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落ちこぼれ聖女は絶対に祈らない  作者: 黒笠


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2 デンカユルサナイ

 東の果てティダール地方の山岳都市ベイルからティアはリドナーとともにリベイシア帝国皇都リベイルを訪れていた。

 今はリベイシア帝国皇城の客室をあてがわれている。

 大きなお部屋で快適だ。神竜ドラコの卵を孵し、魔力を注ぎ込んで育てる『竜の巫女』として帰還してきた身なので、扱いも丁寧なのかもしれない。

 ただ部屋の豪奢さも何の慰めにはならないぐらい、ティアは怒っている。

「デンカユルサナイ」

 ティアはムスッとして零す。

 せっかくの大好きなリドナーとの婚約発表である。可愛らしい青いドレスも嬉しくて、リドナーとの婚約自体はもっと嬉しい。

 さぞかし喜びしかないであろう、そんな舞台となるはずだった。

 なお、あまりに嬉しかったので、まだドレス姿のままである。

(せっかくせっかくせっかく!)

 ティアは膝の上で拳をぎゅうっと握り締める。

 久しぶりのドレスだったのだ。目を丸くしていたリドナーの反応も嬉しかった。

 姉である大聖女レティのお下がりばかりを着せられていた頃とも違う。衣装代はあったはずなのに、元婚約者であった、皇太子ルディのせいで、かつてはサイズの違うドレスばかりであった。

 その恨み骨髄のルディが自分たちの婚約発表をダシにしたのだから、当然に許せない。

「なんかよく分からないけど、仕方ないよ。悪いのはあのロランって人だよ。そもそも俺たちが主役の場なのに、勝手に婚約破棄とか始めてさ」

 リドナーが苦笑いを浮かべて告げる。

 確かにその通りなのだが。

 自分とリドナーがわざわざ東の果てからやってきたのは、いよいよ亡国ティダールの王子だったリドナーがクレイ・ディドルとして爵位を賜るためだったのだから。

(で、私が大好きだから、婚約発表もって、殿下にしては、気が利いてるって思ってたのに)

 結局、ルディ皇太子はルディ皇太子のままであり、どうにもならない人なのだ。

「ジ」

 サンダードラゴンの幼竜サンタがリドナーに賛成するかのように、声を上げた。

「場を治めるために、私たちの婚約発表を使った。一生に一度の、嬉しいことなのに。ダシに使われるなんてあんまりだもん」

 ティアは椅子の上で膝を抱え込む。

 やり直しをお願いしたいぐらいだ。

「クルルルルル」

 可愛い神竜の幼子ドラコが同調して、唸り声をあげてくれた。

 こちらはただ可愛いだけだ。

「ドラコはちゃんとおんなじ気持ち。ありがとう」

 ティアは嬉しくなってドラコを抱き上げる。更にはぎゅうっとした。

「仕方ないよ。なんか、理不尽な目に遭わされてたみたいな?システィナさんって人は、ドラコ付きのティアちゃんを抜かせば、この国で一番の聖女様なんでしょ?そんな人が大舞台で恥をかかされれば、大騒ぎになるんだから」

 リドナーが分別くさいことを言う。更にはやさしく頭を撫でてくれる。

「ううっ」

 システィナのことは知っている。鮮やかな金髪の美女だ。姉のレティ亡き後、リベイシア帝国が大崩れしなかったのは、システィナのおかげでもある。筆頭聖女として率先して魔獣駆除に駆け回ってくれていた。

(でも、あの人、私のこと、嫌ってた)

 ティアは思い返す。なお、まだリドナーのよしよしは続いている。

 自分にも他人にも厳しいのがシスティナの人間性だ。特にティアにはとても厳しかった。『貴女はお姉様と同じぐらいの素養があるのよ』と言っては、時には祈りを父母よりも厳しく強要してきたものだ。

「嫌だった。せっかくリドと一緒にチヤホヤされるはずだったのに」

 ティアはしょんぼりする。

「こんなに格好いい人と、婚約出来ていいでしょう?って自慢するはずだったのにぃ」

 人生で一度きりの機会だ。姉のレティと自分を比べてばかりだっつ人たちを見返す場でもある。

 特にブランソン公爵夫妻、つまり実父と実母の前で見せつけてやりたかったのだが。それも微妙なものとなってしまった。

「とっても、嬉しいことになるはずだったのに」

 もう16歳になった自分がいかに子供っぽいことを言っているのか。自覚はあるのだが。

 改めてティアとしては、ケチがついたようで無念なのだ。

「俺は、こんなに可愛いティアちゃんを見られたから、それだけでも大満足なんだけどね」

 リドナーがキザったらしく抱き寄せてくる。

 更には耳元で囁くというおまけつきだ。吐息が耳朶に当たってくすぐったい。

 ティアは身動ぎしてしまう。

「ずるいよぉ、こんなに大好きなのを利用して。無理矢理、許すように仕向けるなんて」

 ティアは小声で囁く。

 男性の割に小柄ながら抱かれるとやはりリドナーの身体は硬くてたくましい。

「ピィ」

「ジ」

 ドラコもドラコで、サンタにのしかかられておとなしくなっている。あの2匹の幼竜たちも何をしているのだろうか。

 ティアは半ば呆れつつも、リドナーが抱き寄せたままなので、それどころではないのであった。



 

 

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