11 緑衣の者たち2
ティアにとっても皇都リベイルの町中を歩くのは久し振りだ。歩くことがあっても、公爵家の護衛付きであまり自由はなかった。
「本当に賑やかで、しかも広いよね。どこもこんな調子なのかな、すごいよね。ゴミとかもベイルやデイダムより断然少ないもん」
リドナーが手放しで皇都リベイルを褒め称える。感心しているらしい。
(私はベイルの方が好きかも。みんな、のんびりしていたし)
ティアはこっそりと思う。すれ違う人がリベイルでは皆、忙しそうなのだ。大都市だからだろうか。
今、安心して歩いていられるのも、治安がどうのではなく、ティアにとっては魔剣ズウエンを持つリドナーの心強さ故である。
(だって、強くて格好いいもん。リド本人もだけど、あの氷の大きい人)
ティアは幾度か目の当たりにした、氷の魔剣ズウエンが召喚する氷の巨人を思い出す。魔力を吸収すればするほど強力になるらしい。
一方、リドナーのことは好きでも、魔剣ズウエンのことが苦手な幼竜2頭がティアにべったりである。なお、ズウエンが魔力を吸収するのには、魔獣を斬ることも含まれるのだ。幼竜も魔獣故、ズウエンが怖いらしい。
挙句の果てに、それぞれティアの左右の肩に乗っかってしまった。
「肩が重たいよぉ」
ティアはずしりと重たい2頭の幼竜に零す。
「ピィ?」
「ジ?」
そして2頭ともわざとらしくとぼけるのである。
悪い幼竜たちだ。
「あ、ティアちゃん、あそこ、いい匂いするなと思ったらお菓子屋さんがあるよ」
リドナーが可愛らしい赤い屋根の木造店舗を指差す。
ティアも何度か皇都在住の頃、前を通ったことがある。硬くて甘いと評判の焼き菓子のお店だ。学友たちとも、いつか行こうという話になっていた。
(今、リドと行けたら嬉しい)
ティアはチラリとリドナーを見上げる。待ち受けるかのようにリドナーが自分を見下ろしていた。
「食べよっか」
リドナーが微笑みかけてくれる。
2人で並んでお店に入り、2袋分の焼き菓子を買う。食べ歩き用である。ティアはリドナーと並んでモグモグと齧りはじめた。
「あはは、可愛い」
モグモグと咀嚼している自分を見て、リドナーが笑い声を上げる。
幼竜2頭はまだ食料を取らない。ティアから放出される魔力を吸い取るだけで良いとのこと。成長したとしても肉食動物なので、焼き菓子には興味すら示さない。
ティアの肩に乗ったまま、退屈そうに欠伸をしている。
「リドだって、口元に欠片がついている」
ティアは背伸びをして、ハンカチで恋人の口元を拭う。リドナーの方はされるがままである。
(あっ、幸せ)
爪先立ちにならないとティアはリドナーの口元には届かないのである。
なんとなく幸福感を覚えてティアは嬉しくなっていた。
「ふふふ」
ティアは笑みをこぼしてしまう。
「どうしたのさ、急に」
リドナーが嬉しそうに困惑している。内心はきっと、このやり取りを楽しんでくれているのだ。
ティアとしても、他愛のないやり取りが楽しくてならなかった。
2人で話しながら歩いていると、大きな噴水のある広場に至る。噴水越しに教会も見えていた。
皇都リベイル、女神信仰の総本山、神聖教会だ。
散々、祈るように強制されてきた対象ではあるものの、中央に尖塔が立つ左右対称レンガ造りの建築は美しい。
「すごいなぁ、ティダールにはこんなの無かったよ」
リドナーが深緑色の屋根を持つ尖塔を見上げて称える。
「ピィ?」
ドラコがティアに抱っこされたまま首を傾げている。
「ジ」
同じく建築の価値など分からないサンタも興味なさげだ。声を上げて肩の上で丸まっている。
「お初にお目にかかります。新生ティダールの国王陛下?大公殿下?それとも皇帝陛下?新たな国の国体はいかがしますか?」
前触れもなく嘲るような声が告げる。
後ろからだ。
弾かれたようにティアはリドナーと2人並んで振り向く。
3人、緑のローブですっぽりと全身を覆う人が立っていた。当然、顔も何も見えない。体の輪郭すらも悟らせないように、ゆったりとしたものだ。
色が違うだけで、山岳都市ベイルで自分を連れ去った赤いローブの『予言者』を思い起こさせる。なんとなく話し方まで同じなのではないかとティアは思う。
「お前らっ!なんでこんなところにっ!」
リドナーが魔剣ズウエンの柄に手をかける。
尋ねるまでもなく敵なのだ。味方のような口ぶりで、ティアたちのしてほしくない、嫌なことばかりをする。
「人が人に紛れることは、実に容易いのです、陛下」
3人のうち誰が答えたのか。恭しく3人で一斉に一礼する。口元が見えないので誰が話しているからすら分からないのだが。
「でもっ、ここは皇都で、リベイシア帝国でも皇帝陛下のお膝元で。城壁もあって兵隊さんもいるのに」
ティアも動揺して声を上げていた。
周囲にも人がたくさんいる。今回は道行く人々も、大声を上げ始めた自分たちを訝しげに見つめ始めていた。
注目を集めているから、今回は何も酷いことをされないかもしれない。
半ば願望とともにティアは思うのであった。




