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E:ros ~バトロワFPSの世界にAIとして取り込まれました~  作者: 詞ノ創
第二章 ようこそ電子の世界へ
8/11

Chapter_7『AI、大地に立つ』


―――どこかで説明したが、E:ros(イーロス)はここ数年の間、FPSゲームの頂点の座を一度も降りていない化け物ゲームだ。


他のFPSを触った事が無いから実感が湧かないのだが、そのゲーム内容は、他作品と比べるとかなり『特殊』なのだという。


「おぉ...キャラ選択はこんな感じになるのか.....」


訓練場とは異なる空間。全体的に青緑がかった景色で、建築物も遮蔽物も何も存在しない、無機質で殺風景な場所。


シェリーの手によって試合(マッチ)へ飛ばされたオレは、その不可思議な空間で、空中に浮かぶキャラクター達の映像を眺めていた。


かわいいからカッコイイまで揃った、総勢20体近く存在する見知った顔。E:rosのプレイアブルキャラ達だ。


おそらくここが、使用キャラクターを選ぶ場所なのだろう。いつもの画面越しに見ていた『キャラ選択画面』とは景観が大分異なるが。


「ちゃんと野良も来てる.....まぁ、そりゃそうか」


オレの両隣には、訓練場に居るのと同じダミー人形が存在しており、その2体も同じように、キャラクターの映像を眺めていた。


多分、今回のチームメイト達だ。


やがてその2体のダミーは、それぞれキャラクターの映像に手を伸ばし――― 一瞬の輝きの後、その姿は、選んだキャラクターそのものに成り代わっていた。


「うわっすげぇ! Void(ヴォイド)黒猟犬(ブラックドック)だ! マジで本物だ!」


目の前にE:rosを代表する花形キャラが現れ、これまでで一番興奮した。


E:rosが特殊だと言われる理由の1つが、このチーム制度だ。


試合(マッチ)に参戦したプレイヤーは、強制的に3人チームを組まされ、その仲間と共に最後まで生き残ることを目指す。それがE:rosのバトロワシステムなのだ。


この3人1組のチームが、1試合につき20組、計60人集められ、最後の1チームになるまで戦い続ける。


そして、最後まで生き残った連中が『勝者(Champion)』、文字通りその試合(マッチ)の勝者となるのだ。


自分達以外の57人を全員滅ぼすもよし、序盤は隠れてやり過ごし、最後だけ戦闘するもよし。とにかく『最後まで立っていた奴らが勝ち』という、実にシンプルなルール。


このシンプルな勝利条件が、実に達成しづらく、それゆえに、勝った時の達成感はそこらのゲームの比にならない。E:rosが覇権ゲームの座を譲らない理由の一つだろう。


「んじゃオレは...Stant(スタント)でも使うか」


仲間たちに倣い、自分もキャラクターの映像に手を伸ばす。


すると、全身が輝き始め、次第に選んだキャラの服装へと変化していった。


「うわ!! すっげ!! オレStant(スタント)になった!? うわ鏡見てぇ!!」


そんな要望が叶うはずも無く。キャラ選択(ピック)を終えたオレ達は、さっそく試合会場(マップ)へと転送される。


訓練場でシェリーが物体を構築したように、青緑の無機質な空間の至る所に光が集まり、それらが建築物や遮蔽物を形作っていく。


気が付けば、そこは試合会場(マップ)の一画になっていた。


「ここは.....あれか、『空中都市(バビロン)』か!」


自分が転送された、というよりは『周辺一帯が試合会場(マップ)に書き換えられた』ように見えるのだが、シェリー曰く、コレはそう見えるだけらしい。実際は自分達が試合会場へ転送されているのだという。


