62 封鎖 / 後半 ユージーン視点
少し落ち着きを取り戻した頃、にわかに廊下が騒がしくなった。
扉がノックされ、こちらの返事を待たずに扉が開いてお父様とお兄様が部屋になだれ込んで来た。
「フェリシア、大丈夫か? 一体何があったんだ?」
「…お父様…」
駆け寄ってきたお父様の姿を見た途端、反射的に立ち上がり、お父様に抱きついていた。
せきを切ったように涙があとからあとから溢れてくる。
泣きじゃくる私をお父様はぎゅっと抱きしめてくれている。
お兄様も私を落ち着かせるように優しく背中をさすってくれた。
二人に慰められてようやく落ち着きを取り戻した私は、涙を拭うと顔を上げてお父様に微笑みかけた。
「ありがとうございます、お父様。もう大丈夫です」
「フェリシア、一体何があったんだ? 詳しく話を聞かせてくれ」
お父様とお兄様に挟まれる形でソファーに腰を下ろすと、私は先程の出来事を話した。
「部屋に戻ろうとした時に誰かの視線を感じたんです。だけど、誰もいなくて別邸に通じる扉が見えて…。アガサから封鎖されているとは聞いていたんですが、どうしても気になって取っ手を引いたんです。そうしたら開かないはずの扉が開いてびっくりしてしまって…」
話をしている間もお父様とお兄様は私を安心させるように、それぞれ手を握っていてくれた。
「私も今見てきたが、確かに扉が開いていた。ちゃんと封鎖したはずなのに一体誰があの扉を開けたのか…。今、王宮魔術師に魔法であの扉を封鎖するように頼んだからな。この先あの扉が開けられる事はない」
お父様に言われて私はようやく安心出来た。
王宮魔術師が魔法を施したのならば、おいそれと扉が開く事はないだろう。
私はようやく安堵の表情を浮かべる事が出来た。
******
僕はソワソワとしながら午後からの仕事をこなしていた。
今、フェリシアは葬儀に出席するためのドレスの仮縫いをしているはずだ。
フェリシアの事だから。きっと何を着ても似合ってしまうだろうな。
チラッとでも見に行きたいが、流石に父上が側にいれば、それは叶わないだろう。
仕方がない、当日まで我慢しよう。
諦めて仕事に集中していると、バタバタと足音が近付いて来た。
何事だ?
思わず手を止めると、扉がノックされて間髪を入れずに扉が開いた。
執務室に入ってきたのはフェリシアについている侍女だった。
どうして彼女が?
まさか、フェリシアに何かあったのか?
侍女は迷わず父上の前に進むと驚きの報告を始めた。
「陛下! 大変でございます。別邸への扉が開いておりました。フェリシア様がそれに気付かれてかなり動揺されております」
「何だと! 誰があの扉の封鎖を解いた! すぐに向かうぞ!」
「父上、僕も行きます!」
すぐに執務室を出て、そちらに向かったが、確かに扉の封鎖が開いていた。
「一体、誰がこんな事を…」
「すぐに王宮魔術師を呼べ! ここを魔術で封鎖させる」
父上の命で王宮魔術師が呼ばれて直ちに魔法での封鎖が施された。
それが済むとすぐに僕達はフェリシアの部屋へと急いだ。
フェリシアは真っ青な顔でソファーに座っていたが、父上の顔を見るなり立ち上がって抱きついていた。
僕は泣きじゃくるフェリシアの背中をさすってやることくらいしか出来なかった。
泣き止んだフェリシアは僕達を安心させるように微笑んでみせたが、その顔がかえって痛々しい。
フェリシアに話を聞くと、誰かの視線を感じたらそこにあの別邸への入り口があったそうだ。
閉ざされている事を確認するために取っ手に触れたのに思いがけず開いてしまい、驚きに拍車がかかったようだ。
フェリシアをこんな目に合わせるなんて、一体誰があの扉の封鎖を開いたんだ?
父上が魔法で封鎖させる事を告げたら、ようやくフェリシアの顔に安堵の表情が浮かんだ。
大丈夫だよ、フェリシア。
君を泣かせた奴は僕が必ず捕まえてみせるからね。




