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ある悪女の死。そして転生

話が通じるのに意思疎通ができない人外女が好きで書きました。好評なら続けたい。

 ガチャガチャと、狭い通路の中に鎧が擦れる音が響く。

「殺せ!殺せ!」

「早く出せ!娘の仇を!」

 通路の出口からは汚い罵詈雑言が響き渡る。

「…はぁ」

 ギロリと、本気の殺意が込められた視線が私に向けられる。ため息をついたのがバレたらしい。

「……貴様、なんだその態度は」

「あはは。ごめんごめん、今のは私が悪かったね。でも怒らないでよ。どうせ死ぬ相手に殺意を向けるなんて時間の無駄、いったぁい!?」

 背後から胸の辺りを殴られたらしい。呼吸が一瞬止まり、思わず膝をつく。剥き出しの膝頭が痛むのに苦しむ間もなく、靴下さえ履いていない足の裏を踏み潰され、私は絶叫した。

「……めんどくさいな……ほんと」

 足の骨を砕かれて歩けなくなったので、私の足を潰した兵士に地面を引きずってもらいながら、私はぼやく。足の痛みも胸の痛みも消えていないから、声を出すのも一苦労、それでも言わずにはいられなかった。

 めんどうくさい。殺すならわざわざ処刑台なんてとこに送らず、牢で殺せばいいだろうにと。

 そう。私は今から死ぬ。国を崩壊させた最悪の王女、パンドラとして死ぬ。

 死に方は割と苦しい上になかなか死なない首吊りと聞いている。私は痛みなく死ねると噂のギロチンでやってくれと頼んだけど、『お前が苦しまずに死ぬなど民衆が納得しない』とか言うよくわからない理由で却下された。どんなやり方で死のうが、被害者は納得なんてしないだろう。わけがわからない。

 処刑台に到着した後は、首吊り縄まで自力で歩かされた。何度も何度も転びながら、その度に蹴られ踏まれた。それから逃げるようにして首吊り縄まで辿り着き、首吊り縄に自分で首をかけた。

 ふぅ、これでもう蹴られないなと、安堵の息をつく。死ぬ前とはいえ、痛いのは嫌だ。だから文字通り死ぬ気でここまで逃げた。ちょっとみっともないなと自覚して、羞恥で顔が赤く染まる。

 それを見た被害者たちが、再びわっと声を上げる。彼らの目はさまざまな感情の色で埋められていた。憤怒、嘲り、好奇、憐憫、傲慢など、碌なものがない。私が死んだとして、彼らの感情が昇華されるとは到底思えなかった。

「パンドラよ。お前に対して怒りを向けるこの者たちを前にして、何か言い残すことはあるか」

 高そうな服を着たまだ20歳くらいの青年が、私にそう問いかけてくる。状況を見るに彼はどうやら、私の処刑を任された処刑人らしい。その目にはどんな感情も宿っていない。彼は職務上、必要だから聞いたのだろう。答えが返ってくることは望んでいない。

「……本当はもう恥ずかしくってしょうがないから、何も言わずに逝こうと思ったんだけど、あなたの瞳が気に入ったから言うわ。あなたは割と好きなタイプよ。私今まで生きてきた人生の中で、うるさい人間としか接してこなかったから、あなたみたいに寡黙なタイプに憧れていたの」

「…………」

 露骨に顔を顰められた。それがちょっと面白くてくすくすと笑ってしまう。

「「「……」」」

 あら、被害者の人たちの顔が憤怒一色になっちゃった。

 処刑台の上に1人の男が、鍬を持って上がってくる。近くにいた兵士が止めようとするが、男は持っていた鍬で兵士を殴り倒し、私の顔面にも鍬を叩きつけてきた。地面に倒れ込んだ瞬間、2撃目、3撃目と鍬が顔に叩き込まれる。

「お、お前みたいな、お前みたいなクソ野郎が!人でなしがいるから、この国はおかしくなったんだ!!!死ねぇ!!!」

 バキ、と鍬の持ち手が折れる音が最後に聞こえて、それからは何も聞こえなくなった。耳がちぎれたのか、頭に異常が起きたのかはわからない。視界も真っ赤で、何も見えない。

 困ったな。

 死ぬ前には必ず、笑顔で死のうと思っていたのに。死ぬときまで辛気臭く、周囲の空気に合わせて振る舞いたくはなかった。楽しいことがほとんどなかった人生の最後くらい、笑顔で終わらせたかった。

 体が動かないし、生きているという実感も、冷たい地面の感覚も薄れていく。何もかもが消えていく。

 本当に困ったなぁ。これじゃ今私が笑っているのか泣いてるのか、まったく、わからないじゃないか……。


♦︎♦︎♦︎


 というのが3年前、パンドラの人生が終わった王国歴777年の出来事です。そう、なんと私はラッキーセブンの年に私は死んだ超幸運女子(没年18歳)だったのである!

 そんな幸運の星に生まれたからか、死んだ次の日に私は赤ん坊になって転生した。『悪魔の生まれ変わり』、『王国の凶星』、『人の心を持たない気狂い』。

 そして『サイコパス王女』と呼ばれた私、パンドラは名前も姿も変えて、メアリー・スー3歳として今、女児の勤めのおままごとをして遊んでます。

「きゃはははは!きゃはははは!きぃーひっひっひっ!」

「あらーメアリーちゃん。そんなに楽しそうにしてどうしたの?」

 生前は『魔女の笑い声』として耳障りと言われたこの笑い方も、お母様にはたいそうご好評のようです。今世では笑い方で嫌われる心配はなさそう。変わり者のお母様で良かったー。

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