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E:ros ~バトロワFPSの世界にAIとして取り込まれました~  作者: 詞ノ創
第二章 ようこそ電子の世界へ
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Chapter_9『嘘でもソレは完全なAI』


ビル風が吹いて、3人の髪が揺れて。


吹いている間、シェリーが言っていた内容を、頭の中でかみ砕いて、咀嚼して。


風が落ち着いたぐらいのタイミングで、確認を取ってみた。


「......つまり帰さないって事ですか?」


「帰さないって事だね」


「聞いて無いんですが!?」


「そりゃね。そうは言ってなかったからね」


目の前の(あくま)が茶目っ気たっぷりにウィンクをして見せる一方で、その隣の妹は物凄く申し訳なさそうに顔を伏せていた。


だんだんこの姉妹の関係性が見えてきた気がする。


すなわち、邪知暴虐天衣無縫(すとらいくふりーだむ)な姉が暴走し、その後処理や面倒ごとに妹が駆り出される、とかそんな感じなのだろう。


なんてクソどうでもいい事を考えているあたり、思考が現実逃避をし始めたらしい。


落ち着け自分。

そんなことより考えることは山ほどある。


「ちょっと整理させてください。えーっと...?『アカウントが40レベルになるまで』とかなんとか言いました?」


「言ったね」


「40レベルになったらテスター終了って事ですか?」


「いいや?その後は『リーグ』に潜ってもらうよ」


「...リーグに何試合潜ればいいんですか?」


「何試合というか、ランクが『マスター』になるまで頑張ってもらおうかな」


「帰す気あるんかアンタ!?」


これまでにも出てきた『リーグ』という単語は、E:rosにおけるプレイヤーのランク、強さの度合いを明確に定める為の試合(マッチ)のことだ。


ランクはプレイヤーの強さに伴って、大きく7段階に分けられている。


一番下から、

 〇始めたての『ルーキー』

 〇操作を覚えた『ブロンズ』

 〇敵の倒し方を心得た『シルバー』

 〇中級者を名乗れる『ゴールド』

 〇上級者の入り口『プラチナ』

 〇一握りの強者『ダイヤ』

 〇廃人達の巣窟『マスター』


といった具合だ。


そして、シェリーは最上位の『マスター』に到達するまでプレイし続けろ、という。


無論、1日2日で到達できるものではない。普通なら1ヶ月以上、E:rosがアップデートされてから次のアップデートが始まるまでの期間丸々かけて、それでも到達できるか分からないというのに。


