誰だって贈り物は嬉しいのです
「メアリーちゃん!はやくはやくー!」
「イヴちゃんはやいよー!」
試しなぐりをしてから今日でちょうど1週間、私とイヴちゃんはすっかり仲良しになっていた。今は村のはずれの花畑に追いかけっこをしながら向かっているところだ。
空は青く澄み切っていて雲一つなく、地面には色とりどりの花が咲いている。すっかり緊張も解けて私に眩しいくらいの笑顔を向けてくれるイヴちゃんはこっちこっちと、遠くから手招きをしている。
「花かんむり作るね!すきな花はある?」
「ぜんぶ!」
「あはは!わたしもぜんぶ好き!いっしょだね!」
イヴちゃんはそういうと近くにあった花を丁寧に一つづつ引き抜いていく。
「わたしもてつだおっか?」
「う、ううん!これはわたしが作るよ!ちょっとまってて……よし、あともうちょっと……できた!はいメアリーちゃん!被ってみて!」
黄色、白色、赤色に紫色と、カラフルな花と緑の茎で作られた花冠はとても綺麗な円を描いていた。イヴちゃんは被ってみてと言いながら出来具合が気になっていたのか、わたしが動くまもなく頭に花冠を乗せてきた。近くに湖などがないから自分が今どんな格好なのかはわからないけど、イヴちゃんのパーっと華やいでいく表情から察するに、かなり可愛くなれているんだなと思う。
「きゃははっ!ありがとうイヴちゃん!どうかな?かわいい?」
「うん!メアリーちゃんのツヤツヤなきんの髪にぴったり!まるで物語にでてくるお姫様みたい!」
「ほんと!ありがとー!でもイヴちゃんの方がきっと似合うと思うよ!ほら!」
頭にのった花冠をイヴちゃんに載せてみる。イヴちゃんは照れくさそうに頬を染めながら、チラチラと横目で私を見てくる。
「に、にあう…?わたしメアリーちゃんと違ってかわいくないから、その、お花なんて似合わないんじゃ…どうかな…?」
「せいしょにでてくる天使さんよりもキラキラしてて、すっごくきれいだって思うなー!わたし天国に行くときになったら、よくわからない天使さんなんかより、その花かんむりをつけたイヴちゃんにお迎えにきてほしい!そしたらすっごく安心できるもん!」
「も、もう!め、メアリーちゃんったらまたそんな大げさなこと言って…!わ、わたし本気にしちゃうんだからね…!」
顔を真っ赤にしたイヴちゃんが可愛らしくて笑っていると、イヴちゃんも少し笑いながら作った花冠をわたしに差し出してきた。
「メアリーちゃんにこれ、あげる!」
「え、いいの?イヴちゃんがせっかく作ったのに」
「いいの!メアリーちゃんにプレゼントだよ!入学式の日わたしに声をかけてくれて、本当にありがとう!」
イヴちゃんは目をキラキラさせながら、私が花冠を受け取るのを待っている。そうか、さっき手伝いを断ったのは自分の手で作った花冠を、私にプレゼントしたかったからだったんだ。
「えっ、メアリーちゃん!?なんで泣いてるの!?」
胸に熱いものが込み上げてきて、目から涙がポロポロと流れ出す。純粋に嬉しいという気持ちが大きすぎて、感情が抑えられない。感極まって口が動かなかったので、私は頭だけ何度も下げて感謝の意を伝えながら、少し震えた手でイヴちゃんからの贈り物を受け取った。
転生する前、こんな風に気持ちが込められた贈り物を直接本人から貰ったことは一度もない。私は王女だったから、贈り物を貰う時も両親や専属の侍女など、必ず誰かが間に入った。贈り物に危険な物や私の心を傷つけるような手紙が入っていないか確認するためだ。
彼らが間に入ると、私に送られてくる贈り物はほとんどなくなる。それも年に5〜10個、それもただの礼儀として送られてくるものがほとんどだ。毎年同じのメッセージとともに、好みでもなんでもないペンダントや宝石を貰っても、心はまったくというほど動かなかった。
それなのに今、ただ1つの花冠を贈られただけで、私の心はこんなにも揺れ動いている。ああ、人から贈り物を貰うことって、こんなにも気持ちが嬉しくなるものなんだと、私は初めて知った。
「だ、大丈夫!ちょっと胸が苦しくなっただけだから…本当にありがとうイヴちゃん!わたし、この花かんむり一生大事にするね!」
「う、うん!喜んでくれてよかった……あ、で、でも一生はしなくてもだいじょうぶだよ。花は抜くとしおれちゃうから…」
「そこはだいじょうぶ!まほうを使えば今のままのじょうたいにできちゃうから!ん、あ、まほうでおもいだした!ねぇイヴちゃん!わたしにも花かんむりの作り方教えてくれない?わたしにもあげたい相手がいるの!」
それからイヴちゃんに花冠の作り方を教わって、イヴちゃんに一つ、お母さんとお父さん用に二つ、色とりどりの花冠を作った。それに魔法をかけた物の状態を保存する『キープ』の魔法をかけていると、イヴちゃんから不思議なことを聞かれた。
「メアリーちゃん、このまほうだれから習ったの…?私こんなのみたことないよ」
「ないしょー。あ、それよりも。あの3人兄弟はまほうについて知らなかったみたいだけど、イヴちゃんはまほうのことは知っているの?」
「え、あ、ううん!?た、ただそういうことができる人もいるって聞いただけで、私のお母さんが使ってるとかそういうんじゃないよ!?」
「そうなんだー」
どう見ても知っている反応だし使ってるところも見たことあるみたいだけど、イヴちゃんが隠したそうにしているので黙っておくことにした。
イヴちゃんは私から貰った花冠を嬉しそうに抱いて、『わたしも一生だいじにするね』と言って帰って行った。イヴちゃんの姿が見えなくなるまで手を振ったあと、私はもう一つ白の花だけで花冠を作り、事前に聞いておいたベイ一家の住む家まで歩き始めた。
ベイ3兄弟が不登校になってから今日で1週間だ。そろそろお見舞いに行こうと思っていたから、この花冠を手土産に持っていこう。あの荒くれ坊主がこんな可愛らしい花冠をもらって喜んでくれるかはわからないが、私は自分で彼が好きそうな贈り物を買うお金がないから、こうやって自作するしかない。
まあ機嫌を悪くさせてしまったらまた見舞いの品を考えればいい。様子見も兼ねてとりあえずお邪魔しよう。




