鴎とエゴサ
海が集めてくれた流木を
彫り、刻み、磨いて、
鴎を作る
なにも詰め込んではいけない
空洞は
空洞のままがいい
心を壊す意味を知らないで
語りつづけた弱気な希いは
だれにもやさしくされたいのに
希いがかなう未来はどこにもなさそうだな
希いは、希いでしか無い
神さまも闘うことを休まれる
十月とかにちいさな神社にゆくと良い
昔撮った白黒写真に
子どもの頃の私が
帽子を目深にかぶって映っていたのは
この神社の鳥居のまえでだ
懐かしい過去は、けして視えないけれども
なぜか、視える気がするよ
静かな黄昏に
母が私を呼ぶ声が聴こえたりする
そして母の長い影も
懐かしさの密度なんて
だれにも伝わらないまま
ひとりでに時は
ただ過ぎてゆくのだろう
この身の、消滅に向かって
夜が集めてくれた寂しさを
読み、味わって、呑み込み、
エゴサでさらに寂しくなる
なにも詰め込んではいけない
空洞は
空洞のままでいい
空洞のまま
生きてゆくのがいい
この心の、消滅に向かって