8 皇城でのルディ
華やかだった新ティダール公クレイ・ディドル公爵の紹介と、その可愛らしい婚約者ティア・ブランソン公爵令嬢のお披露目を無事に済ませることが出来た。
(まぁ、あの舞台を全てお膳立てするまでが長かったのだが)
ルディはサンダードラゴン撃退から皇城に戻るなり、多忙な日々を過ごす羽目となっていた。その当時を思い出す。
負傷し、顔に包帯を巻いてからはすべてが上手くいっている。父帝からの評価が上がり、カレンとも和解した。
(システィナ嬢の破談には驚かされたが)
そこも自らの機転で乗り切った。
元婚約者にして、元未来の義妹だったティア・ブランソンからは物凄い目で睨まれることとなったのだが。もう2日経っているのに未だに噛みつかれそうになる。
「平原都市リンドスでまた、ネズ燃しの儀があるらしい。私自ら行かないとね」
平原都市リンドスのチャルマーズ執政からの手紙にルディは気付く。
「まぁ、楽しそうな儀式ですこと」
カレン・メルディフが露骨に顔をしかめる。
ティダール地方での巡視からの帰還後、政務を手伝いに来てくれるようになった。
判断は遅いが、筋道立っていて常に的確だ。カレン自身が言うにはルディの判断が早すぎるだけとのこと。『決めてから理由を考えるのはやめてくださいませ』とはよく言われる。
「あぁ、大盛り上がりする行事だよ。片端から用水路でね、ベグいネズミどもを射殺していくのさ」
ルディは嬉々としてカレンに説明する。
なお『ベグい』というのは平原都市リンドスのあるティダール地方東部の方言だ。「汚い、臭い、醜い」の三拍子揃った状態を指す。ベグラットの状態をよくあらわしている。
水利にこだわるリンドスの住人にとっては死活問題でもあり、気持ちのすく、お祭り騒ぎなのであった。
「まぁ、本当に楽しそうな行事ですこと」
カレンがわざとらしく目を見張る。
『私はごめんですよ』と言わんばかりの顔だ。
別に来てくれとも言っていないのだが。
(ジャクソンとグラムの3人で行ってこようかな)
リドナーことクレイ・ディドルにも参加してもらおうか、ルディは思案する。婚約者を汚くて狭い水路に連れていくことになるので、またティアに睨まれることだろう。
「そんなことより、本当にティアさん、というか神竜様は山岳都市ベイルに?皇都や旧王都のデイダムでもなく?」
意図的にカレンが話題を逸らす。ベグいネズミの話はしたくないらしい。
(君は神竜ドラコにもサンダードラゴンにもご執心だものね)
一目見るなり、裏で『可愛い』を連呼していた。挙げ句、『神竜様ではない方だけでもいただけないかしら』と真剣な顔で妹のリーリィにも相談していたほど。
本音としては、神竜ドラコを遠くに置きたくない気持ちもあるのだろう。
「私の判断というよりも、神竜ドラコの気持ちを慮れば、それが最善らしい」
肩をすくめてルディは答える。サンダードラゴンの方は分からない。だが、矢倉ごとふっとばされた身としてはあまり共に暮らしたいものではなかった。
神竜ドラコを皇都リベイルに置くべきだ、という意見の貴族も多い。
確かに皇都リベイルの方が箔もつく。ティアの実家であるブランソン公爵家も当然、皇都に屋敷を構えている。
「ティア本人が実家と今、険悪だから、というのもあるが」
思わずルディは零す。自分と同じぐらい、ブランソン公爵夫妻も実子であるティアからは嫌われている。祝宴の時には言葉を交わそうともしなかった。
(では旧王都デイダムに、というのも分かる。神竜と言えばティダール、その古い象徴なのだから)
特にデイダムの執政や住人は大喜びだろう。
(いや、どこであれ、大歓迎だ。リベイシアにせよティダールにせよ)
ルディは結論づけて苦笑いだ。
「あぁ、殿下のことをティアさんがお嫌いですものね」
珍しくカレンが的外れなことを言う。
「そうじゃないよ。神竜ドラコにとっての生まれ故郷は山岳都市ベイルなんだから。そちらの面が神竜の性質上、大事らしい」
ルディは説明していて、どうやら冗談を言われたのだと遅れて気付く。
当然、自分の子のことを話したのは山岳都市ベイルにいる魔術師ジェイコブである。変わり者だが神竜についての見識は間違いがない。
「それはあくまでティダールの人たちの見方ですよね?こちらの魔術師や魔獣の研究者には確認させないのですか?」
カレンが最もな問いを今度は飛ばしてくる。
「あぁ、一応、手配はしたが、ティダールの人間以上に分かる人間はいない、と。そういう結論になったよ」
ルディとても最初から何も図らないわけがない。結局、神竜を信仰する文化や歴史において、千年を超える時間を費やしてきたのがティダールなのだ。思い入れからして違う。
「何より、私の勘が、ドラコは山岳都市ベイルに置くべきだ、と言っている」
更には直感も働いたのでルディとしては間違いはないのだった。
「はいはい、分かりました」
カレンが呆れたように言い放つのであった。




