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68 フェリシアのいない日々(ハミルトン視点)

 フェリシアがいなくなった寂しさをまぎらわすように僕は精力的に当主の仕事に没頭した。


 フェリシアは今度行われるお披露目で正式にこの国の王女として周知される事になっている。


 そんなフェリシアの婚約者にふさわしいと周りに認めさせるためにも頑張らなくては…。


 そんな折、車椅子を乗せられる馬車が完成して、僕はお祖父様と共に王宮に向かった。


 用件は勿論、フェリシアに婚約の申し込みをするためだ。


 出来ればフェリシアにも会いたいのだが、きっと陛下とユージーンは許可してくれないだろう。


 馬車の乗り口にスロープを付けて、お祖父様の乗った車椅子を馬車の中に乗せる。


 そのまま空いたスペースにお祖父様の車椅子を固定させる。


 これはフェリシアがお祖父様の為に考えてくれた馬車だ。


 これでお祖父様と一緒に街へ出かけるはずだったのに、この馬車が完成するより前にフェリシアは王宮に行ってしまった。


 王宮に到着すると、スロープを取り付けてお祖父様の車椅子を後ろ向きに下がりながら降ろした。


 この車椅子の降ろし方もフェリシアが教えてくれたものだ。


 あらかじめ面会の約束を取り付けていたので、応接室でそれほど待たされる事もなく陛下が入室して来た。


「待たせたな、叔父上、ハミルトン。それで今日は一体何の用かな?」


 僕がいる以上、訪問した用件なんてわかりそうなものなのに、あくまでもしらばくれる気のようだ。


「勿論、フェリシアに婚約者として立候補するためです。どうか私とフェリシアの婚約を認めていただきたい」


 胸を張って堂々と申し込んだにも関わらず、陛下はわずかに小首をかしげた。


「今、何か言ったかな? 何やら蚊が鳴いたような声が聞こえたが、気の所為か」


 この狸親父め!


 今すぐ側に行って耳元で叫んでやろうか。


 怒り心頭に達して立ち上がろうとした僕をお祖父様が手で制した。


「エリック、いや国王陛下。そんなふうに意地悪を言うものではない。そなたがフェリシアを手放したくない気持ちはわかるが、いかず後家にしてはフェリシアも外聞が良くなかろう。それにすぐすぐ嫁がせなくても良い。ハミルトンもまだまだ半人前だからな。とりあえず婚約だけでもしておかないか? 他の貴族より我が家の方がそなたも安心だろう」


「…仕方がない。とりあえず仮の婚約だけでもしておこう」


 渋々、お祖父様の提案にのった陛下だったが、フェリシアとの面会は許されなかった。


 なんでも今度の王妃様の葬儀に着る衣装の仮縫いをしているらしい。


 仕方なくその日はフェリシアに会うのを諦めて帰宅した。




 そして王妃様の葬儀でようやく僕はフェリシアの姿を見る事が出来た。


 葬儀用の真っ黒なドレスはフェリシアの新たな魅力を僕に教えてくれた。


 ベールに阻まれてフェリシアの顔が良く見えないのが残念だ。


 だが、王妃様の献花の際、フェリシアが妙な動きを見せた。


 一歩後ずさりした上、叫ぶのを抑えるように手を口に当てたのだ。


 すぐに体制を戻してお悔やみの言葉を述べていたか、何かがあったのは明白だ。


 フェリシアに駆け寄る事も出来ずにじっと見つめていると、席に戻ろうと振り向いたフェリシアと目が合った。


 ベール越しに僕に微笑んでくれたのがすぐにわかった。


 母上の後に続いて献花の為に僕も王妃様の棺の中を覗き込んだ。


 最後にお会いした時よりもやせ細った姿の王妃様がそこに横たわっていた。


 …フェリシアは一体何に驚いていたのだろうか?


 フェリシアと話がしたかったけれど、近寄る事すら出来なかったので、この日は諦めた。


 もうじきフェリシアのお披露目が行われる。


 その日は僕との婚約も合わせて発表されるはずだ。


 そうしたらフェリシアとダンスが出来るはずだが、きっと陛下とユージーンが邪魔をしてくるだろうな。


 いや、絶対にフェリシアとダンスをしてみせるぞ。


 そのためにもフェリシアにふさわしい男にならなくては…。


 そうして僕は今日も当主の仕事に明け暮れるのだった。

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