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今世でもお世話になりますね

 あれから2年後、私は7歳になった。

「メアリーちゃーん!」

 席に座って考え事をしていると、左からイヴちゃんが抱きついてきた。私の肩を両腕で囲むように回し、私の頭を胸にぎゅーっと押し当ててくる。

「イヴちゃんどうしたの?」

「んー、なんでもない!抱きつきたくなっただけー!」

「そっかー」

 よしよしと、左手を背中から回して頭を撫でてやると、イヴちゃんはえへへーと幸せそうに笑う。私とイヴちゃんはこの学校に入ってからの3年間で大の親友と呼べるくらい、仲良くなっていた。

 がらがらと扉が開き、入ってきた人物と目が合う。幼いながらも知性を宿した瞳からは、将来賢者になるような威風が感じられた。

「メアリー。今年もよろしくな」

「うん。よろしくね、アントンくん」

 あのお見舞いの日から1週間後、ベイ3兄弟はちゃんと学校に来るようになった。学年が変わり、クラスが変わった今でもオーロカくんは私からできるだけ距離を取ろうとビクビクしているし、次男のカモネくんも私にはあんまり近づかない。

 けどアントンくんだけはあの日以降、私に対して積極的に話しかけてくるようになった。好きなもの、魔法について、嫌いなこと、勉強について、そして私の好きな図書館について聞いてきた。

 それに答えているうちに最初の仲良くなれなさそうなわんぱく坊主という悪印象はだんだんと抜けていって、だんだん彼のことが好きになっていった。

 アントンくんは私がちょっと難しいかなと思うことまで、興味津々で聞いてくれる。それに私が好きな本のことにも興味を持ってくれて、私がおすすめした本は全部読んでくれた。ここまでされて好きにならない人がいたら、その人はよっぽどの偏屈家さんだと思う。

 1年くらい経った時に、アントンくんから言われた言葉がある。

『メアリー。最近になってようやくお前のことがわかってきたよ』

 どうやら彼は私のことがわからなかったから、わかるようになりたかったみたいだ。納得と同時に気になって『私ってどんな人だった?』と聞き返したらこんな答えが返ってきた。

『みんなに優しい良いやつだし、すごく頭もよくて説明の仕方も上手、おまけに話しててすごく楽しい』

『えへへー。それほどでもー』

『けど、やっぱり怖い』

 少し悲しそうな目をしながらそう言われた。なんだか声をかけちゃいけないような気がして、『そうなんだ?』とだけ言って話は終わった。

 イヴちゃんが親友なら、アントンくんは仲のいい幼馴染と言えばいいだろうか。今世では7歳のうちに、大切な存在が2人もできた。

 ほんとうに、幸せすぎる。親友と幼馴染と一緒に学校生活をして、家に帰ったら優しいお母さんと一緒にご飯を食べる。村の人たちもみんな私に優しく話しかけてくれるし、種類は少ないけれど、本もただで図書館で読むことができる。 

 今の私の生活には、なに一つ不満がなかった。

「みんなー!ちょっと外に出てー!会堂に集合!村長からの呼び出しだってー!」

 外から1年の頃からお世話になっているジュリア先生の声が聞こえてくる。私たちはお互い困惑した顔を見合わせて外に出た。

 廊下を歩いていると、バカンと音を立てて、私が踏んだ床が抜けた。2人に心配されながら足を引き抜くと、切れ端に引っかかったのか、腿のあたりから血がダラダラと流れ出ていた。

 悪いことが起こりそうな予感がした。今から行く会堂には一体なにが待っているのか、バクバクと嫌に脈打つ心臓を押さえながら、私は会堂へとむかった。


♦︎♦︎♦︎


 会堂に入った瞬間嫌なものが目に飛び込んできて、うわっと声に出しそうになった。

 それは旗だった。旗には白いヴェールを被った女を真ん中に、赤と黒の刃がついた剣を交差させた絵が描かれている。その旗は会堂の中に4つ点々と立っていて、旗の下には甲冑をきた騎士が数人たむろしていた。

 私たちにチラリと顔をむけて、彼らは再び談笑を始める。あいかわらず無駄なお喋りが好きな団員が多い…というのをこれで判断するのは、さすがに焦燥かな?

「マリア聖騎士団の騎士が、なんで、こんなに…」

 呆然とアントンくんが呟くのを、イヴちゃんが『マリア聖騎士団?』と繰り返す。

「ねーメアリーちゃん。マリア聖騎士団ってなに?」

「えーっとね。マリア聖騎士団は一言で言うと…魔女狩り部隊って言えばいいかなー」

 内情はともかく、世間での評価は良くも悪くもない騎士団だから、とりあえず事実だけを口にしていこうと思う。

「魔女、狩り?」

「そう!わるーい魔法を使う魔女を捕まえて、王城に連れていっちゃうの!そして牢に閉じ込めてー…悪いことをしないか聞いて、しないって言ったら監視がつくけど、ちゃんと釈放してくれるの!王国の安全を守ってる良い人たちなんだー!」

「…する、ってもし言っちゃったら?悪い魔女だったら?」

「死刑」

 自分でもわかるくらい、感情が1ミリもこもっていない冷たい声がすっと、口から出てきた。

 失敗したなー。イヴちゃんがぱっと私から離れて、顔を青ざめさせている。イヴちゃんは血や暴力、幽霊に呪いといった危ないことは聞くのも見るのもダメな臆病な性格なのだ。だから普段はこういうことは明るく冗談まじりに喋っていたんだけど…。

 生前の私の死因にあの人たちが関わっているから、楽しげには喋れなかった。

「イヴちゃん!怖がらせてごめん!」

「う、ううん!わ、私は大丈夫だよ!それよりメアリーちゃんこそ、その…大丈夫?」

「私?なんで?」

「それは、えっと…ううん、なんでもない!きっと気のせいだよね!わ、私先にあっちで待ってるね!」

 あははと明らかに無理に笑いながら、イヴちゃんはぱたぱたと学校の生徒全員が集められている会堂南へと走っていった。

「俺も先に行くよ」

「えー急にみんなどうしたの?私を置いていかないでよー」

「メアリー。自分じゃわからないと思うから言うけど…今怖い顔してるからな」

「え、嘘。ほんと?」

 頬に手を当てて揉みほぐしておく。緊張して強張ってたのかな。

「こら、そこの君。早くあっちへ…」

「ん?」

「…なんで頬をモミモミしてるんだ?」

「王都の騎士さんたちに会えたから緊張しちゃって…顔が強張ってたから、ほぐしてたの!」

「…あははははっ!面白いなきみは!緊張がとれたらでいいから、ちゃんとみんなのところに行くんだぞ!」

「ふぁーい!」

 あははははっ、とまた大きく笑って騎士は去って行った。 

 …第一印象は良くできたかな。騎士とは前世では処刑当日まで険悪な関係しか気づかなかったけど、今世ではできれば仲良くしたいなー。

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