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落ちこぼれ聖女は絶対に祈らない  作者: 黒笠


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4/4

4 ルディとカレンの新たな関係性について

 ルディはカレンを伴って、様子見に訪れたリドナーとティアの客室から去るところだった。

 絨毯の床を二人並んで静かに歩く。

「ご判断はよろしかったと、私も思いますけど。やはりシスティナさんのことを晒し者にするのは、私も酷かったと思うので、霞ませる必要はありました。それは納得できるんですよ?私は」

 カレンが言葉を並べていく。

 ティダール地方での巡視を終えてから皇都に戻ると、初見からカレンが優しく接してくれるようになった。

 理由は分からない。結局、ティアと復縁しなかったからなのか。別の理由からなのか。

「でも、ティアさんをまた、とっても怒らせてしまいましたね」

 カレンが自分の肩をポンと叩く。

 気安い所作であり、まるで戦友のようだ。

「どうも私はティアには嫌われる運命のようだね」

 ルディはボヤかずにはいられない。

 悪いことばかりをしてきたわけでもないはずだ。今、幸せそうにリドナーことクレイ・ディドルと婚約出来ているのも、それを認めたのも。そもそもはルディがティアを破談して山岳都市ベイルに送り込んだからだ。

 そして破談するには一度、婚約するしかないのだから結果としては、そのための婚約だったのではないか。

「この怪我をした時にもね、それは強い言葉で拒絶されたものさ」

 元未来の義兄にして、元婚約者に投げる言葉としては余りに強い拒絶だったとルディは思っている。

「だって、殿下はそれだけのことをティアさんにしてきましたから」

 コロコロと笑ってカレンがあけすけに言う。

「まったく、君はどっちの味方なんだ」

 ルディは嘆かわしい気持ちのままに尋ねる。今は周辺に誰もいない。気の置けない話もすることが出来る。

 誰かがいれば、自分は直感で分かるのだ。

「当然、その件についてはティアさんですわ」

 悪びれずにカレンが即答する。

 自分に対して失礼なのだが、不思議と不快ではない。

(今更、変に歩み寄られては私も気持ち悪いからね)

 ルディ自身もカレンとの遠慮の要らないやり取りを楽しんでもいた。

「でも、それにしても楽でいいですわ。包帯グルグル皇太子殿下になられたおかげで、だいぶ政敵が消えましたから」

 にっこりと笑ってカレンが言い放つ。

『恋敵』ではなく『政敵』ときたものだ。まるで自分を恋愛対象としては見られないと言われているようなものだ。

「まったく、性根の悪い言い方だ。レティだったら思いもつかないだろうね」

 ルディは思わず口走る。また女性をかつての婚約者大聖女レティと比べてしまった。

「私はレティ様とは違いますから。あくまで政治的目論見で殿下の妻となるんでしょうから、私は」

 しかし、負けることなくカレンが言い返してくれる。落ち込まれるよりも遥かに有り難い。

「悲しいことを言うね」

 故にルディも安心して言葉を返す。

「だって、それが現実ですから」

 更にカレンが頷くのだった。

 なんとなくカレンこそが今の自分には良い相手なのだろうと思う。カレンの側もまた、自分の人間性はともかくとして、立場や能力に価値を見出してくれている。

 今更、他を当たるより、弓の腕に優れ直感の鋭い自分を良しと判断してくれた。

(愛し合って、結ばれるばかりが夫婦ではない、か)

 そう考えるとじゃれ合うようにして慈しみ合っているクレイ・ディドルとティアたちのことが、羨ましく思えてならない。

「ティアは義妹のはずというか。最早、義妹だったものとして、妙なことはしないようにしようと思うんだ」

 あの娘はレティの代わりにはなれない。おそらくは誰も大聖女レティの代わりになどなれないのだ。ようやく理解できてきた。

「そうですね。ではシスティナさんは?ちょうど良いではありませんか?身軽にもなられましたし?大聖女程ではなくとも筆頭聖女ですよ、当代の」

 可愛らしいことに珍しく、カレンが仄かにやきもちを滲ませて言葉を並べる。

「今更、私を試さないでおくれ。もう、レティの代わりを探すなんて。誰に対しても失礼だから、私はしないよ」

 あっさりとルディは否定した。

 そもそも性格的にシスティナ・コナーズの人間性がレティとはあまりに違いすぎることもあるのだが。

 自分に対しても他人に対しても厳しすぎる。おおらかだった大聖女レティとはまるで対極なのだ。

「その御言葉が聞けて安心しました」

 カレンが微笑む。

 自分を試したのだろう。時々、カレンの行う可愛らしい言葉遊びだ。

(まぁ、私もこういうところは、カレンのことを可愛いと思ってしまう)

 現に安堵した顔のカレンを見てルディは微笑む。

 隠そうとするカレンの可愛らしさを見出すのが、ティダール地方での巡視から帰還後、ルディの楽しみとなっていた。

(大丈夫、もし、君さえよければ、私の妻となれるのは君だけだから)

 女性関係についてはティアのみならず振り回してきた自分だから選べる立場ではないこともまた、ルディは自覚しているのであった。

 

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