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魔女はだーれだ

 私が列に並ぶと、私たちの前に濃ゆい髭を生やし、マリア聖騎士団の旗と同じ絵が描かれた銀の勲章を胸につけた壮年の騎士が出てきた。マリア聖騎士団内で銀の勲章をつけている人間は部隊の隊長だ。

「みんなは、パンドラという女を知っているかな?」

 知ってまーす!私が本人でーす!

 とはもちろん言えないので、手を挙げるだけで意思表示を示す。私以外にも何人かがおずおずと手を挙げている。

「半分くらいはいるね。残り半分の子たちのために説明すると、パンドラは7年前まで王国の王女だったんだ。ただ、その性格と行動は王族のものとは思えない…いや、人とは思えないものだった。あげられる悪逆はいくらでもあるが、特に人に対しては最悪の所業ばかり繰り返していた。気に入らないものは王城に呼び出して面白半分に処刑をし、国を良くしようとする大臣や財務官は、自分の贅沢な生活の邪魔になるからと国外へと追放している。なにより彼女は自分の肉親である王や女王さえ、強力な魔法で操り傀儡にしていたんだ。自分の望む楽園のために、全てを台無しにしたんだよ」

「……」

 まあ、間違ってはいない。私は私の意思で、いろんな人を傷つけた。そこは否定のしようがない。

 ただ一つ反論できるとしたら、楽園なんて望んだこともないという一点だけだ。とはいえこうやって別の人間として生まれ変わった以上、過去は過去、今は今だ。

 過去の私の尊厳を守るために、言葉を尽くして弁明できる機会は、今の私にはやってこないだろう。喉につっかえているこの苛立ちは、飲み干すしかない。

「とはいえ彼女は過去の人だ。王国歴777年に、彼女は絞首台の上で死んでいる…ああ、気分を悪くした子もいるみたいだね。すまない。でももう少し私の話を聞いて欲しいんだ」

 この平和な村では耳にも入らない過激な話にショックを受けて、顔を青ざめさせた子たちが何人かいるようだった。顔を白くさせて、地面に座り込んでいる子もいる。

「お、親を操るなんて!怖いねメアリーちゃん…」

「そう?私はそうでもないけど」

 私の隣のイヴちゃんも、ガタガタと体を震わせていた。それを見て、胸に嫌なものが広がった。

 前世と今世は関係ないと考えてはいるけれど、親友から嫌悪の対象にされていると思うと普通に傷つく。ため息をつくのを我慢して、代わりに騎士の方へと目を向けた。早く話を終わらせてと、視線に力を込めてだ。

 おそらく隊長だと思われる壮年の男性はぐるりと、私たちへとまんべんなく視線を向けている。ちょっと妙だと思った。てっきり気分が悪い子を心配しているのだなと思っていたけれど、視線が私とあった時、彼の目には疑いの色が強く見えていたからだ。

「パンドラについて話したのは、実は私たちがそのパンドラを探しているからなんだよ。みんなにはそれを手伝って欲しいんだ」

 しーんと、会堂が静かになる。みんな、この人は何を言っているんだろう、という目で騎士を見つめている。たぶん私1人を除いて。

「つい先日聖廟で、ある宣託が巫女に降った。『パンドラは生きている。彼女が生きている限り、王国には厄災が降りかかるであろう』とね。もちろんさっき話した通りパンドラは死んでいる。だから当然驚いたよ。今の君たちみたいに、何を言っているのかわからなかった。だが宣託が外れたことは一度もない。神の思念を聞く巫女が『パンドラは生きている』というのなら、やはり彼女は生きているんだ」

 ざわざわと、会堂が騒がしくなっていく。また1人、私だけを除いて。

「この魔力測定器で、みんなを調べさせてほしい」

 がらがらと音を立て、木の台車に乗ったのっぺりとした銀色の魔道具が私たちの前へとやってくる。その魔道具の前面には大きな水晶が嵌め込まれていて、魔道具の上空には水色の不可思議な模様が浮かんでは消えてを繰り返していた。

「かのパンドラは王国で禁忌とされる魔法をいくつも習得していた。この魔道具はそれを炙り出す。もしこれを装備した人間が禁忌の魔法を習得しているのなら、この水色の模様が真っ赤に変わる」

 再びじろりと、騎士の目が私たちに向けられる。やっとわかった。あれはこの選別に著しく動揺している人間、つまりパンドラを探していたのだ。

「それじゃあ、まずは一番怪しい、パンドラが死んだ年、もしくはその次の年に生まれた子から調べていこうか。私は信じていないが、魂は巡るものという話もある。もしかしたら死んだパンドラは赤ん坊の魂を奪い、取り憑いたのかも…そこの君」

