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E:ros ~バトロワFPSの世界にAIとして取り込まれました~  作者: 詞ノ創
第二章 ようこそ電子の世界へ
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Chapter_10『仲良く #とは』


「ではサーバーを移動します。3...2...1...」


桃のカウントダウンの後、動き回りながら取った写真のように、視界が一瞬激しくブレて―――




視界がもとに戻ると、これまでと変わらない光景が広がっていた。


訓練場の一画の、都市部を模したエリア。車などの遮蔽物が豊富に存在し、簡単な建物は勿論、地上7階程度の高さのビルまで存在している。


ここだけでミニゲーム用の新しいMAPとして実装されそうな、訓練場にしては気合入れすぎだろ、とE:rosユーザーなら誰もがツッコミを入れた事のあるこの場所で。


先ほどまでと異なる点が、2つ。


1つは、シェリーが居ない事。


もう1つは―――



『お前どこまで行った?』


『まだプラチナだよ。野良の引きが悪くてなー』


『オレもプラチナでスタックしてるわ』


『ソロランはキツイよなぁ本当。オレはダイヤ踏んだけど』


隙自語(すきじがた)りオツ』


『自慢オツ』


『はい(ひが)みオツ~w』


『はっはっは。上等だ表出ろやオルァ』



至る所に、E:rosのキャラクターが居る事だった。


「......すげぇ」


道路の上で取っ組み合いの喧嘩を始める3人組以外にも、カフェを模した建物の中に居る人達、車のボンネットに座って談笑する奴ら、アメコミヒーローの如くビルとビルの間を飛び去って行く人...と、ぱっと見渡しただけで、あらゆる場所にE:rosのキャラが存在していた。


いや、厳密にはキャラクターの衣装を身に纏ったプレイヤー達なのだろうが、実際に訓練場―――E:rosの世界でそれらの恰好を見ると、本当にキャラクター達が、話して動いて騒いでケンカしているように見える。


端的に言えば。


「テーマパークに来たみたいだな。テンション上がってきたわ」


しかし、バイブスがぶち上がってきたオレとは裏腹に、


「...では、その、私はこれで」


一緒にサーバー移動をしてきた桃は、早々に退場しようとしていた。


「え?これでって...説明とか、何か、こう...無くていいんですか?」


「えっと、さっきお姉ちゃんと話した通りの内容を、理解してもらえていれば大丈夫です。何かあれば呼んで下さい……」


おどおどしながらそう告げた桃は、足早にどこかへ去ってしまった。


何か嫌われるような事を言っただろうか、と首を傾げながら。


周りを見て、


早々に立ち去った理由を、なんとなく理解した。


『.......』


『.......』


『.......』


さっきまで各々の時間を過ごしていたプレイヤー達が、例外なく、オレに向かって―――正確には、オレから去っていく白衣の背中に向けて、冷たい視線をぶつけていたから。


オレが桃に嫌われた、というわけでは無く。


桃がここの連中から嫌われている、が正解なのかもしれない。


「......なるほどなぁ」


であれば、逃げるようにこの場を去ったのも理解できる。


いや、文字通り逃げたのだろう。


かつての自分のように。


冷たい視線、冷たい言葉、それらを吐き散らかす人間達の残酷さは、実によーく知っている。


よく知っている―――からこそ。


■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■。


「よう」


その冷たい目をしている中の1人、カフェに居た人物が、声を掛けてきた。


「お前が新入りだな?」


わざわざ店舗から出張ってきたその人は、一度見たら忘れることは無さそうな、特徴的な人物だった。


オレより10cmほど高いスリムな高身長に、首まで伸びたソバージュの黒髪、面長な顔、吊り上がった眼。


身に纏っている衣装が、蛇がモチーフのキャラクターである『Serpent(サーペント)』だったのも相まって、第一印象は『蛇みたいな人』だった。


その暫定呼称『蛇男』が、目の前に立ち塞がり。


ぬぅ、っと上から見下ろしてきた。


「話は聞いてるぜ。えらくE:rosが大好きだそうじゃないか」


「...えぇ。そうです。めっちゃ好きな新入りです」


なんて適当に答えたが、内心は鋭い目から放たれる鋭い眼光に委縮しまくりだった。


蛇に睨まれた蛙はこんな心境なのだろうか。そしてこの後オレは食われるのだろうか。


なんとも言えない沈黙が数秒続き、何か他にも言った方がいいのかなと頭を回転させていると。


「よろしくなっ!」


不意に蛇男が、ヘッドロックかと思うぐらいの勢いで肩を組んできた。


「よ......ヨロシクオネガイシマス」


一瞬混乱したが、攻撃ではなく友好のコミュニケーションだと判断し、こちらも一応返す。


「おう!ここでの生活は、良くはねぇが悪いもんでもねぇ。仲良くやっていこうぜ!」


ガッハッハ、と肩を組んだまま笑う蛇男。その体育会系的なノリに、自分でも顔が引きつっているのが分かる。


正直、苦手なノリだ。


そして苦手なタイプの人だ。


口に出したら色々と終わると思うので絶対に言わないが。


「分からない事があったら何でも聞けよ? オレ以外にも、他に仲間は居るんだからよ」


「は、はい、どうも...アリガトウゴザイマス」


蛇男に促されて、ヘッドロック、もとい肩を組まれたまま周りを見やる。


先ほどまで冷ややかな眼を向けていた人々は、例外なく元の談話に戻っていた。車のボンネットで若者達が語り合い、目が合ったカフェの人達はにこやかに手を振ってくれ、近くの路上では取っ組み合いの続きが行われている。


