい。貴方はそれ以上近づいてこないで」
さっきまでニコニコと微笑んでいた女性の視線が冷たくなりその少年を見つめている。
それまでほんわかとしていた空気がピリっとひりついた。
「スヴェンか...。」
一人の男の子がその拒絶された少年の名前を呼んだ。
すると、女性の周囲にいる子達がヒソヒソと噂話を始める。
「あの子少し数字が足りないんだよね?」
「そうそう、ずっとママから注意されていたのに全然だから。」
「あ~、ママは苦手になっちゃったのかな?」
「ママ...。」
泣きそうな表情のスヴェンに興味を失ったママは他の子が話しかけてきたのでそちらの方を向いて再び話を聞き始めた。
スヴェンは服をギュッと握った後、回れ右をして部屋を出ていった。
ラミを含め数人の子ども達がそれを無言で見送った。
ラミはママに自分から声をかけるのを諦めて自分の部屋に戻った。
ラミ達の世界には、人間や動物の他に天使と呼ばれる青年から幼児までの子ども達が存在している。天使を創造することができる者を女神と呼び、天使たちは自分を創造してくれた女神の事をママと呼んでいた。
女神は基本的に個人で活動しているが時々神と呼ばれる上位の存在と契約し何かしらの力を授けてもらったりしていた。その力は天使を創造しやすくし管理しやすくできるらしい。
ただし、女神が創造した天使は自身が責任を負わなければならない。天使が世界に害をなすことがあれば女神も同様に罰を受けなければならなかった。
神と契約をした女神はその制約の内容が上がり厳しくなる。
ラミは自分の部屋の質素なベッドに飛び込むとそのまま顔を枕に埋めた。
「はぁ~」
思わず溜息がこぼれた。
ラミはここの女神の家でも少し異色な存在だった。今、女神の家に存在している子達は神と契約した後創造された天使達だった。
しかし、ラミはその女神が何処にも所属していない時に気まぐれに創造された天使だったのだ。
だから、他の天使たちの様に何かノルマがあるわけでは無かった。
そして、他の天使たちの様に声をかけて貰える存在でも無かった。
でも、ラミはママを見つめるだけで十分だった。心が満たされる気持ちになるからだ。
ちょっとぐらいは話しかけてできることなら「すごいわね、ラミ」と誉めてもらえた日にはきっと空を飛ぶことが出来ると思う。
もちろん、天使だから空は普通に飛べるんだけどね。気持ち的にって事だよ。
ラミはさっきまでベッドに寝そべっていたがこのまま一日を過ごすのも勿体ないと思い、外に出ることにした。
自分の部屋を出るとさっきママに冷たくされていたスヴェンが廊下でうずくまっていた。
※※※
女神の館はその女神の天使たちの人数によって大きさが変わってくる。基本的に一人一部屋与えられている。もちろん、天使の実力により部屋も大きくなる。以前ラミが間違って他の天使たちが住んでいる階に入ってしまった時、その豪華さに驚いたのを覚えている。
ただし、ラミが間違って行ってしまった階にはマイテの天使の中でも上級天使と呼ばれる子ども達が住んでいた。
廊下なのにフカフカな絨毯が敷き詰められており、大きな窓がたくさんの光を取り込んでいた。その廊下を数人の天使たちが楽しそうにおしゃべりしながら歩いていた。
「うわぁ~。」
その天使たちが身に着けているものも豪華で、すごく似合っていた。
きっと、ママが直接創造して渡したものだと見受けられた。
その違いは、同じ生地なのにキラキラと薄く輝いているからだった。
ラミの声に気付いた青年の天使がこちらを見た。
ラミは慌てて挨拶をする。
「こんにちは」
一応笑顔も添えてみた。
他の天使たちもラミを見て驚いたが直ぐに表情を戻し
「どうされましたか?」
「あの、間違ってこの階にきちゃったみたいで」
「そうですか。早くご自分のお部屋にお戻りください」
青年の天使が丁寧に対応してくれる。でも、ラミには他人行儀に見えて少し寂しかった。
「うん。そうだね。ごめん。」
というと、頭を下げて自分の部屋がある階へと向かった。
その後ろ姿を見送った天使たちは
「あの子は?」
「ああ、私たちのお兄様だよ」
「えっ?でも僕たちは初期メンバーだよね?」
「聞いたことないかい?私たちの神様と契約する前に創造されていた天使が何人かいるって」
「まさかのオリジナル!!!」
少年と青年の天使の会話を他の天使たちが聞いている。
