13 翼竜討伐の後で
(この2人を戦わせずに済んで良かった)
システィナは魔獣に襲われた後だと言うのに戯れているクレイ・ディドルとティアを見て思う。
なお、なぜだかティアがクレイのことを『リドナー』と呼ぶのだが、何かの愛称なのだろうか。
幼竜2頭を交えて無邪気な2人の姿には羨ましいもをすら感じる。
(そう、ね。そもそもこの2人が狙われたんだとして。私が助けてあげられて良かったわ)
システィナは思い直す。
日課の礼拝をしていたところ、凶々しい気配を感じて外に出た。
すると翼竜がティア目掛けて急降下しているところだったので、とりあえず撃ち落としたのである。続く2頭を得意としている光水晶の術で倒した。
「さすがは筆頭聖女のシスティナ様ですな」
ジャクソンが爽やかに笑って告げた。
接近されていたら、もう少し手こずっただろう。それこそ前衛に騎士団長ジャクソンがいてくれないと危険だ。
「犠牲が出なくて何よりでした。それにしても皇都に翼竜なんて、悪夢でしたわね」
システィナは水晶をローブにしまって答えた。
「ティダール公やブランソン公爵令嬢もお強いのですが、やはり皇都ではシスティナ様ですよ」
更にジャクソンが褒め称えてくれる。
「えぇ、御二人とも、大きな力を感じます」
システィナは首を横に振る。
見るからに魔剣使いのクレイ・ディドル、そしておそらくは幼竜を巨大化させて戦うであろうティア・ブランソンだ。
(もしかしたら、翼竜よりも、この2人が戦うことのほうが危険かもしれないわ)
小柄な緑がかった金髪の美少女を見てシスティナは思う。
こうして見ると姉の大聖女レティの面影も目元や口元にうかがえる。それでいて使う力の本質はまるで別物だ。
(突き詰めればティアさんは魔獣使いのようなものですもの)
自らの魔力を与えて、魔獣を使役するのである。結果的に神竜の使う魔力が神聖であるというだけのことだ。
「筆頭聖女聖女たるシスティナ様がいてくださって幸いだったと思いつつ、やはり可憐な女性を最前線に立たせてしまった。剣士として、心苦しい限りです」
ジャクソンがすまなそうにする。
(いつ以来かしら)
システィナはつい思い返してしまう。
いつしかどれだけ魔獣を倒しても当然という顔しかしてくれなくなったロラン。ついには手助けすらしてくれなくなった。
「いえ、助けられるのなら、誰だって同じことをしますわ」
システィナは恨めしく悲しい気持ちを押し込める。
冷たくなったロランとは反対に今、無邪気な少年のようなジャクソンの笑顔からは温かさを感じた。
つい意識してしまう。先日、婚約破棄された直後に、婚約の打診をしてきたばかりの相手だ。
(まだ返事をできていないけれど)
現在騎士団長にして、次期皇帝ルディの側近でもある、前途有望な剣士である。爵位も父親の侯爵位を継ぐこととなるだろう。
「貴女がこの国を大聖女レティ様亡き後、自身も幼い頃から支えてこられた。そんな貴女を支えられる男でありたいと、俺はそう思っております」
姿勢を正してジャクソンが言う。書面で貰った通りの言葉をまた言われた格好である。近年、真っ向から受けた事のない言葉だ。
素直に嬉しいのだが、ティア・ブランソンに見られている。両手の指を広げて目のあたりを覆いつつ、広げているのだから丸見えなのだ。
興味津々という目をしている。
「私は破談されて、貴族令嬢としては経歴に傷がついたような人間です」
聖女としての誇りはある。生涯、失うわけはない。だが伯爵令嬢としては、一度、他の男に捨てられたのは失点ではないか。
「ロラン・シセイなど、とんだ愚か者だ。貴女と結ばれる幸運を自ら放り投げるなど」
はきすてるようにジャクソンが言い切ってくれた。
このままの勢いで婚姻を申し込まれかねない。情熱的な人らしい、とシスティナは察した。
(でも、今はちょっと)
今度は別の意味で見世物となりかねない。ティアどころか広場中の人々が自分たちを見ているのだから。
「では、ここでは深いお話も出来ませんから、その、後日、当家にでも」
システィナはジッと自分を見つめてなんとか気持ちを伝えようとしてくるジャクソンにそう告げるのが精一杯だった。
「分かりました。では、後ほどうかがわせていただきます」
ジャクソンが破顔した。少年のようにクシャッとした笑顔を浮かべるのである。
「わっ、言い寄って口説くってこんな感じなんだね」
ティアが両手で両頬を挟み、なぜだか恥ずかしそうにしている。
「俺たちの時も俺、あれよりちゃんとやってたじゃん」
一方、クレイ・ディドルの方が呆れ顔である。
「リドは、なんか気がついたら近くでニコニコしてた感じだもん」
ティアが膨れっ面だ。
「ちゃんと告白したよ?」
クレイが言い募る。どうやら、こちらはこちらで婚約するまでの間には色々あったらしい。
(政略結婚じゃなかったのね、たぶん)
なんとなくシスティナとしては微笑ましいのであった。




