54 昼食の時間
部屋に戻ってソファーに腰を下ろすと、アガサはテーブルの上のベルを私の前に置いた。
「それでは私共は一旦下がらせていただきます。昼食までどうぞごゆっくりおくつろぎくださいませ。何かご用があればこちらのベルを鳴らしてください」
アガサと他の侍女達は私に一礼をすると部屋から退出していった。
一人きりになった部屋で私はほうっと息を吐き出した。
アシェトン公爵家に行った時は偽物とバレないかビクビクしていたけれど、ここではそんな事は考えなくていいのは有り難い。
だけど、自分が国王の娘だったなんて未だに信じ難い事ではある。
誰もいないのをいい事に、私はそのままソファーへバタンと横になった。
お父様が王妃様と仲が良くない事は聞いていたけれど、まさか王妃様が別邸に住んでいたとは知らなかった。
だからこそお兄様の事もほったらかしだったのかしら?
ゆっくりくつろげと言われても、テレビやラジオがあるわけじゃないから本を読むくらいしかすることはない。
とりあえずはこの部屋にある本を読んでみようかしら。
私はソファーから起き上がると本棚の方に向かった。
分厚くて高価そうな本が何冊も並べられている。
タイトルから興味を惹かれた物を数冊選ぶとソファーの方に戻った。
しばらく本を読みふけっていたが、やがて扉がノックされる音に気付いた。
「はい、どうぞ」
返事をすると扉が開かれ、アガサが姿を見せた。
「フェリシア様、お食事のご用意が出来ました。食堂までご案内いたします」
立ち上がってアガサの元に行くと、そのまま公的なゾーンに向かって歩き出した。
どうやら先程案内された食堂ではなくて、別の場所に行くようだ。
「陛下もユージーン様もまだ執務中ですので、あちらの食堂での昼食となります。ぜひともフェリシア様と一緒に食事をなさりたいとおっしゃられますので…」
つまりお父様とお兄様のわがままで、私を呼び出したと言うわけね。
騎士達が立っていた扉を抜けて王宮の中を進んで行くと、廊下のあちこちに人の姿が見えた。
どうやら王宮で働いている人達のようで、彼等もこれから昼食を取るようだ。
すれ違う人達は私の顔を見るとハッとしたように立ち止まりお辞儀をして私が通り過ぎるのを待っている。
この後の昼食の場では私の話題で事欠かないだろう。
「こちらでございます」
アガサはその扉の前で足を停めるとノックをした。
「フェリシア様をお連れしました」
「お待ちしておりました。さあ、中へお入りください」
侍従が扉を開けて私を中へと招き入れてくれた。
こじんまりとした食堂には既にお父様とお兄様が腰を下ろしている。
「おお、フェリシア、待ちかねたぞ。さあさあこちらへ」
お父様が指さしたのは、どう見てもお父様が座るべき場所だった。
きっと二人が私の隣に座ろうと争った挙げ句、私を真ん中に座らせる事にしたのね。
私はこっそりため息をつくと、お父様とお兄様を両脇に従える形を取った。
食堂の中にいる侍従や侍女達は、無表情で黙々と給仕をこなしている。
「フェリシア、美味しいかい? 良かったらこれも食べるかい?」
「とても美味しいですわ。他の料理が食べられなくなりますからお父様がお食べになって」
「フェリシア、これも美味しいよ。僕が食べさせてあげようか?」
「お兄様、一人で食べられるから大丈夫です」
…まったく…
落ち着いて食事も出来やしないわ。
食後のお茶を飲み終えてもなお席を立たない二人を、ブライアンと別の書記官が引きずるようにして食堂から出て行った。
私も一旦自分の部屋に戻るのかと思っていたが、アガサはそちらへは戻らずに別の場所へと私を連れて行った。
「こちらの応接室でしばらくお待ちくださいませ」
待つのはいいけど、手持ち無沙汰なのはちょっときついわね。
そんな不満を顔には出さずに私はニコリと笑顔を見せてソファーに腰を下ろした。




