16 ドラコのダンスと父襲来1
ティアは退屈で欠伸を噛み殺す。
翼竜に襲われて2日後の昼下がりである。皇都の巡回がより強化されたからなのか、あれから魔獣の出現も緑衣の者たちの出没もない。
「リド、頑張ってるのかなぁ」
なんとなく呟く。声を出さないと人の声が全くしない空間なのだ。
皇城にあてがわれた客室で、今日もティアは子竜たちと過ごしている。
リドナーなどはいつも皇城だ、というだけではしゃげるようなのだが。ティアの方は、ルディの婚約者をさせられていた頃に、何度も訪れていたので全く目新しくない。
とにかく退屈なのだった。
「ピッピッピー」
客室の真ん中、赤を基調とした絨毯の真ん中で。
ドラコが後ろ脚で立って踊っている。鳴き声を上げながら、ひたすらサンタの前で尻尾とお尻を、リズミカルに振り続けるのだ。
「ジ」
一方、サンダードラゴンの幼竜サンタがその眼前でうずくまっている。
(何やってるんだろう、この子達)
ティアはぼんやりと2頭を眺めていた。
「ピッピッピィー」
ドラコが楽しげに尻尾を振りながら、前後に動く。時には尻をサンタに見せびらかすように。
「ジ」
サンタが唸って横を向く。
するとドラコも踊りながら、またサンタの前に出る。まるでサンタに見せつけるような踊りなのであった。
「2人とも、可愛いんだけどねぇ」
ティアはポツリと呟く。
一回りドラコもサンタもまた、身体が大きくなったようだ。巨大化した時も同様だろう。
(ドラコが私の魔力を溜め込んで、太ってくれた時は、ほぼ成竜だったもんね)
ティアはドラコの一本角を思い出す。
サンダードラゴンのサンタもティアから魔力を身体の底から搾り取ったので、ちゃんと成竜になって大暴れしたこともあった。
「ジ」
サンタがまたうるさそうにドラコの踊りから目を逸らそうとする。
ティアとしてはどうしても、ドラコよりサンタの方が苦手なのであった。魔力は等しく与えているのだが。
(サンタの方も分かってて、少し距離を取ってくれているみたいなんだけど)
仕草や態度を見ていても、サンタの方がドラコよりも大人びているように見えた。
(なんか、ドラコのこのダンス、サンタに媚び媚びしてるみたいに見えるんだよね)
ティアは可愛い神竜ドラコを眺めていた。元気よく踊り続けている。ティアの取り合いこそするものの、総じてドラコがサンタのことを好いているように見えた。
「ピッピッピ、ピッピッピィー」
ドラコがまたサンタの目の前に出た。
勉強中なのである。一応、山岳都市ベイルから医学の教材は持ってきていた。
今一つ身が入らない。
幼竜たちの戯れのせいではなく、自分の問題だ。
(どうしても、ここは、ちょっと嫌な思い出がチラついちゃう)
ティアは壁にすら見覚えがあるのだ。
散々、この皇城で祈りを強要されてきたのである。
(お勉強するのなら、治療院の女子寮が一番良かったな。ネイフィさんが2人と遊んであげてくれてたし)
ティアとしては、山岳都市ベイルを出る理由などなかったのだ。
(リドのお嫁さんになるのに、医学の知識って、必要になるのかな)
信念として、知識というのはいくらあっても困るものではない、とティアは思っていた。だから医学の勉強をしてもいいのだが。始めたのはそもそも、ヒーラーとして歩むことになると、自分の人生について思っていたからなのだ。
(でも、私、戻れるのかな)
ティアは不安になるのだった。
今のところ、リドナーもルディ皇子のつけてくれた教師について勉強漬けだ。
「ピィ?」
踊り疲れたのか、ドラコが脚にすがりついていた。
「ふふふ、ドラコもサンタも、リドのことも大好きだよ」
ティアは微笑んでドラコを抱き上げる。
リドナーの勉強が一旦落ち着いたら、山岳都市ベイルに帰るのだと言われていた。ルディ皇子もまたドラコの住まいとしては、生まれた場所であるべきという見解らしい。
「ドラコもベイルに帰りたいよね?」
ティアはギュッとドラコを抱き締めて尋ねる。
「ピィッ!」
ドラコが嬉しそうにさえずる。
「リドが大変だから、私たちも家族みたいなものだから、一緒にいようね」
ティアはドラコに言い聞かせるのだった。
どこまで話が伝わっているだろうか。澄んだ碧い瞳をティアは覗き込む。自分の顔が映っているだけだ。
「リドはね、ティダールの王子様だったんだよ。でね、隠れてても良かったんだけど、私たちを守るためにね、ちゃんと名乗り出たら大変になったの」
ティアは今までにも言い聞かせてきたことをまた今日も言う。
「そのおかげで、結婚の約束もね、出来たの。誰ももう、私とリドのことを邪魔しちゃいけないよ、ってなったんだけど」
ティアは思い浮かぶままに説明する。
ただドラコが自分を見つめてくれていた。
「でも、そんなことより、リドと一緒にいたいよね」
ティアは呟くのだった。




