第四章∶輪郭のない地図を手に
進むべき道は見えていない。
けれど、立ち止まるよりは歩きたい。
描きたい気持ちだけを頼りに、まだ白紙の地図を手に取った。
高校生になり、まわりが進路を決めていく中で、僕だけが宙ぶらりんだった。
名前を聞いたことがある大学を受けて、どこかに滑り込んで、なんとなく就職して──そんな未来は、なぜか自分のものとは思えなかった。
僕は、何かを作りたかった。言葉にならない感情、胸の奥に溜まっていく熱のようなものを、誰かに伝えたかった。だけどその「何か」が何なのか、自分でもはっきりとはわからなかった。
漫画? 映画? イラスト?形にならないあこがれだけが、手のひらにじんわりと残っていた。
思えば、描くことだけはやめなかった。友達に頼まれた似顔絵、学園祭のポスターやチラシのデザイン。気がつけば、美術室にいる時間が一番落ち着いていた。
──そうだ、美大を目指してみよう。
それが正しい選択なのかなんて、分かるはずもない。でも、そこへ行けば、何かが変わる気がした。自分の輪郭も、居場所も、まだ知らない「何か」も。
家族に言い出すのは少し怖かったけど、父は意外にも、あっさりと「好きにすればいい」と言ってくれた。母は少しだけ不安そうな顔をしたが、それでも「自分で決めたなら応援する」と言ってくれた。
高校三年の夏、美術部の先生にすすめられて、大阪の美術系予備校の夏期講習に参加することになった。わずか一週間だったけど、そこには、同じように美大を目指す生徒たちが全国から集まっていた。
その中に、思いがけない再会があった。中学時代、僕に「オカマ」と叫んで通り過ぎたアイツが、偶然にも同じ宿にいたのだ。
最初は言葉も交わせなかったけど、知らない土地で唯一の顔見知りだったから、一週間だけ、なんとなく仲の良いふりをした。
講習会ではじめて体験した鉛筆デッサン、色彩構成。見たこともないような実力の持ち主たちの中で、自分はただ戸惑うばかりだった。技術も、センスも、そして何より覚悟も──自分には何ひとつ足りないことを思い知らされた。
東京の美大を三校受験したが、結果は全滅だった。それでも、不思議と絶望はしなかった。むしろ、ようやく自分が向かうべき場所の入り口に立てた気がしたのだ。
たどり着けなかった場所も、寄り道した道も、
いずれはこの地図の一部になる。
失敗も、少しずつ未来の輪郭を描いていく。




