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落ちこぼれ聖女は絶対に祈らない  作者: 黒笠


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3 カレン・メルディフとの再会

 ティアはリドナーに抱きしめられていた。

 そんな中、ノックの音が唐突に響く。

(どうせ殿下だ。帰って)

 ティアは思い、言葉にも出すつもりだった。

「どうぞ」

 だが、先に温和なリドナーが返事をしてしまう。

 結果、部屋にルディ・リベイシアが入ってきてしまった。とても嫌なことである。ティアはリドナーの胸に顔を埋め、無視しようとした。顔も見たくないのである。

(あっ、でも良かった。顔、見えないもん)

 ティアはルディの端正だった顔が未だに包帯巻きであることに、暗い喜びを見出す。かつて巨大化したサンダードラゴンのサンタとの戦いで矢倉ごと吹き飛ばされたのだ。

(あれは、サンタもいけなかったけど。でも、腹の立つ顔を見なくて済むのはありがたいかも)

 ティアは欠伸をしているサンタを見て思う。

「だから言ったじゃないか、カレン。ティアの怒りは凄まじいから、クレイ君に鎮火してもらってからの方がいい」

 腹の立つ声が言う。やはりルディ・リベイシアには腹が立つ。自分の姉であった大聖女レティの婚約者だった。姉の死後は妹だからという理由で婚約者とされ、姉と同じになることを強要された。

 背丈や体格からして絶対に無理なのに、服装まで真似させた分からず屋である。

(大っきらい!)

 ティアはいつもどおりに睨みつけてやった。

「あら、そんなに怒らせた自覚があるんですね」

 ルディの後ろからまた別の声が言う。

「あの可愛らしいティアさんが、殿下には凄い顔をするんですのね。無理もないけど」

 カレン・メルディフ公爵令嬢だ。いつもどおりに背筋をしっかりと伸ばしていて、まったく隙がない。美しい紫銀の髪に青い瞳がいつも落ち着いている。

(でも、なんか雰囲気が変わった。柔らかい感じ)

 ティアは首を傾げる。

 知らない仲ではない。ルディの婚約者をさせられていた時にも何度か会っていた。

「カレン様、お久しぶりです。またお会いできて、とっても嬉しいです」

 ティアはカレンには満面の笑顔を向ける。

 カレンのことは好きだ。ルディの無茶振りに呆れ果てていて、いつも気の毒がってはお菓子をくれた。その妹のリーリィ・メルディフも学友である。

「私とは随分、反応が違うじゃないか」

 ボヤくルディに対し、ティアは舌を出す。

「でも、おかげで公然とティアちゃんと結婚できます。ありがとうございます」

 リドナーがティアの腰を片手で抱き寄せて告げる。

 独占したい気持ちを隠しもしないのであった。気持ちとしてはこそばゆい。

「亡国の王子で国交も悪くなかった。むしろ同盟国であり、滅んだ理由も理由だ。だから特殊な公爵と出来たし、ティアとの婚約も周囲に説明できた。だが、まだ先は長いよ」

 偉そうにルディが言う。どういうつもりで、そして自身の立場をどう思って言っているのだろうか。

 ティアは首を傾げてしまう。

「ティダールを君に統治してもらわなくてはならない。既に難しいことになっているし、大変だろうまず君を正式なティダールの統治者と認めさせることからだけどね」

 肩をすくめてルディが言う。あくまで皇太子としての話らしい。政治のことなのだ。

「そこは殿下の名声が役に立つのではなくて?ディドル新公爵閣下を見出した、あの巡視で人気がお有りなのですから」

 カレンがたおやかに微笑む。

 確かに山岳都市ベイルでも、皇都に至る途中の街でもティダール地方ではルディの評判が良かったことをティアも思い出した。

(ビクヨンって街では狼をいっぱい射倒してて、平原都市リンドスではネズミをいっぱい射倒してて。途中の街道沿いの街でも魔獣をいっぱい射倒してて)

 弓で魔獣を射倒してばかりいだけではないかと、ティアは思い直した。

「ティアの人気もかなりのものだったから、この婚約もクレイ君の立場を確立させるのには、大いに寄与するだろうね」

 ルディが頷いて加えた。

「そうだね。でも、そのティアちゃんと結婚したくて、身分を明らかにしたんだから、俺からしたら本末転倒かもしれませんけど」

 リドナーが苦笑いで告げる。

「ティアも君も今までどおりではいられないだろう。特にティアは私が見つけ出す前から神竜殿を孵した巫女をしていたのだから」

 ルディがドラコを見下ろして告げる。微笑ましそうな眼差しだが、騙されてはならない。ティアにとっては嫌な相手なのだから。ドラコにもどんな阻喪をするかしれたものではない。

「貴方たち、特にクレイ閣下は、暫くはここでお勉強。そして山岳都市ベイルに戻ってからも学べる目処がついたら、皇都を出るようかしら?」

 カレンが微笑んで説明してくれる。

「はい。とりあえずは一月滞在して。またティダールに戻ってから、こちらを往復する日々ですね」

 リドナーが頷く。

 ティアも聞いていた話だった。

(改めて、すんごくリドは忙しくなっちゃうんだ)

 自分も同行するわけだが、今のところはリドナーの方が大変だ。

「私も手伝うよ?たくさん。ティダールならではのことはまだまだだけど、リベイシアのことは一通りお勉強したから」

 ティアは幾度となく申し出たことをまた告げる。

「そうね、ティアさんは皇妃教育も一通り身につけてるものね」

 カレンが微笑んでくれた。

「それもたった数年でよく詰め込んだものよね」

 更に褒めてくれるのがカレンの嬉しいところだ。

「ただ、なぜか礼儀作法も身に着けたはずなのに、幼く見えたのはなぜなのか」

 そしてルディが余計ごとを言い、この場の皆から睨まれるのであった。

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