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31 捜索

 弁護士ベイルの所に王宮から使いが来たのは、これから夕食を食べようかという時だった。


 二階にある自宅から慌てて一階の事務所へと降りて王宮からの使いを招き入れる。


「お待たせいたしました。私にいったいどのような御用でしょうか?」 


 ベイルは内心ドキドキしながら、使者の言葉を待った。


「これから話す事は他言無用でお願いします。今から十七年近く前に一人の女性が何処かの修道院に入られました。その女性を探し出していただきたい。彼女の名前はアイリスです。見つかり次第王宮に連絡をください。これが連絡用の書簡です」


 差し出された書簡には魔法陣が組み込まれていた。


 この魔法陣に魔力を流すと王宮に書簡が届くようになっているのだろう。


「あの、万が一その女性が亡くなっていた場合はどうなるのでしょう?」


「その場合は、いつ、何処で、どのように亡くなったのか、遺体はどうなったのかを知らせてください。必ず見つけ出してくださいね」


 使者はベイルに念を押すと、素早くその場を立ち去った。


 ベイルは使者の姿が見えなくなると、ふうっと大きなため息をついた。


「…彼女を捜しているという事は、王妃様が亡くなったのか…」


 ベイルも十七年前の騒動は覚えていた。


 出産したばかりの王妃様が、何処かの子爵令嬢を王宮から追い出して修道院に追いやったというものだ。


 その騒動のせいで公爵家の跡取りが駆け落ちしたという騒ぎが霞んでしまったのだ。


 公爵家に頼まれて駆け落ちした二人の行方を探したが、既に二人は亡くなっていて、孫娘だけが見つかったのだった。


「…まさか、こちらも既に亡くなっているとか言わないよな…」 


 一応、確認の為にあんな質問をしたが、どうも嫌な予感がしてならない。


 ベイルは二階に上がって急いで夕食を済ませると、とりあえず王都内にある修道院を抜き出した。


「…上手く見つかればいいが…」


 王都内で見つからなければ、更に範囲を広げなければならない。


 なるべく早く見つけられるように、ただ祈るしかなかった。





 翌日からベイルは王都内の修道院を片っ端から訪ねて回った。


 王都内には四つの修道院があったが、どれも王都の外れにあって、回るのに時間がかかった。


 だが、一日かけて回ったが、何処にもアイリスという女性はいなかった。


「…これは王都内にはいないという事か…」 


 ベイルがガックリと疲れ果てて自宅に戻ると、妻が優しく出迎えてくれた。


「お疲れ様。お食事の支度が出来てるわ」


「ああ、ありがとう」 


 ベイルは食事をしながらも修道院の事が頭から離れなかった。


「…修道院か…」


 ポツリと呟いた言葉を妻が聞き咎める。


「修道院? 今日は修道院に行っていたの? そういえば、元修道院だったけれど今は孤児院になっている所があったわね。あれは何処の孤児院たったかしら?」


 妻の言葉にベイルはハッとした。


 確か先日ジェシカを見つけた孤児院には礼拝堂があった。


 もしかしたらあそこが元修道院だったかもしれない。


 


 ベイルは翌朝目を覚ますと、急いで支度をしてジェシカが育った孤児院を目指した。


「はじめまして、ようこそいらっしゃいました」


 先日会ったばかりの院長が何故か「はじめまして」と挨拶をしてきた。


 不思議に思いつつも「こちらにアイリスさんはおいでですか?」と尋ねる。


「あら、アイリスのお知り合い? もしかしてお腹の子の父親かしら?」


 院長の言葉にベイルは驚愕した。


(修道院に入った女性が妊娠? どういう事だ?) 


 するとバタバタと足音がして他の女性がやって来た。


「まあ、院長先生。アイリスさんは随分と前に亡くなったでしょう。…すみません、院長先生は時々、過去と今がごちゃまぜになるみたいなんです。あなたが捜しておられるアイリスさんはここに来て半年後に子供を出産した後で亡くなりました」


 それを聞いてベイルは悟った。


 アイリスは妊娠した状態でこの修道院に来て出産した後で亡くなったのだと。


「それで、その子供は今、何処に?」


「フェリシアなら十五歳を迎えた後でこの孤児院を出ていきました。だけど一緒に暮らしていたジェシカが亡くなって随分と気落ちしていたけれど、大丈夫かしら?」


(ジェシカが死んだ? それでは先日、公爵家に連れて行ったのはジェシカではなくフェリシア? 確かに父親同士が従兄弟だから似ていてもおかしくはない。だが、どうしてフェリシアはジェシカのフリをしたのだろうか? それよりも先ずは王宮に知らせなくては…)


 ベイルはその女性に礼を告げると一目散に自宅へと戻った。



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