『全プレイヤー転送完了。間もなく試合(マッチ)を開始します。3.....2.....1.....』


周囲を確認している間にカウントダウンが始まり、やがて『試合開始(オープン)』のアナウンスが流れる。


いよいよ試合開始だ。


「うわぁ緊張するぅぅーー.....!!!」


初めてE:rosを始めた時のような緊張感を抱きながら、早速物資を漁り始める。


試合開始(オープン)後、最初にやる事は、全プレイヤー共通している。


すなわち物資の確保だ。


プレイヤーは、試合会場(マップ)の各所に生成されたスポーンポイントに出現し、3カウントの後に試合が開始される。


スポーンポイントは全部で25個箇所、それぞれ全て重要拠点(ランドマーク)の中に、1チーム纏まって生成される。


召喚された直後のプレイヤーは、武器も防具も持っていない。そのため、まずは自分達が召喚された重要拠点(ランドマーク)内に落ちている物資を回収し、装備を整えるところからゲームが始まるのだ。


そして、整えた物資で敵を倒しに行くもよし、スポーンした重要拠点(ランドマーク)に籠ってやり過ごすもよし―――ここからはプレイヤー達のプレイスタイル、キャラ構成、残り部隊数など、その時の状況により大きく変わる。


「凄いな...ほとんどいつもと変わらずに操作できる...」


物資を漁りながら、その手際の良さに我ながら感心する。


訓練場で動作確認をしたとは言え、いつもより時間が掛かるかと思っていたが、そんな事は無かった。


見ている光景に重なるようにして、デスクトップでプレイしている時と同様のUI(ユーアイ)が視界に表示されており、その恩恵が大きかった。


持っている銃の種類、使用可能スキル、スキル使用までの待機時間(リキャストタイム)、残り部隊数、ミニマップ、エリア収縮までのタイムリミット、チーム全員の残り体力...などなど。


それらいつも確認しているUI( モノ )が揃っており、情報の整理が非常にしやすい。


また、弾薬や回復アイテムに関しては、触れるだけでバック内に格納されていく。これもキーボード入力でアイテムを拾えるいつもの感覚に近く、すぐに馴染んだ。


「さて、味方は...?」


手早く最低限の物資を揃え、視界の端に映っているミニマップで味方の位置を確認する。


2人の味方は、同じ重要拠点(ランドマーク)の異なる場所を漁っているようで、


『すまない!ダウンした!』


その内の一人が早々に倒れた。


「なっ!? もう敵来たのか!?」


キャラクターの無念なボイスと共に、ミニマップの味方の表示がダウン状態に切り替わる。


そして、視界には追加情報が表示された。


試合会場(マップ)全体の交戦情報が載せられる、戦闘記録(バトルログ)

そこに味方の名前と、SMG(サブマシンガン)―――超近距離武器で倒されたという記録(ログ)が流れた。


何が言いたいって。


敵めっちゃ近い。


『交戦中!!』


案の定、残りの一人が交戦状態に入り、それに合わせてキャラクターが言葉を発する。


すぐに駆け付けると、1人で敵2人を相手にしている、所謂1v2状態だった。


「おるぁぁぁぁぁ仲間に何しやがってんだ貴様らぁぁぁぁぁぁ!!!」


敵の背後を取れていたので、その2つの背中にアサルトライフルを乱射する。


そして、


何故かオレが背後からめっちゃ撃たれた。


「痛い痛いいったぁ!? なんでオレがやられ アッーーーーー!?」


振り返る間もなくダウンを取られ、それとほぼ同時に1v2を強いられていた味方もダウンした。


チームメイト3人が全員ダウンし、これにて部隊壊滅。


敗北の確定演出である。




――――――――――――――――――――――――




「ありゃー。運が無かったねぇ」


視界を覆うようにして現れた、上下逆さまのシェリーの顔。


部隊壊滅後、そのまま訓練場へと転送されたオレは、訓練場の天を仰ぐようにして、地面に寝っ転っていた。


「気分はどうだい?」


ニヤニヤと、意地の悪そうな笑みを浮かべているシェリー。


一方で、試合(マッチ)に入って早々、ほぼ漁っただけで強制送還させられたオレはと言うと、


「……す」


「す?」


「…………すっげぇ楽しい」


笑みを零さずには居られなかった。


口角が下がらない。まだワクワクしている。


一瞬の戦闘だったが、実にあっけなく倒されたが、


それでも。


「すっっっっげぇ楽しかったです!」


逆さまのシェリーを見上げながら答えると、鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしていた。


呆けた顔も絵になる人だな、なんて脈絡もない感想を抱きながら、身体を起こす。


「いやー負けたのはクッソ悔しいですけど...あの、キャラクター達と肩を並べて戦う感覚、接敵した時の緊張感、そして実際に動き回りながら作戦(ムーブ)を考える心体二重の疲労感! どれもたまんねぇです! たまんなかったです!」


