Chapter_5『やっと目を覚ましたかい』
「思ってたんと違う!!!」
実験を了承したオレは、手術台みたいな椅子にガッチガチに拘束されたのであった。
シェリーに促されるまま座り、背もたれに背中を預けるや否や、椅子から飛び出してきたぶっといベルトに固定されてしまった。身体の上から順に、首、二の腕、胸部、手首、腰、太もも、足首を。
つまり絶望的に逃げられない状況なわけで。
「何を想像していたんだい? これだから思春期の男子は...どこの国も変わらなものだ。呆れるよ」
「アンタこそ何想像してんだ!? こちとら命の危険を感じているんだが!?」
ご丁寧に関節を経るごとに縛られているので、ガタガタ動いても抜け出せる気配はなく、むしろガタガタ音が鳴るほども動けない。
一体これから何をしようというのか。R-18的な展開を想像してしまうのも無理は無いだろう。スプラッタ的な意味で。
「言っただろう、特にひどい目に合わせる予定は無いよ」
「じゃあこの拘束は!? こんなギッチギチにする意味は!?」
必死な訴えに答える前に、すっぽりとデバイスを被せてくるシェリー。
デバイス自体は軽く、被せられてもなんら違和感は無かった。100gも無さそうなヘッドギアがピッタリ頭にフィットしている。
あるいは、他の縛られている部位が気になり過ぎて、ギアの重さを感じ無いのだろうか。
「説明した通り、これから君の意識をゲームの中に送り込む。その為には、君の頭とデバイスがちゃんと繋がっている必要があるんだ。ここまではOK?」
「.....はい。そこまでは」
「では、仮にだ。君と言う人格データを送る最中で、デバイスと君の頭が離れてしまったら―――どうなると思う?」
「.....どうなるんです?」
「最悪の場合、君の人格データが吹っ飛ぶ可能性がある」
「..........つまり?」
「君はシぬ」
「何それ超怖い!!!」
「大丈夫だって。そうなら無い為の拘束さ。分かってくれたかい?」
そう言われれば縛られる理由は分かったのだが、しかしとんでもないリスクを聞かされ、余計に逃げ出したくなった。この拘束はむしろ逃がさない為の代物ではなかろうか。
「まぁ、とは言えだ。変に動いてくれるなよ少年?貴重な人材をこんなところで失いたく無いからね」
言いながら、クソデカデスクでPCを操作するシェリー。キーボードやマウスを操作する音が静かな研究室で木霊し、
やがて、周囲の機械が一斉に唸り始めた。
「え、待って。超怖い。一気に怖い。なにこれもう始まる?」
「察しが良いね、少年。準備は整ったぞ。覚悟は良いか?」
「無理。超無理」
「いい返事だ。行ってらっしゃい」
「人の話聞けぇ!?」
抗議の声も空しく、シェリーがリモコンのようなモノを、ポチリと操作する。
すると、機械の駆動する、腹をすかせた悪魔たちの大合唱のような音を聞きながら、オレの意識はブラックアウトして―――
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まるで、今まで息をするのを忘れていたように。
ハッ、と目が覚めた。
慌てて起き上がり、自分の手足を確認して―――
「.....あり?」
起き上がれた事にまず驚く。
ギッチギチに拘束されていたベルトは存在せず、頭に付けられたヘッドギアも無く、どころか拘束台すらも無い。
気絶(?)していた自分は、地面、それも砂まみれの、坂のような場所で寝転んでいたようで―――
「やっと目を覚ましたかい?」
声は、頭上からした。
聞き覚えのある声に振り向くと、さっきまでと変わらない、白衣着のシェリーの姿があった。
坂の途中に生えている岩場の上で、不敵に笑いながら、片膝を立てて座り込んでいる。
「気分はどうだい? 少年」
その、彼女が座っている岩場と、その岩場が立っている坂、地面、巻き起こる砂埃―――と周囲を見回す。
全体的に岩や砂だらけの景色。
そこかしこに設置された的。
太陽がさんさんと輝く青空。
遥か遠くに見える巨大生物、謎の飛行物体。
そして、坂の下に広がっている、武器や弾薬が置かれた、射撃場。
「..........す」
間違いない。幾度となく訪れた場所だ。
間違えるはずがない。
ここは、オレの愛して止まないゲーム、E:rosの『訓練場』で。
「すげぇぇぇぇぇぇーーーーーーー!!!!!」
オレは間違いなく、E:rosの世界に入り込んだのだと、そう確信した。
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