73 襲撃(ユージーン視点)
いよいよ明日はフェリシアのお披露目の日だ。
可愛い妹を披露して皆に自慢したい気持ちと、変な虫が付かないように閉じ込めておきたい気持ちがない混ぜになっている。
お披露目の後は貴族の子息達から婚約の打診が増えるかもしれないが、すべて無視すればいい話だ。
ハミルトンからは既に申込みが来ているが、きっと父上がのらりくらりと躱すに決まっている。
フェリシアが先に食堂を出た後で、僕と父上もそれに続いた。
「明日は私が最初にフェリシアと踊るからな」
廊下を歩きながら父上が念を押してくる。
本当は僕が一番最初にフェリシア取られて踊りたかったのだが、ここはやはり国王である父上の顔を立てるとしよう。
「わかりました。フェリシアのファーストダンスは父上にお譲りしますよ。その代わり二番目は僕ですからね。続けて二曲目も踊ったりしないでくださいよ」
こうやって釘を刺しておかないと何曲も続けて踊りそうだからな。
「わかった、わかった。二曲目はお前に譲るよ」
そんなやり取りをしながらふと前方に目をやると、誰かが廊下に倒れているのが目に入った。
その側に立っているのはフェリシアと、…誰だ?
「何だ? フェリシアか?」
慌てて父上と共に駆け寄ったが、数歩手前の所で足を止めざるを得なかった。
フェリシアの頬にナイフが突き付けられていた。
「お前はミランダ! 一体何をしている。今すぐフェリシアを離すんだ!」
父上の怒鳴り声で黒いフードの人物がミランダだと気が付いた。
母上の葬儀が終わってから、彼女は王宮を出て行ったはずだが、どうしてここにいるんだ?
その時になって僕は別邸への扉が開いている事に気付いた。
魔法陣で封鎖したはずなのに誰が解除したんだ?
まさか、ミランダか?
そのうちにミランダは恐ろしい話を始めた。
ミランダがお祖父様の落し胤だと言うのだ。
お祖父様が酔った勢いで侍女に手を出しただって?
父上にとってもにわかには信じ難い話だったようだ。
「そんな話を誰が信じる? お前が私の父親の娘だとどうやって証明するのだ?」
父上は何とかミランダの隙をついてフェリシアを解放させようと思っているようだ。
鑑定の魔道具を使う隙にフェリシアを救い出したかったが、ミランダはそれを鼻で笑った。
「証明? 鑑定の魔道具があるのは知っているわ。だけど、わざわざそんな物を持ってこなくても証明出来るわ」
ミランダが小さく口を動かすと魔法が発動されてミランダの髪の色が茶色から金髪へと変化した。
あまり知られてはいないが、王家の血を引く者は金色の髪をしているのだ。
確かにミランダが王家の血を引いている事は確認出来たが、どうして父上の命を狙うんだ?
既に当事者である三人がこの世にいないのに、どうしてお祖父様達が悪いと証明出来るんだ?
だが、復讐に凝り固まっているミランダには何を言っても聞きはしないだろう。
どうにかしてフェリシアを助け出したいが、打つ手はなくただ手をこまねいて見ているしか出来ない。
床に倒れているアガサは身動き一つしていない。
…まさか、死んでいないよな?
「そろそろおしゃべりは終わりにしましょうか。あなたの可愛い娘を助けたかったら言う通りにしなさい」
そう言ってミランダはどこからか取り出したロープを僕の足元に飛ばしてきた。
「ユージーン、そのロープでエリックを縛りなさい」
そんな命令なんて聞けるわけがない。
だが、ミランダは僕が動かないのを見て取ると、フェリシアの首のナイフを動かした。
フェリシアが顔を歪めると、首から見が滲むのが見えた。
「やめろ!」
思わず叫んだが、ミランダは悪びれる事なく僕を見据えている。
僕がロープを拾って父上を見ると、軽く頷かれた。
少し緩めに父上の腕を縛ったが、それもミランダにはお見通しだったようだ。
「フン! まあいいわ。それじゃ、今度はこれよ」
ミランダが取り出したのは一振りの剣だった。
…まさか、それで僕に父上を殺させるつもりじゃないよな?