「第一そんなクッッッッソ長時間ゲームに潜ってたら現実のオレの身体はどうなるんですか!?干からびますよ!?帰る云々じゃなくてシにますって!」


「案ずるな少年。現実の君の身体がミイラ化しようと、今ここに存在している君の意識は消えないさ。幽体離脱しているようなものだと思ってくれ」


「あーそうなんですね。それなら安心するとでも思いましたか? あぁん?」


意識が無事だとしても、肉体がミイラになっていたら意味がなかろう。


どこぞの骨だけになってしまった海賊のように、腐敗した身体でも意識は帰る事が出来るのだろうか。


んなわけあるかい。オレはなんとかの実の能力者になった覚えはない。


「まぁまぁ、安心したまえ。現実の君の身体の生命は私が保障しよう。決して干からびたりなどしない」


「...えー...?」


「信じてくれなくても結構だが、私だって自分の開発室(ラボ)にミイラを置きたくないからね。処理にも困るし。君を死なせても私にメリットなんか無いよ」


それはその通りだろうが、しかしどうやって意識の無い体を維持させるのだろうか。生命維持装置とか凍結睡眠装置(コールドスリープ)の中にでも突っ込む気なのだろうか。


―――やりそう。


先ほどこの施設の近未来技術を目の当たりにした今、頭ごなしに否定出来ない。「なんかあった時の為に作らせた」とか言って用意してそう。


「あの、煎茶さん...いえ、桜川さん」


不意に、意識の外から声を掛けられた。

シェリーの「帰さない」カミングアウト以来、沈黙を保っていた桃だ。


「私の言葉も、どこまで信じてもらえるかは分かりませんが...姉の言っていることは本当です。貴方の身体は無事です。それだけは保証します」


終始ニヤニヤと顔を歪めているシェリーとは対照的に、真面目な表情の桃。

黒い瞳で真っすぐに見つめられ、思わず鵜呑みにしてしまいそうになるが、


「.....それ ()() は?」


それ以外に関しては保証できない、ということなのだろうか。


指摘すると、先ほどのように言い辛そうにしながらも、今度は濁さずに教えてくれた。


「.....姉は『マスターランクに到達するまで』、と聞こえるように言っていますが...実際はマスターに到達した後も、しばらくプレイして頂きたいのです」


「.........」


釈放のゴールが見えない。無限に遠ざけられる。つまり永遠に帰さないということだろうか。


言葉を失うとはこういう事か、と身をもって体感した。なんも言えねぇ。


「さて、ここからは私が引き継ごう。少年、君はアンケートでこう答えたな?『チーター多すぎて吐きそうどうにかしてくれ』と」


「...えぇ。言いました」


「ソレ以外で、現在E:rosが抱えている最大の問題は何だと思う?」


「チーター以外...?」


30億人が集う覇権ゲームにおける問題、と言われて、これまでの3,000時間の記憶を探ってみる。


各種細かいバグは存在するが、それらは致命的な問題ではない。ゲームシステムに関わる程のヤバイ奴なんて滅多に出て来ないし、あったとしてもすぐに修正が入る。


武器やキャラクターのパワーバランスも、現状に不満は上がっているらしいが、個人的には丁度いいと思っている。

というか、母数(プレイヤー)が30億もいるのだ。誰もが納得する調整は不可能だろう。


リーグのシステムも、上を目指すほどアホみたいな難易度になっていくが、それこそがリーグの醍醐味なわけで―――


「...あ、マッチングですか?」


そこまで考えて、つい最近自分がぶち当たった不満を思い出した。


「ご名答。リーグ上位帯の試合(マッチ)が決まるまでの準備時間(マッチメイキング)が長すぎるのさ」


つい数日前の出来事だ。

マスターを目指して、いわゆるダイヤ帯のリーグに挑んでいた時の話だが、これまで過ごしていたプラチナやゴールドなどの下層帯よりも、試合(マッチ)にかかる時間が長かったことを覚えている。


プラチナまでは1分経たずに試合(マッチ)が始まったところ、ダイヤでは1試合につき約3分程度掛かった。


3分、と言われると短く感じるかもしれないが「1試合待つたびにカップラーメンが出来上がる」と言われればどうだろうか。試合を始めるたびにその時間を待たされるプレイヤー達からすれば、どうにか改善して欲しいと願ってしまうのだ。


「上位帯で時間が掛かる理由は単純。上に行けば行くほど、プレイヤーの数が少なくなるからさ」


言いながら、シェリーは手元にリモコンのようなものを召喚し、空中に映像を投影し始める。


グラフだった。

E:rosのリーグをプレイしている人口の、どのランク帯にどの程度の割合が存在するか、の棒グラフだ。


ルーキーからランクが上がっていくに連れて割合は減少していき、ダイヤ以降は全体の5%にも満たない。


1試合に最低でも60人を必要とするE:rosでは、この5%未満のダイヤの実力者が、同じ時間に60人集まらなければ試合を始められない。対人バトロワゲームの避けられない難点だ。


そして、ダイヤよりも更に人数の少ない最上位のマスター帯では、待ち時間はダイヤの比ではない。1試合始まるまでに10分以上掛かる事もザラにあるそうだ。


「リーグの難易度を下げて『誰でもマスターに成れる』ようにして、上位帯の母数を無理やり増やすのが一番手っ取り早いのだが...それだと面白くないだろう?」


「...そうですね...しかも凄い反感買いそう......」


猛者との激闘の中で生を実感する変態共が、ソレを許容するとは思えない。味気の無くなったリーグで、化け物たちがつまらない無双劇を繰り広げるだけだろう。


もちろん、蹂躙される側も楽しい訳が無く。


つまり『事態解決と見せかけた誰も幸せにならない案』だ。


「そこでだ、私は考えた。『ダイヤ/マスターの強さに相応しい人員を安定して供給する』事が出来ればいいじゃないかと」


「それが出来たら苦労はしないんじゃ...」


「その通り。だから私は『人』ではなく『AI』を導入することにした」


「AIぃ?」


「おっと待った、言いたいことは分かるぞ少年。『ダイヤやマスターに匹敵するAIなんか作れるのかぁ?』と言いたいのだろう?」


「...全くもってその通りですけど」


「結論から言うと無理だね。作れない」


「破綻RTAじゃないですか」


「そこで君の出番、というわけさ。少年」


「...はい?」


AIの導入と、オレの意識の拉致・監禁がどのように結びつくのか。

その脈絡の無さそうな点と点を、桃が奇麗に繋げてくれた。


「桜川さんには、E:rosが導入したAIとして、マスター帯のリーグに参加して欲しいんです。その...試合(マッチ)に必要な60人のうちの1人として...」


「.........」


話が段々見えてきた。

見えない方が良かったかもしれない。


「素晴らしいだろう!?肉体を持たない君なら、常時ログイン状態!しかも睡眠や食事、その他諸々に掛かる時間も無く!24時間いつでも!マスターの実力者を試合(マッチ)に補充する事が可能!画期的じゃあないか!」


熱弁するシェリーの言葉を聞き流しながら。


この美人姉妹の言葉を自分なりに解釈し、


落とし込み、


端的に、


今の現状を表す言葉に置き換え―――


「...つまり、準備時間(マッチメイキング)問題の解決のために、オレは鹵獲されたと...?」


Exactlly(そのとおりだね)


「やかましいわ!!!こんな時だけネイティブ出してんじゃねぇよ!!!」


ケタケタと笑うシェリー、頭を抱えてうずくまるオレ、本当にすみませんとしきりに頭を下げる桃。


嘆こうが喚こうが、事態は変わることもなく。




こうしてオレは、世界的に大流行しているバトロワ系FPSゲームE:rosに、まさかの『AI』として、馬車馬のごとく参戦させられる事になるのであった。



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