5 システィナの来訪1
ムスッとしているティアがあまりにも可愛い。
ルディとカレンが立ち去ってからのことである。リドナーはじっと正式に婚約者となったティアを見つめていた。
いくら見つめていても飽きることはない。
(あぁ可愛い。本当に可愛い)
心の中で呟き続ける。
実のところ2人きりでもあるのだが、愛おしさのあまり大暴走して、ふらちなこともしたいのに。リドナーには出来ないのだった。
「ピッピッピッピー」
「ジ」
2頭の幼竜がガッチリとティアにまとわりついているからだ。
時折、リドナーもティアを抱きしめようとするのだが、ことごとく妨害されて上手くいかない。
山岳都市ベイルではティアが寮住まいで同僚と相部屋なので、当然、2人きりにはなれず、この遠出こそが好機とリドナーは目論でいたのだが。
「上手くいかないなぁ」
リドナーは苦笑いでボヤく。
先程も立ち上がりティアに近付こうとして、ドラコと目が合ったのだ。
「ピッ」
ドラコが声を上げてティアの胸に顔を埋める。まるで見せつけてくるかのようだ。
サンダードラゴンのサンタの場合、もっと酷くてリドナーの腹に体当たりを食らわせてくる。
「どうかしたの?」
ムッスリしていたティアが心配そうに首を傾げる。
ドラコを膝に乗せて、チョコンと椅子に座っている姿がまるで人形のようだ。
「あまりにティアちゃんが可愛いから危機感を募らせてる」
お披露目の場でも衆目を集めていた。以前はどうだったかは知らない。ルディ皇太子と婚約していた当初も同一人物なのだから、人気が出ていたとしても、まるでおかしくないのだが。
(そんな感じはなくて。むしろ、同年代たちはみんな、あんなに可愛かったのかって、2度見してる人がほとんどだったな)
リドナーは思い返すのだった。山岳都市ベイルでも親衛隊が出来ていたほどである。
「また変なこと言ってる」
ティアが笑う。冗談を言われたと思っているらしい。
「あーあ、ドラコとサンタが留守番なら、俺、ティアちゃんを独り占め出来てたのに」
リドナーは半ば投げやりに言い放つ。
「だって、私と一緒じゃないと、ドラコもサンタもお腹ペコペコになっちゃうもん」
ティアの言うとおりだ。この幼竜2頭には、清純なるティアの魔力が活力の源として、つまり食糧として必須らしい。
「いやさ、思ったんだけど、魔力の量だけならさ。ジェイコブさんでも良かったんじゃ?」
リドナーはかねてから思っていたことを告げる。
「ピ、ピィィ」
ドラコが悍ましい提案を理解したのか。たてがみを逆立てて震え上がる。
「なんてこと言うの?あんな気持ち悪い人、ドラコもサンタも嫌だよね?」
ティアからも咎める眼差しだ。
ジェイコブというのは山岳都市ベイルに滞在している、旧ティダール王国の魔術師である。女性好きで遠慮のない視線を向けるため、ティアからもとても嫌われていた。
(ティアちゃんの場合は、痩せてるから色気が無いって失礼なことを、ジェイコブさんが言ったせいだけどね)
リドナーには理解できないのだが。ジェイコブにとってはティアの体型は魅力に欠けるらしい。
「ダメだ。我慢できない」
リドナーは後方に回ってからティアを抱きしめようとする。
あえなくサンタの体当たりに邪魔されてしまう。
「ジェイコブさんの是非はともかくとしてさ。ドラコとサンタがいると、ティアちゃんと2人きりの時間が貴重だから。大事だよね、って話」
仕方なくリドナーは抱きしめられないまま、気持ちを言葉だけで説明する。
「確かにそう言われると。リドと二人っきりの時間も大切だよね」
大真面目にティアが言い放つ。真剣にどうすれば二人っきりになれるのかを考え始めた顔だ。
「ま、慌てなくても結婚しちゃえば、独り占め出来るのかなぁ」
リドナーはなおもティアにしがみつく幼竜たちを見て苦笑いを浮かべる。
山岳都市ベイルでは告白して婚約した。今ではもう、公的な立場のうえでも皇太子のお墨付きを得ての婚約状態だ。
(余程のことが無い限り、もう誰にも割って入られないぞ)
リドナーは緑がかったティアの金髪を見下ろす。つむじですら可愛いのである。
幼竜2頭にしても、いつまでも赤ちゃんのようにティアに張り付いてばかりではないはずだ。少しずつ独立心が芽生えて、空や野原で遊び回るようになるらしい。これはジェイコブから聞かされていることだ。
(あとは、魔獣狩りの真似事とかもするようになるとか、そうなればもう、俺はティアちゃんと)
リドナーは楽しい未来を束の間、夢想する。
不思議なのはそこで思い浮かべるのが旧ティダール王都デイダムではなく、現住所である山岳都市ベイルなのであった。
リドナーにとっては幼少期を過ごした場所が旧王都デイダムなのだが、懐かしいとも思わない。嫌な記憶があるわけでもないので、ただ不思議なのだ。
「結婚後も楽しくしたいけど、今だから、婚約のところだから出来る楽しいことをしておきたいのは、私もよく分かる」
こちらはどこまでも大真面目にティアが告げるのであった。




