第二章:空と海と秘密の約束
子供の頃、自分だけが変わってしまったように感じた夏がありました。
静かな海と空の下で、小さな僕は心の中に“秘密”を抱えます。
浩明のことが好きだと気づいた時、僕は何もかもが変わってしまったような気がした。 だけど、周りは何ひとつ変わってはいなかった。 運動場の砂も、教室の匂いも、誰かの笑い声も、昨日と同じままそこにあった。
変わってしまったのは、僕の心の中だけだった。 そして僕は誰にも知られてはいけない秘密を自覚した。叶わない想い。 人とは違う感情。 それは、この先ずっと、決して他人にはバレてはいけない真実。
僕は、何のためにこの世に生まれてきたのだろう。 まだ何も知らなかったはずのあの頃、それでも僕の中には、どうしようもない問いがすでに芽生え出していた。
夏休みのさなか、家族で海に出かけたある日。海水浴場はにぎわっていたけれど、僕の心はどこか遠くを漂っていた。浮き輪に身を預け、波にプカプカ揺られながら、海面から半分顔を出し空を見上げた。とても気持ちいい。その瞬間、周りの雑音がピタリと消えた。
青い空、白い雲、太陽の光が水面に反射して、とてもまぶしかった。周りの人の気配は消えて、だだ一人だけこの大きな海に浮遊している。そして、ゆっくりと心の中で“お天道さま”にお願いをした。
「この先、いずれ僕は『死にたい』と願う日が来るかと思います。でも、その願いだけは決して叶えないでください」
「それは僕の本心ではないから。きっと、どこかにそれでも生きていきたいという気持ちがあるはずだから···」
そのとき、突然風が吹いた。耳の横を冷たい水がすり抜けていった。現実の世界に舞い戻されると同時に、何かを肯定されたような、見えない誰かに正式に承諾されたような、そんな気がした。波の音が寄せては返し、周りの雑音とともに僕の小さな祈りは、静かに海の底に流されていった。
その夏、僕は“僕だけの秘密”を初めて抱えて、大人になるための第一歩を踏み出したのかもしれない。
読んでくださってありがとうございます。
はじめて「祈り」に似た感情を抱いた時のことを思いながら書きました。
誰にも言えない気持ちを、空や海にそっと預けた経験のある方に届くと嬉しいです。