 手招きされる。鋭い視線が私を見つめている。

「これの前に立って、手をかざしてくれるかい」

「…わかったわ」

 にっこりと笑って、私は後ろをぐるりと回りながら魔力測定器の前へと向かった。途中、なぜか顔中汗をびっしょりと垂らしながら私をチラチラと見ていたオーロカくんと目があったので、手を振っておいた。なぜか膝から崩れ落ちた。

「おいそこのきみ。大丈夫か?」

「だ、だだだ、大丈夫…じゃないです…」

「そ、そうか。仕方ない。きみの検査は後にしよう…誰か、彼を保健室へ」

 先生たちに運ばれていくオーロカくんを見送りながら、私は魔道具の前面にある水晶へと手をかざした。

「…反応なし。よし、次に行こう」

「は?」

 声がした方を見ると、カモネくんが信じられないと言わんばかりに目を大きく見開いて、私と私の前の魔道具を見つめていた。

「カモネくん。どうしたの?」

「ひっ!い、いえ!なんでもありません!」

 私から逃げるようにさっと顔を横に向けて、肩で息を始めるカモメくんを見ていると、ついおかしくなって笑ってしまった。

「きゃははは!どうしたの?オーロカくんも体調が悪そうだったけど、兄弟揃って風邪ひいちゃった?」

「い、いえ、違います…い、いや、やっぱお腹痛いかも…」

 あいたたた、と明らかに演技だとわかるくらいオーバーにお腹を抑えてうずくまるカモネくんを見て、また笑ってしまった。隊長さんは私とカモネくんを交互に見て、困ったように頬をかいていた。

「メアリーくん。この村の子たちはみんな、緊張に弱いタイプなのかい?」

「えぇそうみたい!普段はオーロカくんもカモネくんも、どちらかというと元気いっぱいで風邪なんて一回しか引いたことのない人たちなんだけど、今日はびっくりするくらい弱々しいわ!さっきの怖い話のせいかしら!きゃははは!」

「む、なんだか悪いことをしたみたいだな…えぇとみんな、そんなに怯えなくていいからな!この検査は危ないものじゃないぞー!」

 威厳たっぷりだった隊長さんが少し慌てながら、身振り手振りで子供たちを安心させようとしているのがおかしくてまた笑ってしまう。流石に笑いすぎたのか、騎士さんたちの目がじーっと睨むようなものになってきた。ごめんなさいね、と軽くお辞儀をしながら、私は元の位置へと戻っていった。

「わ、私も行ってくるねメアリーちゃん!」

「うん!いってらしゃーい!」

 ちょっと緊張しながら魔道具へかけていくイヴちゃんを見送っていると、アントンくんが私にじっと視線を向けているのに気づいた。

「どうしたの?そんなに見つめて」

「正直…ああいや、やっぱりいい」

「えーなにその言い方。気になるー」

 逆にじーっと視線を送ってやると、アントンくんは真正面に視線を向けたまま動かなくなってしまった。

「正直、赤くなると思ったでしょ?」

「……」

 アントンくんは焦ると左の人差し指でトントンと、腕や足を叩く癖がある。アントンくんはふーっと一息をついた後腕を組んでその癖をし始めた。わかりやすくてすごく可愛い。

 なんで赤くならなかったのか、その理由は二つある。

 一つ、私はあの魔道具を生前見たことがあり、最初の魔力感知で魔力が0と判定された者はその時点で検査を打ち切ることを知っていたから。

 二つ、私は一時的にだけ魔力を0にすることができるからだ。

 色々な魔術を合成して作った『ポケット』という魔術がある。この魔術は空間を裂いて、その中に物を無尽蔵に入れることができる。ポケットの中には私が生前溜め込んでおいた魔道具がいくつもあり、魔力をストックする魔道具『魔蓄箱』もその一つだった。

 魔力検査機のところに行く前にポケットを使って、中にある魔蓄箱を引き寄せ魔力を全部流し込み、あとはその状態で魔道具に手をかざせば、反応なしで検査は終了する。

 ポケットの中は私以外視認できないから、誰も私が何かをしたことにすら気づいていないだろう。

 とはいえ、正直パンドラを探していると聞いた時は本当に焦った。あんな安くて判断基準が少ない魔道具ではなく、貴族が使うような精密に調べる魔道具を使われていたら、この場ではどうしようもなかった。

 本当に何事もなくてよかった、と一息ついていると、前がザワザワしていることに気づいた。背が高い人が多くて前が見えない。なんだろうと、大きく跳ねてみた。

 目に映ったのは、真っ赤になって大きく唸る不可思議な紋様の前でへたり込み、私に助けを求めるように視線を向けているイヴちゃんだった。

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