52 出迎え
馬車は順調に進んで行くけれど、確かに道行く人が皆、立ち止まってこの馬車を見送るのはちょっと恥ずかしいわね。
気にしないようにしても、どうしても目に入ってしまうのよね。
「ね、僕の言ったとおりだろう」
可笑しそうに笑っているけど、ユージーンだって、注目されているのは一緒なんだけど。
そういえばユージーンは私と血が繋がっているってわかったのだから、お兄様と呼ばなきゃ駄目ね。
街中を走っていた馬車はじきに王宮の門をくぐって敷地内に入って行く。
しばらく敷地内を走った後でようやく王宮が見えてきた。
馬車が停まるとそこに立っていた侍従が素早く馬車の扉を開けてくれた。
昨日と違うのは玄関で出迎えてくれる人々の数が多い事だ。
お父様が私の部屋を強引に整えさせたから、今日私が登城する事は周知されてしまったからだろう。
私がお兄様に手を取られて馬車から降りると、皆が一斉にお辞儀をして出迎えてくれた。
今はこうして黙って私を出迎えてくれるけれど、後で皆の間でどんな噂話がかわされるのかしら?
玄関の扉が開かれて中に入ると、そこには両手を広げて待ち構えているお父様がいた。
その後ろにも大勢の人達が頭を下げて私を出迎える。
「フェリシア、よく来たな。私にもっとよく顔を見せておくれ」
私はニコリと笑うとお父様の腕の中へと飛び込んでいく。
流石にこれだけの人の目がある中で、お父様のハグを無視するわけにはいかないものね。
「お父様、やっとここに来られてとても嬉しいです」
「今まで苦労をかけたな。これからはお前にはどんな事でもしてやるぞ」
そんなふうに安請け合いされても困るんだけれど、お父様があんまり暴走しないように見張らないと駄目かしら?
そろそろ離してもらいたいと思っている所へタイミングよく、お兄様がお父様から私を引き剥がした。
「父上ばっかりずるいですよ。僕だってまだフェリシアを抱きしめていないんですからね」
助かった、と思う間もなく今度はお兄様に抱きしめられる。
「しまったなぁ、ハミルトンの前でフェリシアを抱きしめてやればよかったよ。あいつの悔しがる顔を見逃したな」
残念そうに私の耳元でお兄様が囁いた。
お兄様がハミルトンと争うのは勝手だけれど、私を巻き込まないでほしいわ。
お兄様はお父様とは違ってすぐに私から離れてくれたからホッとした。
「フェリシア様、お疲れでしょう。先にお部屋にご案内いたします」
お父様の後ろにいた女性がつと私の方に足を踏み出した。
…誰かしら?
お父様と同年代くらいの女性だけれど、使用人の服を着ているから私の世話をしてくれる人かしら?
「彼女は侍女長のアガサだ。これからフェリシアの世話をしてもらう。他にも何人か付く事になるが、それはおいおい紹介してもらいなさい」
「はじめまして、フェリシア様。どうぞよろしくお願いいたします。さあ、こちらへどうぞ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
軽く頭を下げた後で私はアガサさんに先導されて彼女の後をついて歩く。
私の後ろを数人の侍女が連なってついてくる。
お父様とお兄様も私の後に続こうとして宰相のブライアンに止められているのが目に入った。
私のせいで仕事が滞ったと言われたくないから、頑張って仕事をしてもらいたい。
王宮の長い廊下をずっと進んで行くと、見張りの騎士が立っている扉の前に到着した。
「こちらが王宮のプライベートゾーンになります。使用人は許可された者しか入る事が出来ません」
アガサは一旦立ち止まると「フェリシア様をお連れしました」と告げる。
門番は人数を確認すると重たそうな門を開いた。
こちらもどれだけきらびやかな光景が続いているのかと身構えていたが、思ったよりも質素な作りで少々気が削がれた。
「公的な場所は王家の力を示す為にも豪奢な造りになっていますが、こちらは華美な物は控えた造りになっております」
アガサの説明には納得がいった。
いくつかの扉を過ぎた所でようやくアガサが立ち止まった。




