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16 ロジャーの話

 私がオロオロしていると、彼は目ざとく私を見つけてハミルトンに尋ねた。


「その子が例の子かい?」


 例の子って…


 やはり私の存在は他の貴族の方々には周知の事実のようだ。


「ああ、紹介するよ。妹のジェシカだ。ジェシカ、彼はハリントン侯爵家の次期当主、ロジャーだ。正式な場じゃないから、普通に挨拶すればいい」


 ハミルトンに懸念していた事を指摘されて私は少し面食らう。


 てっきり私が貴族の挨拶が出来ない事をあげつらってロジャーと二人で笑い者にするのかと思っていたからだ。


 だけど、世間に対して体裁を取り繕うつもりだろうから、そんな事はしないわよね。


 私はハミルトンに言われた通りに普通に頭を下げてロジャーに挨拶をする。


「はじめまして、ジェシカと申します。よろしくお願いします」


 ニコッと笑って軽くロジャーに向かって頭を下げる。


赤茶色の髪に緑の瞳のロジャーはちょっと目を見開いたが、すぐにニコリと笑い返してくる。


「はじめまして、ロジャーです。ハミルトンとは同級生でそれなりに仲が良いんだ。これからもよろしくね」


「挨拶も済んだしこれで失礼するよ」


 さっさと歩き出そうとしたハミルトンを何故かロジャーが引き留める。


「ああ、ハミルトン。後で連絡しようと思っていたんだけど…」


 そう言ってロジャーは周囲を気にするように辺りを見回した後で声を潜めてハミルトンに告げる。


「どうやら叔母がもう長くないらしい。君の家と無関係ではないから一応伝えておこうと思ってね」


 ロジャーの叔母さんの話なのに公爵家とは無関係じゃないなんて、一体どういう関係なのかしら。


 それに周囲を気にしていたのに私の耳に入っても大丈夫なのかしら。


 二人から少し距離を取ろうかと思ったが、今更離れるわけにもいかず、私はひたすら無表情を決め込んだ。


「そうか。以前も思わしくないと言われていたし、ユージーンも覚悟は出来ているだろうな」

 

 二人の会話を読み解くとどうやらユージーンと言う人がロジャーの叔母さんの息子のようだ。


 少し重苦しくなった空気を振り払うかのようにロジャーがひときわ明るい声をあげる。


「それにしてもハミルトンが女性を伴って宝飾店から出てくるからとうとう婚約者が決まったのかと思ったのにな。お前が早く婚約者を決めないと他の奴らの婚約も決まらないんだけどな」


「自分は婚約しているからって随分と余裕な発言だな。僕よりも先に婚約者を決めないといけない奴がいるだろうが」


「ユージーンか。だが自分の母親があの状態では婚約者選びも何もないだろう。早く決めて安心させてやりたい気持ちもあるかもしれないが…」


 せっかくロジャーが空気を変えようとしたのに、ハミルトンの発言で失敗した形になってしまっている。

 

 それに気付いたロジャーがフッと軽く口元を緩める。


「会ったばかりのジェシカ嬢に変な話を聞かせてしまいましたね、申し訳ありません」


 突然ロジャーに謝罪をされて、私は慌てて首を横に振る。


「とんでもありません。私の方こそ気を使っていただいて申し訳ございません」


 すぐ近くに馬車があるのだから一声かけてそちらに走れば良かったのに、今更気付いても遅いよね。


 そもそもハミルトンが「あっちへ行け」と言わないのに、勝手に離れていいのか迷ったのよ。


「それじゃ僕はこれで失礼するよ。ジェシカ嬢、またお会いしましょう」


「ああ、またな」


「失礼いたします」


 ロジャーは軽く私達に手を振ると、今私達が出て来た宝飾店へと入って行った。


「ジェシカ、行くぞ」


 ハミルトンが歩き出した後を追いかけて馬車に向かうと、私達に気付いた御者が馬車の扉を開けてくれた。


 またもやハミルトンの手を借りて馬車に乗り込むと、向かいに座ったままハミルトンは窓の外を見つめたまま、じっと何かを考えているようだ。


 …さっきのロジャーの話について考えているみたい。


 公爵家にも関係があるって、一体どういう事なのかしら。


 聞いても答えてくれるかどうかもわからないので、私はハミルトンとは反対側の窓の外に目をやった。


 そうして出て来た時と同じく無言のまま、私達は公爵邸へと戻って行った。


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