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17 ロジャーの話(ハミルトン視点)

 今日は朝からジェシカの顔を見られると思うと嬉しすぎていつもより早起きをしてしまった。


「今朝は随分とお早いですね、何かありましたか?」


 侍従に不思議そうに尋ねられたが、曖昧な返事で濁しておいた。


 身支度を終えて食堂に向かったが、まだ誰も来ていなかった。


 ソワソワしながらジェシカを待っていると、程なくしてジェシカが食堂に姿を現した、


 …ああ、今日も可愛い…


 緩みそうになる頬を引き締めて座っていると、向かいの自分の席の所まで来て僕に挨拶をする。


「おはようございます、ハミルトン様」


 いきなりジェシカに名前を呼ばれて僕は更に緩みそうになる頬を口の中で噛み締める。


 名前で呼ばれるのは嬉しいけれど、他人に聞かれるとあらぬ誤解を招く恐れがある。


 それによってジェシカが不利益を被らないとも限らない。


 それだけは何としても阻止しないと…。


 僕はジェシカに「お兄様」と呼ぶように注意したが、変に冷たい視線になってしまったようだ。


「わかりました、お兄様」


 ジェシカにそう呼びかけられて、もう名前で呼んで貰えない事を酷く残念に思ってムスッとしたような顔になる。


 ジェシカが食事を終えて食堂から出ていくのに合わせて僕も席を立つ。


 食堂を出た所で今日の予定を聞くと「何もないから本を読む」と返ってきた。


 昨日、この王都に来たばかりでまだ街を見ていないはずだから、案内がてらに何かジェシカに買ってやろう。


「街に連れて行ってやるから支度をして来い」


 そう言って僕も準備のために自室に戻った。


 あらかじめジェシカの侍女のアンナには外出について話をしていたので、準備は大丈夫だろう。


 先に玄関ホールで待っていると、後ろからジェシカに声をかけられた。


 振り向くとそこには薄く化粧をされたジェシカが立っていた。


 この姿を他人に見せてやるなんてもったいなさ過ぎる。


 そう思い、思わず眉間にシワを寄せてしまった。


 手を差し出すとおずおずと僕の手にジェシカの手が重ねられる。


 今まで苦労をしてきたようで、この年頃の女の子の手にしては少し荒れていた。


 何か美容にいいクリームを母上に聞いておこう。


 馬車でジェシカと二人きりの空間を堪能した後で、馴染の宝飾店を訪れた。


 ジェシカに似合いそうな装飾品をあれこれ選んでやったのだが、そのうちの半分は断られてしまった。


 遠慮なんてしなくてもいいのに…。


 中でも一番似合いそうなネックレスを僕がジェシカに掛けてやった。


 僕に背中を向いて髪をかき上げたジェシカの露わになったうなじに思わずキスをしたくなった。


 なるべくジェシカの肌に触れないように努めたが、ほんの少し僕の指がジェシカに触れてしまう。


 …ああ、火傷をしそうなくらいに熱い…




 宝飾店を後にして外に出ると、そこでハリントン侯爵家のロジャーに出会った。


 立ち話をするつもりはなかったが、連絡する予定だったと一言だけ告げられた。


「叔母がもう長くない」


 ロジャーの叔母とは、今の王妃だ。


 つまりロジャーは国王の義理の甥で、王太子であるユージーンの従兄弟になる。


 そして僕の祖父は前国王の弟だ。


 つまり僕の父親の従兄弟が国王になる。


 ロジャーとは血の繋がりはないけれど、親戚になるわけだ。


 だから知らせてくれたのだろう。


 その後、僕の婚約者についての話になったが、ジェシカの前でそんな話をして欲しくはなかった。


 だからユージーンに矛先を変えようとしたが、結局王妃の話に戻ってしまった。


 ロジャーと別れて馬車に戻り、家路へと走らせたが、そこで王妃についての噂話を思い出していた。


 その昔、国王に愛人が出来た時、嫉妬に狂った王妃がその愛人を王宮から追放したというものだ。


 それがちょうど僕の父親の駆け落ちと同じ時期だったらしいが、結局王妃の方が大きな話題になったらしい。


 追い出された愛人は何処かの子爵令嬢で、実家も彼女を除籍する事で家の存続を許されたとか聞いている。


 もし、このまま王妃が儚くなってしまったら、国王はその子爵令嬢を探し出すのだろうか?


 そう思ったところで、僕が考える事ではないと、頭の中から追い払う。


 さて、屋敷に戻ったらジェシカに何をしてあげようか?

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