ピラルクの鱗|心のぬくもり幻想舎
「ピラルクってずいぶんと大きいのね」
普段あまり感情を表に出さない僕の彼女は、分厚いガラスの向こうで泳ぐ古代魚を見つめた。
「1億年前からこのままの姿らしいよ」
「…進化も退化もしていないなんて、なんだか複雑」
彼女がこんなにも興味を示すなんて珍しい…
少しはこの水族館を楽しんでいてくれているのだろうか。
「でもほら、鱗がとってもきれいだよ。きっと1億年前からこの姿を見せるために変わらないでいてくれたんじゃないのかな」
アマゾン川コーナーの真ん中で足を止めた僕たちは、静かに流れる川の音に耳を傾ける。
雑音がないおかげで、目の前の大きな水槽に集中できた。
「ほんと…鱗が輝いて見えるわ」
「ね?」
「私も、彼らのような美しい姿になれるかしら」
少し寂しそうに、どこか羨ましそうに、彼女はじっと目を見張る。
瞳の奥にはピラルクの鱗が映り、キラキラと日の光を浴びて輝いていた。
“君は充分きれいだよ”
その言葉はまだ恥ずかしくて言えないけれど、いつか伝えたいと、僕は思った。
fin.
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こちらでは毎週月曜日に、1分ほどで読める短編小説を2本アップします。
日々をめまぐるしく過ごす貴方に向けて書きました。
愛することを、愛されることを、思い出してみませんか?
ここは疲れた心をちょっとだけ癒せる幻想舎。
別の短編小説もお楽しみに。
前週分はInstagram(@ousaka_ojigisou)に先にアップしています。早く読みたい方は、あわせてチェックしてみてくださいませ。
大野