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落ちこぼれ聖女は絶対に祈らない  作者: 黒笠


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14 筆頭聖女を巡るやり取り

 ルディは翼竜出現と筆頭聖女システィナによる駆除の報せを同時に受けた。神聖教会付近と聞いた既にジャクソンが、突風のように出撃しており、事後報告である。

 今はもう、ジャクソンも一仕事を終えて報告に来ているところだ。なおジャイルズとカレンも執務室にいる。

「まさか魔獣討伐に出て何もせず、代わりに聖女様を口説いてくるとは、一体、どういうことですか」

 ジャイルズが呆れ顔で書類を抱えたまま、ジャクソンを咎めている。

 目撃者の話では、その場で改めてシスティナ・コナーズに愛を述べ、後日、茶会の約束までしたという。

「役得で便乗したことも、騎士として不甲斐ない結果だったことも認める。だが、同じく縁談を申し込んだ者として、そうしてしまうほど、システィナ嬢が魅力的な女性であり機会を逃すわけにはいかないことぐらい、ジャイルズ殿なら分かるだろう」

 堂々とジャクソンが開き直っている。

 なお、ルディにはさっぱり分からない。聞いていて呆れ果ててしまう暴論なのだが。

「それは分かります」

 すんなり納得してジャイルズが頷く。

「しかし、おめおめと独占させるわけにはいきません。私もコナーズ伯爵閣下に直接かけあって、お茶の約束を勝ち取ってきましたよ」 

 なぜだかジャイルズも張り合っている。こちらは外堀を埋めにかかっている、という話らしい。

「なんと!しかし、俺は思いの丈をシスティナ嬢御本人に伝えたのだ。これは大事なことだと思う」

 ジャクソンが力説する。こちらはこちらで恋愛には何やら持論がある様子だ。

「ジャクソンさんは、うちのグラムさんに時々、恋愛相談をしているから、変なところで庶民的なんですよ」

 カレンが耳打ちしてきた。面白がっている様子だ。

(このあたりは君も年頃の女性なのだね)

 ルディはため息である。

 なお、グラムというのはカレンの父メルディフ公爵の私兵だ。ティダール地方での巡視に付き添ってくれたことがあった。気さくで好感の持てる、同世代の男だ。

「では、あまり役に立たないだろうね」

 ルディは零すのだった。

「なるほど、しかし、お父上の方はどうやら、ロラン・シセイでの失敗からか、次は文官の方が良いかと思っている様子ですよ」

 ジャイルズがニヤリと笑う。

 南部の国防について意見を交わしてきたということだったが。本音ではこちらもシスティナ目当てだったということだ。

(君らは本当に。あの婚約破棄騒ぎのあとから何をしているのだね)

 もう一度、深々とルディはため息をつく。

「そりゃ、あのシスティナさんに婚約者が不在、となれば高位の貴族男性はこうなりますわ」

 カレンが笑って言う。

「婚約が決まっていたから、みんな諦めていただけで。今となっては私よりも男性人気はありますもの」

 肩をすくめてカレンが言う。だが、そういう自身も優雅で美しい女性である。システィナにも劣らない、とルディは思っていた。

「君の場合は言葉が厳しいから、自信のない男が逃げていただけさ」

 カレンに魅力が無いからではないと思う。

「あら、私が厳しいのは、殿下のティアさんにしてきた所業だけですわ」

 厳しいことは認めつつ。悪びれずにカレンが応戦してくる。そこで応戦してくるから逃げるのだ。

「確かに殿下にだけは、恋の相談などできませんな」

 ルディが言い返すよりも先に。ジャクソンが失礼な言葉を放つ。

「同感です」

 ジャイルズも大真面目に相槌だ。

「まったく、その件も落ち着いて。ようやく私も父上からの信頼が復活したというのに」

 執務室の机上には書類が山積みだ。いよいよ世継ぎとして、引き継ぎの段階にルディは入った。任される仕事の量がそのまま書類の量である。

(特にティダール関連のものが多い)

 新ティダール公となったクレイ・ディドルを導くのも自分の仕事だ。

 元々ティダールでは王太子教育を受けてきており、そちらはまだかなり覚えているらしい。教養も深いのだが。リベイシア帝国の法規や歴史には疎い。

(出自を考えれば、無理もないのだがね)

 新たに学ぶべきことも多い。

「ここで、クレイ公爵に何かあれば、確かに大変ですわね」

 真面目な表情となってカレンが告げる。ティダール統治の成否はクレイ・ディドルにかかっている、ということはカレンとの共通認識だ。

「今回の襲撃、現場にはクレイ君とティアもいたんだろう?」

 狙いはシスティナではなく、あの2人だろう。むしろシスティナの存在は敵にとって誤算だったはずだ。

「ティダールにいた危険人物と、同じ格好の者に襲われた。そう言ってましたね」

 ジャクソンが頷いて答える。

「赤いローブの男だな」

 ルディも覚えていた。ネブリル地方で射抜いてやったのである。

「今回は緑衣で、3人いたとのことです」

 ジャクソンが指摘してくる。

 赤だと一人で緑は三人。何かのとんちだろうか。

「お二人の言葉通りなら、旧ティダール王国の人間でしょうか。それらしいことを言っていたとも記憶していますが」

 遠慮がちにジャイルズが尋ねてくる。戦闘のことは門外漢という思いが強い。あまり口を挟まないように、と思っているようだ。

「私もその可能性が高いと思うが。詳しい目的や意図はまだ不明だ。引き続き、クレイ君やティアの身辺には気をつけてあげるように」

 旧ティダール王国の人間は手強い。ルディは改めて気を引き締めるのだった。

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