なんて感想を言いながら、頭の中では先ほどの戦闘の反芻(はんすう)が止まらなかった。


漁る時間は、普段との状況の違いを考慮して早い方だった。問題はない。


しかし、その漁る場所が良くなかった。VC(ボイスチャット)を付けていない野良なのだから、何があっても直ぐに駆け付けられるよう、味方に近寄りながら漁るべきだったのだ。


結果、爆速で漁りを終えた隣町のチームがこちらの様子を見に来て、一人浮いていた野良が刈られてしまったのだ。


没入感の高い状況に浮かれていたのもマイナス評価だ。UIはいつもと変わらず、得られる情報も変わらなかったのだから、いつも通りにしていれば『味方と離れている』ことに気付けたはずだ。


次からは浮かれ過ぎないように気を付けよう。


という一人反省会を終えた段階で、ふと思う。


「.....あの、シェリーさん、ところであと何回プレイすることが......?」


『次』はあるのだろうか。


何度も試合が出来るだなんて一言も言われていない。さっきの即落ち2コマが最初で最後の没入型E:rosだったらどうしよう。ここに来て初めてテンションが落ちてきた。


せめてあと一回ぐらいはやらせて欲しいなぁ―――なんて思いながら、返事を待っていると。


「...............」


返事は無く、ただのしかばねのようだった。


電池を切られた人形のように、虚空を見つめてぼーっと立ち尽くしているシェリー。


「.....あの? シェリーさん?」


声を掛けると、緑の瞳に色が戻ってきた。

ハッとした表情でこちらに向き直り、


「あぁ、すまない。ちょっと用事を思い出していた。何だい?」


「あの、あとワタクシは何回プレイすることが..........」


「いいよ? 何回でもやってもらって」


「マジですか!!?!?」


「だっから急に近いんだって君は!」


スパァン!と訓練場に鳴り響く音。塞がれる視界。顔に張り付く何か。


確認してみると、ただの白紙だった。顔から剥がした途端に、手の中で光の塵となって空中分解していく。


「君はアレかい?このゲームの話になると途端にバグが発生するのかい?」


「.......えぇ。仰る通りかと思います」


「それは()()()()()もそうなのかな?」


「...............えぇ。元来より持ち合わせているモノでして..........」


他にも前科が無くは無いので、このゲームに入ったから発生したバグでは無いと断言できる。悲しい事に。


全部このゲームが悪い。人を熱狂させるこの優秀過ぎるゲームが悪い。そういう事にしておいて欲しい。


「難儀な性格だねぇ...まぁ、テスターでそこまで純粋に楽しんでくれたのは君が初めてだよ。そこは私としても嬉しいさ」


「そうなんですか...っていうか、他にもテスターって居るんですか?」


「もちろん。君だけを酷使するわけにはいかないからね」


言われてみればその通りだし、なんなら1人のユーザー、それもただの男子高校生の意見だけを参考にするというのも変な話だ。テスターが他に居て当然である。


どこにも姿が見えないので、勝手に自分一人だと錯覚してしまっていた。


「さ、そんな試運転(テスト)を楽しんでくれる君は、存分に試合(マッチ)へ赴いてくれたまえ。私は他にもやる事があるのでね」


「承知しましたぁ!!」


気持ち控え目に返事をしながら、再び試合(マッチ)へエントリーを行う。


それを確認してから、シェリーは訓練場の奥へと歩いて行った。


試合(マッチ)に飛ばされるまでの間、抑えきれないワクワクを抱えながら、先ほどの反省を頭の中で繰り返す。浮かれない。味方と離れ過ぎない、位置を確認する。




浮かれない、なんて事を考えていたのに。


この状況に完全に浮かれていたオレは、自身が置かれている状況に、その重大さに、一切気が付いていないのだった。


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