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25 夕食の席

 夕食の時間になり、アンナに連れられて食堂に向かうと、既にお義母様が席に着いていた。


「あら、ハミルトンはまだなの? あの子が遅れて来るなんて珍しいわね」


 私だけが入ってきたのを見てお義母様が首を傾げる。


 私に聞かれても一緒に行動しているわけじゃないんだから、答えようがないんだけど…。


 最もお義母様にしても私に答えを求めていたわけじゃないみたいだしね。


 それほど待たされる事もなく、バタバタと足音が近付いて来て食堂の扉が開けられ、お兄様が入って来た。


「母上、お待たせして申し訳ありません」


 素早くお義母様の隣に腰掛けたお兄様は向かいに座る私にニコリと微笑みかけてきた。


 その笑顔の破壊力に胸の動悸が止まらない。


 …やだ、なんでそんな笑顔を向けてくるの?


 お兄様の顔を直視出来ずに、少し視線を逸らしながら食事に取り掛かる。


 チラチラとお兄様の様子を伺うけれど、明らかにさっきのポロック商会と会っていた時の態度とは違っている。


 そういえば何処かに出かけていたみたいだけれど、外出先で何かあったのかしら?


 やけに機嫌が良いみたいに見えるんだけれど、気の所為じゃないわよね。


 昨日知り合ったばかりのハミルトンの機嫌の良し悪しがわかるのもおかしな話ではあるけれどね。


 食事が終わって食後のお茶を飲んでいると、お義母様が私に話しかけてきた。


「そういえばジェシカのカトラリーの使い方はとても慣れているわね。平民ではあまりテーブルマナーは良くないと聞いていたけれど、ダグラスに教わったのかしら?」


 …ギク!


 昨日、何も言われなかったからその質問はされないと思っていたのに、まさか今日になって聞いてくるとは思わなかったわ。


 確かに孤児院での他の子供達のテーブルマナーはあまり良いとは言えなかったわね。


 先生方や私が注意してもあまり改善されなかったし…。


 悪目立ちしないように気を付けて食事をしたのだけれど、逆に注目されてしまったかしら?


 それでもそこでジェシカの母親の名前を出さない辺りは、お義母様も多少は思う所があるのかしら?


 確かにジェシカは所作が綺麗だったわ。


 やはり平民の暮らしをしていても長年染み付いた貴族としての所作は抜けなかったようで、ジェシカもそれなりに躾けられていたみたい。


 孤児院に来た時からジェシカの洗練された動きに驚かされたもの。


 なんでこんな良家の子女みたいな子が孤児院に来たのかとびっくりしたわ。


 だからジェシカの父親の実家が公爵家だと聞いて、何処か納得した覚えがある。


「はい、父も母も食事のマナーには厳しかったので…」


 少し目を伏せて返事をすれば、お義母様は納得したように頷いた。


「確かにダグラスは食事のマナーにはうるさかったわね。でもそのお陰でこうして公爵家に来ても恥をかかなくて済んだのだから良かったわね」


 そんなふうにねぎらわらて、私は少し困惑しながら「ありがとうございます」と返事をする。


 …どうもこの二人には調子を狂わされるわ。


 普通なさぬ仲の関係であれば、もうちょっとギクシャクしたものになりそうなのにね。


 まあ、ハミルトンは多少なりとも私に警戒心を抱いているみたいだけれどね。


 それにしても、さっきからハミルトンの態度が気になって仕方がないわ。


 一体外出先でどんな良い事があったのかしら?


 …まさか?


 孤児院に行って私が本物のジェシカでは無いことに気付いたんじゃないでしょうね。


 ありえない事じゃないわ。


 院長は認知症みたいな症状をみせているけれど、時々は普通に会話ができるもの。


 ハミルトンにジェシカが死んでいる事を伝えてもおかしくはないわ。


 つまり、ハミルトンは私をこの屋敷から追い出す口実を手に入れた事になるわ。

 

 だからあんなふうに機嫌がいいんだわ。


 私はいつハミルトンに正体を明かされるのかとビクビクしながらお茶を飲んだ。

 

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