プロローグ:風にまかせて
ご訪問ありがとうございます。
このお話は、ある田舎町でひっそりと暮らす男と一匹の犬が紡ぐ、静かな時間の記録です。
ゆっくりと綴っていきますので、のんびりお付き合いいただけたら嬉しいです。
風の音がするたびに、あの季節を思い出す。都会の喧騒に背を向けて、父と母の暮らす田舎の家に戻ったあの日から、もう十五年が月日が
経っていた。 まさか自分が、この家の最後の住人になるなんて夢にも思わなかった。
ここには、もう誰もいない。いや、正確には、僕(元:はじめ)と愛犬(コーギー:ライカ)がいる。いつも僕の視線をそっと受け止めてくれる唯一の大切なパートナー。
朝の光が障子越しに差し込む部屋で、僕はノートを開く。 白いページの上に、何かを残そうとするけれど、言葉はなかなか姿を見せない。
ふと思い浮かんだ言葉を静かに置いていく。 昨日の夢の断片だったり、若かった頃の誰かの笑い声だったり。
若い頃、僕にはたくさんの恋物語があった。 男と男という関係が珍しくなくなってきた時代の、少し手前。 新宿のビルの谷間で見上げた空は狭く、でも、確かに自由の匂いがした。
それに比べて田舎の空は、やたら広くて、やけに眩しい。 そして、少し、さみしくて、ちょっと、つまらない。
誰にも語られない人生は、なかったことと同じなのだろうか。 誰にも読まれない言葉は、黙ったまま消えていくのだろうか。
僕には子供もいないし、語り継がれるような物語もない。 けれど、もし風に乗せられる“想い”があるとしたら―― 僕は、誰かの心にそっと降り立つ、タンポポの綿毛のように、いつか小さな花を咲かせる種になりたい。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
自分の記憶や体験を織り交ぜながら書いています。
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次回もどうぞよろしくお願いします。