「オリジナルってなぁに?」
かわいいワンピースを着た少女が青年の天使に尋ねた。
「私たちは、神と女神が契約した後に創造された天使だよね。すばらしい能力を与えられた分、多くのこの世界の者を幸せにしなければならない。貰った分を返還しなきゃいけない」
「うん」
「でも、オリジナルと呼ばれる天使は女神に乞われこの世界に創造された天使なんだ」
「うん?」
少女は理解できないという表情をする。
「彼は私達より力が弱いよ。でも大きな違いがあるんだ。それは、愛されるために創造された天使ってことだね」
「愛されるために?」
「まあ、女神の気まぐれとも呼ばれるけどね。神と契約するまでは大切にされていたんじゃないかな?」
「えっ、じゃあ今は?」
青年の言葉に興味を持った少年が質問すると。
「そんなの無条件に私たちの前で慈しんでみな。私たちの効率が下がるじゃないか。そんなこと神が許すと思うか?」
「だから、あの子はいつも一人なの?」
「そうだね。でもその理由をあの方は知らない。だから、私たちと同じようにがんばっているんだけどね。神の名が入っていないから意味がないんだよ」
青年は少女の頭を撫でながら伝えた。
「ふぅ〜ん。それは、幸せなのか、そうじゃないのか」
少年は思い悩む。
「教えてあげないの?」
「私たちには、あの方に説明する権限なんてないよ。もし、私たち以外の天使に知られてその子がノルマを達成できなかったら誰が責任を取るか分かる?」
青年が少女に視線を合わせるために屈んだ後
「私たちの大切なママ・マイテなんだよ?」
「じゃあ、あの子には黙ってる!ママが悲しい思いをするのは絶対ダメ!!」
少女はその場をピョンピョンと飛び跳ねながら青年に訴えた。
「そうだね。私たちは自分のすべきことをして、少しでもママと共に過ごせるようにがんばろう」
少女にそう言うと、天使たちはママがいる部屋に向かった。
階下に行くとき、ふと青年が上へ向かう階段を見つめる。
その階段は決して華美ではない。しかし、青年は知っていた。
「あの方が住んでいる階は、私たち神の名を持つ天使は立ち入ることができない事も知らないんでしょうね」
青年と女神と神しか知らない秘密だった。
※※※
「スヴェン、大丈夫?」
ラミは思わず声をかけた。スヴェンはその声に一瞬ビクッと反応した後ゆっくりと顔を上げた。
創造された天使は皆とても美しく生まれてくる。スヴェンも例外ではない。
ラミは、ママを含めスヴェンを避ける理由が分からなかった。
「ああ、ええっと、君は?」
「僕はラミだよ。ラミ・マイテ」
ラミはスヴェンを立ち上がらせる為に手を差し出した。
ラミの名前を聞いたスヴェンは驚きながら
「君は...。そうか、僕はスヴェン・マイテ・ベレスフォードだよ」
と言いながらラミの手を握り立ち上がった。
「どうして廊下に座っていたの?」
ラミは不思議そうにスヴェンに尋ねた。
スヴェンは悲しい表情をしながら
「僕、自分の部屋が無くなったんだ。驚いちゃった。」
スヴェンの言葉にラミは驚きを隠せない。
「えっ?部屋ってなくなるの?」
少し大きな声で尋ねたのでラミは自分の声に驚きすぐに口を手で隠した。
「ごめん!もしよかったら僕の部屋に来る?」
ラミの言葉にスヴェンは驚いた後
「いいの?僕...。その...。」
多分、さっきママの周囲にいる子達の言葉をきにしているのだろう
「うん!全然大丈夫だよ。ほらっ!こっちこっち!」
ラミは無意識にスヴェンの手を引っ張り自分の部屋に招いた。
「どうぞ~」
「お邪魔します。」
スヴェンはキョロキョロとラミの部屋を見ていた。
「あっごめん。ジロジロみて気分が悪いよね」
「ん?全然大丈夫だよ。ほら、ここに座りなよ!」
小さな机と二脚の椅子がある方を指さしながらラミが言った。
「お茶でも飲む?」
「うん。頂こうかな」
ラミの部屋は質素だが全ての物が揃っていた。ミニキッチン、シャワールーム、寝室と今二人のいる部屋だ。
お茶の用意を持ってきたラミは小さな机の上に並べると、どうぞとスヴェンにお茶を勧めた。
暖かい湯気のでるお茶を両手でそっと持ち上げフー、フーと冷ました後
「頂きます」と呟いてコクりと一口飲んだ。
「あっ美味しい」
スヴェンの言葉に嬉しくなったラミは「ほんと?初めて人にお茶を出したから緊張しちゃった」
