9 皇都でのルディ2
「で、皇都の筆頭聖女はシスティナさんが続投ですか?」
意図的にカレンが話題を変えた。
言いたいことは分かる。ティアとすげ替えるかどうかを、訊いているのだ。
(いずれ、そういう話も出てはくるだろうからね)
ルディは腕組みをした。
大聖女レティには劣るとされるものの、特にシスティナ本人の能力や才覚、態度に問題があるわけではない。
(ティアというよりも、神竜のことをどう捉えるかそういう問題だが)
同じく神聖なもの、ということで一括りにされているようだ。
「神聖教会が認めないだろうね、ティアと神竜ドラコでは。信仰の面でそもそも根本が違う」
あくまで神竜信仰が盛んなのは旧ティダール王国である。リベイシア帝国としては神竜の力は利用したいが、信仰の対象ではない。
「システィナ嬢本人も有能だからね。ティアを担ごうとすれば、ブランソン公爵辺りの政敵が強硬に反発するだろう」
つまり政争となりかねず、それを国として助長するわけにもいかない。
更にルディは加えた。
破邪の術も巧みに使う。歴史上『大聖女』と呼称されるものには至らないまでも、その穴を埋めるには十分な実力を持つ。
「そうですわね。真面目な人ですし、システィナさんは」
カレンも相槌を打つ。
「あぁ、彼女で問題はなかった。いや、今も聖女としての能力だけを見れば、それは変わらないわけだよ」
あくまで雑談だ。そのつもりでルディも告げる。
先日、公衆の面前で破談されたことが、どう影響するのか。
チラリとルディは考える。
突き詰めればロラン・シセイの方に問題がありそうだから、あまり経歴に傷つくことも無いのではないか。
「国防の面もですわね。シセイ侯爵家とコナーズ伯爵家に任せておけば、南東は問題なかったはずですが」
カレンも悩ましげだ。
両家の領土はネブリル地方と境を接する、リベイシア帝国では珍しい地域である。小規模ながら魔獣の駆除を頻繁に行っている。
特にここ最近はシスティナ嬢の活躍もあって、即座に鎮圧されているのだが。
「システィナ様が皇都に留まって筆頭聖女としての務めを果たせばよろしいかと思います。南へは有事の際にだけ出動すればよいのです。これまでは、システィナ様が厚意で即応していたようですが、そもそもそれが、シセイ侯爵家を不当に利していたのです。本来なら、騎士団に応援を申請するべきところも、システィナ様に倒してもらって、せずに済んでいた、ということもありましたな」
ジャクソンが珍しく口を挟んできた。いつもは置物のように立っているだけなのだが。
話題がシスティナ・コナーズとなった時から、身動ぎを始めたのである。
「そのとおりです。筆頭聖女と誉れ高いシスティナ嬢には、ぜひ皇都で。他の若手の聖女様方にとっては、最高の手本でもあると。これは私の方に報告が来ております」
文官として勤めてくれているジャイルズが口を挟んできた。
2人がルディの前に並んで立つ。
「そもそも隣り合うとは言え、ロラン・シセイなど身の程知らずが婚約していたなと。奴の剣は評判だけが独り歩きしているが大したことはない」
ジャクソンが吐き捨てるように言う。
魔法剣士マイラ追放につき、目下、剣技では並ぶ者がいないとされている。現役の騎士団長だ。
「幼い少女の頃から、あの大聖女レティ様の亡き後、破邪の面で帝国を支えてきたのはシスティナ嬢です。彼女なくして、今の平穏なリベイシアはありませんよ。労う意味でも、厄介者から解放された今、心安らげる相手と寄り添うべきてはないかと。武張ってない者が理想的かと思いますが」
ジャイルズも負けじと言う。
「あらまぁ」
カレンが口元を押さえて苦笑いだ。
側近2人がシスティナ・コナーズに思いを寄せていたらしい。実のところ、ルディはまるで知らなかった。
「2人とも我こそは、ということかい?」
ルディは思わず、直接的な問いを発してしまう。
「そんなあけすけに聞くものではありませんよ」
カレンにすかさずたしなめられてしまった。
「ロラン・シセイごときで良かったなら、俺の方が、と何度思ったことか」
ジャクソンが怒っている。まして破談の仕方も気に入らないのだろう。
「私が彼女の隣にいられれば、と何度夢想したことでしょうか」
負けじとジャイルズも思いの丈を吐き出す。
「まぁ、彼女も今や自由な立場ではあるし、言い寄ってダメなこともないが」
ルディは首を傾げる。
唯一、あまり直感の働かない分野だ。今もどちらが筆頭聖女システィナに相応しいのか、ピンと来ない。
「システィナさんがそれは決める事ですから、殿下が悩むことではありませんよ」
カレンに思考を読まれた。
(あぁ、他人事だからか)
ルディは納得する。
一方でクレイ・ディドルとティアのことについては認知した時には即座にお似合いだ、と思えたのだった。我がことに近くなれば直感も働くらしい。
「君たちのどちらかでも、彼女を幸せにできるのなら、それも良いのかもしれないね」
ルディの言葉に2人がうなずくのであった。