至極平和な光景だ。


銃を手に取り、最後の1組になるまで滅ぼし合うFPSの待機場とは思えない。


「で、なんか聞いときたい事はあるか?」


「あ~~......皆さんも、その、テスターなんですか?」


「そうだ。お前もシェリーに騙された口だろ?」


「騙されたというか...まぁそうか。騙されました」


新型デバイスの試験運用を頼みたい、と言って相手をゲームの中に鹵獲するのは『騙す』行為とみなして問題無いだろう。奴は詐欺師だ。オレがそう判断した。


「まぁ、ここで『お勤め』すればいずれ解放してくれるとのことだ。気長に頑張ろうぜ」


「.....そうですね」


このあたりでようやくヘッドロックが外れ、蛇男と改めて向き直る事が出来た。


苦手なタイプではあるが、悪い人ではなさそうなので、(あと絶対に敵に回したくないので)ちゃんと自己紹介をしておく。


「オレ、優斗って言います」


「優斗? 本名か? オレはRyu(リュー)ってんだ。よろしくな」


蛇だけど龍か。なるほど面白い。


なんて思ったが絶対に口に出さないようにした。具体的には首を90度横に曲げてRyu氏から目を背けた。


「ん? どした?」


「いえ、あの...テスターの人達って、ここに居る人達で全員ですか?」


「いいや。もっと居る。ここに居ない連中はみんなマスター帯の試合(マッチ)に駆り出されているさ」


「あー...そっか」


シェリーは言っていた。他にもテスターは存在する、と。

そして、そのテスターの存在理由は、オレの拉致監禁理由と同じだった。


すなわち『準備時間(マッチメイキング)問題の解決のための、偽物のAI』。


自分以外にもマスター経験者は幾人か捕獲されており、その先駆者たちは既に実戦投入されている―――という話をさっき聞いてきたところだ。


「だから、テスターが全員集まることはほぼ無い。マスターに到達した連中には特に会えない。オレとお前も、今日は会えたが、次はいつ会えるか分かんねぇな」


実際に駆り出されているらしいRyuの話を聞く限り、マスター帯の人員不足は甚だ深刻のようだ。激ムズ難度のリーグを駆け上がりきった廃人たちの集まりなので、人が少ないのは当たり前というか、システム上仕方なくはあるのだが。


その「仕方ない問題」にも対応しようとする点は、一利用者として非常に嬉しいし、そんな難題に挑む運営の姿勢には、本当に頭が上がらない。


方法さえ間違っていなければ、の話だが。


今のところは中指が下がってくれない。


「ま、お前はまずレベル上げか」


「そうですね。リーグに潜れるレベルまで上げないと―――」


なんて、自分でも珍しく思う、初対面の人との雑談をしている時だった。


さっきまで3人組による取っ組み合いが行われていた道路上に、突然、光の球体が生まれたのだ。


訓練場の青空から、一筋の光が垂直に、地面に突き刺さって。


硝子細工のビードロみたいに、着弾地点の光が、急速に膨れ上がるようにして。


「なっ、なんですかコレ!?」


「誰か帰ってきたな。これはテスターが試合(マッチ)から帰ってくるときの光景(エフェクト)だ」


そう語るRyuは、光の球体を笑顔で眺めていた。


のだが。


光が晴れ、人の姿がはっきり認識できるようになると。


その表情を一瞬で、険しいものに変えた。


「............」


光の中から現れた人物―――Void(ヴォイド)の服を身に纏った、若い男性と思わしき人は、周囲をきょろきょろ見回し。


新顔だからだろうか、オレの顔に視線が固定された。


「あ.....えっと、はじめまぷぎゅっ」


反射的に出た挨拶の言葉は、最後まで続けることが出来なかった。


手で口を塞がれたのだ。犯人はRyu。


突然の事に目を白黒させていると、そんな事はお構いなしに、Ryuが話し始める。


「コイツと仲良くする必要は無ぇ」


背後に回られているため顔は見えなかったが、声色からして嫌悪しまくっているのが丸わかりだった。


言葉と同時に、おそらく嫌な視線も向けられているであろうVoid(ヴォイド)の男は、深く深く息を吸いこみ。


ため息とも深呼吸の一環とも取れるような、深い深い息を吐いた。


そして。



「くっだらねぇな。まーた新人囲ってんのかよ」



オレが『絶対に敵に回したくない』と思った相手に対して、待っ正面から喧嘩を売りにいったのだった。


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