とハニカミながら答えた。
二人が一息ついたところでラミが声をかけた。
「で、部屋が無くなるってどういうことなの?」
その状況が理解できないラミはスヴェンに再び尋ねた。
「うん...。僕たちはこの世界に存在する者たちを幸せにしなければいけないって知ってるよね?」
「そうだね。それが存在理由だと思っているし、ママに報告すると誉めてもらえるもんね」
「ラミは、その...。ママのオリジナル。つまり、神様と契約する前に創造してもらった天使なんだよね?」
「うん。ママに一度だけ神様を紹介してもらったことがある。」
ラミは、マイテが契約する前にベレスフォードと顔合わせをしたことがあった。
それは、ラミにマイテが神と契約する事を許してもらうためではなく、神がラミを含めてマイテと契約するかどうかを判断する為だった。
まだ、あまり存在を感じないラミを神は害をなさないと判断した。
「僕は、あまり人や動物を幸せにすることができないみたいなんだ。幸福度が上がらないからいつもノルマを達成できなくて。多分ついに神様が僕をいらないって判断したんだと思う」
「えっ?そんなことがあるの?」
ラミはスヴェン達がそんな大変なノルマを課せられていた事を知らなかった。
自分はなんてお気楽に毎日を過ごしていたのだろうと思った。
「ラミは知らないと思うけど、そういう天使は多いんだよ。もしくは自分で自滅してしまう場合も」
「自分で自滅?」
またラミの知らない言葉だった。
スヴェンは、両手で持っていたカップに口を付けてコクりと飲むと
「ノルマに耐えられずに、自ら罰が与えられるような悪い事を人間にしてしまうんだ。」
ラミはスヴェンの言っている事が理解できず頭を横に傾けた。
スヴェンはラミが分かりやすい様に言葉を選びながら
「う~ん。例えば、人間の子どもがお腹が空いていました。でも、お金を持っていません。お金をくれる大人も周囲にいません」
「うっうん」
ラミはそんな子どもがいるだけでちょっと悲しくなってしまう。
それが表情に出たのかスヴェンは慌てて
「例えばだからね!今はいないからね」
「そういう時、ラミだったらどうする?」
スヴェンは先生のように語りかけてくれた。
「う~ん。僕だったら、お家に帰って何か食べようよ?お家の人が心配しているかもしれないよって声をかけると思う」
スヴェンはうんうんと頷きながら
「そうだよね。でも、ママと神様に見放されちゃうって思った天使はこう考えるんだ」
スヴェンはラミの目を覗き込むように目を合わせると
『どうしてこんなに頑張っているのにママたちは僕を見てくれないんだ。そうだ、僕が愛されないのはこの人間達のせいなんだ!』
「そうして、自分がこんな目にあう前にその子どもにも悪い事をさせてと考えてしまう。結果...。」
ラミはゴクリと唾を飲み込むと
「けっか…?」
「目の前にある物を盗んで逃げるように『囁くんだ』」
「囁くの?」
「そう、僕たちは人を導く力があるからね。言い換えれば人を惑わす事もできるってこと」
「そっそっそんなぁ~」
ラミは天使が人に悪い事をさせる為に自分の力を使うことがあると聞いてすごくショックを受けた。
それは天使にとって禁忌だからだ。
過去に、一つの国を幸せにした『大天使』とよばれる子がいた。しかし、その子は人を愛するが故に近づきすぎ人の欲に汚されてしまった。最終的には、色々な人間の欲に耐え切れず人間に振り回され神と女神によって消滅させられた。
「そうだよね。普通の天使はそう思うよね。」
スヴェンは残りのお茶も飲み終えるとごちそうさまでしたと言って席を立とうとした。
ラミは慌ててスヴェンを引き留める
「スヴェンはこれからどうするの?」
さっきの悪い例を聞いたばかりのラミはスヴェンが心配になってきた。少しだけお話ししたという関係だけどこうなったら放っておけない。
「う~ん。どうしよっかな。多分僕はもうすぐ名前以外を剥奪されてしまうと思う。そうなるともうこのママの家に住むことはできない。」
また、ラミの知らない規則があった。
「えっそうなの?」
「うん。その時は、野良の天使になるか」
「なるか?」
「この体をママにお願いして眠らせてもらう…かな?」
スヴェンの言葉にラミは気絶しそうになった。
最後までお読みいただきありがとうございました。




