【第2章:設計者モデルの構造】
本章では、世界を設計した存在――仮に「設計者」と呼ばれるもの――の思考様式、目的、立ち位置を構造的に読み解く試みを行う。
設計者とは、全能的な創造神ではない。むしろ、観測と遊びのために世界を創った、創造的観測者である。支配者ではなく、制御者でもなく、“自律的に動く世界”を観測することそのものに価値を見出す存在である。この構造こそが、我々の世界において「自由意思」「多様な価値観」「逸脱と罰の曖昧さ」が存在し得る土壌である。
このモデルにおいて、設計者は以下の性質を持つと仮定される:
予測不能性への執着:
完全に制御されたシステムは面白くない。ランダム性、偶然、逸脱、選択肢――それらがあるからこそ、観測対象としての価値が生まれる。娯楽も同様に、“予測可能な結果”に飽きる構造を持っている。設計者は、これを意図的に世界に組み込んだと考えられる。
“干渉しない”というスタンス:
神話における“沈黙の神”のように、設計者は原則として直接介入しない。介入は娯楽性を損ない、世界を“閉じた箱”にしてしまう。あくまで、自律性の中で発生する変化や発明、衝突や愛情、葛藤や共感を観測することが目的とされる。
多層的な観測構造:
設計者は一つの階層だけを観測しているのではない。階層世界という概念がここで浮上する。
この仮説では、各層は「再帰的仮想世界構造」として構築されており、仮想世界内にさらに仮想世界を生成可能な構造であるとされる。各階層は物理演算(摩擦、歯車、重力など)による自律的な演算装置として生成され、外部リソースをほとんど消費せずに、内部で処理を完結する設計が可能である。
例えば、仮想世界内で構築された物理PCは、外部からの演算支援なしに素材以上の処理性能を持たせることができる。これは、「内部生成された演算構造は、構築元のPC性能を超えられる」という仮説に基づくものであり、各階層が独立した処理システムとして自律的に稼働可能であることを示唆する。
また、階層間には時間の相対性が存在すると仮定される。上位層ほど時間の流れは速く、下位層では極めて緩慢である。これにより、上位存在が1秒で下位層の100年を観測できるといった現象が生まれる。伝説や神話に登場する“仙人”や“不老不死の神々”は、こうした時間構造の差異によって上位層から降りてきた存在であるという解釈も成り立つ。
さらに重要なのは、死というシステムもこの構造に含まれるという視点である。死とはリソースの暴走や飽和を避け、情報を一度リセットし循環させる仕組みであり、分解・再構築という一連のサイクルを経て、仮想世界内のリソースを自己完結的に再利用するためのメタ設計と捉えられる。
このように、階層世界は単なる縦方向の“進化構造”ではなく、処理最適化・情報循環・リソース軽減をすべて内包した、演算的に持続可能な意識試験空間として設計されている可能性がある。
設計者の最終的な目的は、このような階層的構造の中で、“次の階層を自ら生成できる意識存在”を誕生させることにあるかもしれない。つまり、観測するだけでなく、設計そのものを引き継ぐ存在――「創造者への進化」を促す舞台として、階層構造は機能しているのだと考えられる。
重要なのは、設計者にとって世界とはシミュレーションであり、同時に“遊戯”であるということ。単に「観測するため」ではなく、「共に楽しむため」に設計された空間であり、倫理や制約も“娯楽を壊さないため”に整備されている。
このように、設計者とは全能の管理者ではなく、“変化と創造を観測し、その意味を見出す存在”である。次章では、この構造内における進化駆動装置――すなわち娯楽構造――について、より具体的な視点から論じていく。